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15/初めての錬金術

 春先になって水仕事が楽になった頃。

 いつものように座学の勉強の準備をしていた時でした。


「さて。そろそろ錬金術の実技に入りましょうか」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。最低ラインはもう終えたし、貴方もレシピはちゃんと覚えてるわよね?」

「お師匠様の言う通り、初級の水薬(ポーション)軟膏クリームなら分量も含めて暗唱出来ます」

「よろしい。

 じゃあ、こっちの部屋にいらっしゃい」


 そう言って呼ばれたのは、危険だからと入るのを禁じられた調合室。

 扉を開けるとなんとも言えない臭いが漂ってくる。


 ――この部屋、掃除もさせてもらえないから凄い臭い……。


 掃除をしてないからか、それとも素材特有の臭いかはわかりませんけど。

 それでも少しくらいは変わると思うのに。

 とはいえ、お師匠様が危険だと判断したのだから仕方ない。


 部屋の中央には大きな壺……いえ、釜でしょうか。

 左右には作業台と、素材の下ごしらえや量を計るための器具がたくさん。

 そこまでは綺麗に整っているけど、その他はごちゃごちゃといろんな素材が山盛りでした。

 ……あ。ここにも本が……。

 本は本棚に入れましょう。お師匠様……。


「さて。じゃあ、錬金術を行うに当たって、そもそも錬金術とはどういうことをする技術か。

 それを言ってもらいましょうか」

「はい。かしこまりました」


 錬金術とは、万物に宿る魔力とその属性や特性をかけ合わせ、別の物にする変換術式である。

 薬を作りたいなら、薬がカテゴリされてる大カテゴリの地属性の物と、癒やしがカテゴリされている大カテゴリ水属性をかけ合わせれば可能だ。


 ただし、この時にもともと薬に向いてる効能がある植物や、きれいな水を使用した方が、品質が良い高性能な物が作れる。

 そしてこの場合のレシピとは、安定した性能の物質を作るために用意するための材料と作り方。


 また、錬金術は以下の流れで行われる。


 まず錬金釜と呼ばれる錬金術を行うための釜に素材を入れる。

 そして、その素材と自身の魔力のこもった液体を撹拌する事で内部で素材が分解される。

 分解された後、魔力を注ぎながら、「薬を作る」という意識を持ってかき混ぜると薬へと変換されていく。


 最後に、入れ物を中に入れて蓋をすると、入れ物に入った状態で出来上がる――という流れだ。


 口頭でそれを述べるとお師匠様は満足そうに頷く。


「よく出来ました。

 まずは水薬(ポーション)を作ってみましょう。

 間違ってる時は私が口を挟むから、素材の下拵えから順にやってみなさい。

 素材はそっちの棚から良いと思うのを使って良いわ」

「かしこまりました」


 では初めての錬金術……頑張ってみましょう!


 少しわくわくしながら素材の選別から始める。

 必要なのはまず薬草。水薬(ポーション)だから疲労回復に向いたものが良い。


 いくつか見繕い、井戸水を用意する。

 この井戸水は普段から使ってるけどすごく澄んで綺麗だから、お薬にするには最適だ。


 それから最後に入れ物を用意する。

 料理でもそうだけど、まずは必要な物を必要量にそろえてから始めると効率が良いらしい。

 あれもこれもと調合中に探してると、失敗の元だものね。


 トントントンと包丁を使ってハーブを小さく切る。

 大きさを均等に、そして小さく切ることで分解されやすくなるからだ。


「では、錬金術を行います。

 ……お師匠様。ここまでで問題はありました?」

「大丈夫よ。そのまま続けてちょうだい」


 返事の代わりにこくりと頷き、私は材料を順に釜へと入れる。

 そして最後に、お師匠様から渡された杖で釜の縁をぐるりとなぞった。


 すると釜に油膜のような薄い膜が貼られる。

 杖を入れてゆっくりと撹拌し始めた。

 この時に大事なのは、イメージだ。


 ――疲労を良く回復する薬になりますように。


 ぐるぐる。


 ぐるぐる。


 ゆっくりとかき回す。

 杖から魔力が滲み出るように釜へと流れていく。


 ぐるぐる。


 ぐるぐる。


 どれくらいかき混ぜただろう、冷たい水が沸く位の時間だろうか。

 最初は半透明だった油膜が、中身が見えなくなるほどに薄い青色を帯びた白になった。


 ここまで来たら小瓶を中へとそっと入れる。

 その後釜に蓋をして少し待つ。


 すると、蓋の隙間から少しだけ光が溢れて収まった。


 そっと蓋を開けると、すでに油膜はなく。

 中には小瓶に入った水薬(ポーション)だけがあった。


 小瓶を取り出しお師匠様へと手渡す。


「お師匠様。出来ました」

「ん。じゃ、品質を調べましょうか」


 そう言って何やら紙を取り出し、水薬(ポーション)に浸けて反応を見た。


 あぁ……ドキドキする。

 うまく出来たのだろうか。

 一応反応はちゃんと教えて頂いた通りのはずだけど……。


 家庭教師に試験を出された時を思い出すわ……。

 心臓の音は比じゃないけど。


 ややあって。

 お師匠様は小瓶の蓋を閉めて私を見る。


「ん。合格。凄いじゃない。

 初めての錬金術でちゃんとレシピ通りの品が出来てる。

 しかも品質も割りと良い。

 ――全属性だとこんなにも有利になるのねぇ」


 ……良かった。

 たとえ全属性が原因の一つだとしても、ちゃんと作れてるのは本当に良かった。


「……ちょっとここにしゃがんでくれる?」

「はい? かしこまりました」


 ちょいちょいと手招きされて、お師匠様が座ってる椅子の前で片膝をついてしゃがむ。


 すると、ぽんぽんとお師匠様の手が私の頭を撫でた。


「全属性だからって、一回で成功するはずないもの。

 貴方が真面目にちゃんと勉強して、私の教えた通りにやったから上手に出来たの。

 良く出来ました」


 そして小さく「全属性だからだなんて言ってごめんなさいね」と言う。


 気にしていませんお師匠様。

 例え全属性に依存してたとしても、両親が私にくれた才能です。

 そしてその才能を、使うために鍛えてくれたお師匠様のお陰ですから。


 そう言いたくて……溢れた声は震えてた。

 涙がぽろぽろと頬を伝う。


 胸が熱い。

 泣きたくなんてないのに、涙は溢れ続ける。


 努力が認められたのが嬉しかった。

 誰かに頭を撫でてもらえたのが、嬉しかった。


 もう誰も私を撫でてくれたりしないから。

 グレゴリー達は敬ってくれるけど、頭を撫でたりはしてくれない。

 継母様も弟が生まれてからは私を撫でてくれなくなった。


 ――私、子供じゃないのに。


 世間的に言えば、15歳になれば大人だ。

 なのに私ったら……格好悪い。


 だけど、お師匠様はそれを笑うことなく優しく撫で続けてくれた。



* * *



 初めての釜錬金を成功した日から。

 私はいくつかのレシピを教えてもらい、何度も作った。


 驚いたのは、食べ物すら錬金術で作れたことだ。

 ……しかも簡単かつ時短で作れるのだから恐ろしい……。


 マーサが聞いたら怒るわね。これ。

 まぁ、今の所私が知ってるレシピは簡単な野菜スープとかだけですが。

 ……複雑な物も作れるとしたら本気で怒りそう。


 牽制や威嚇目的のかんしゃく玉の作り方も教わったので、最低限の初級レシピは修めたと言って良い。

 新しい物を作る度に心が踊る。


 錬金術は私に合っていたみたい。


「よっこらしょ、と」


 本日の予定は倉庫の掃除と片付けだ。

 今、倉庫の片隅には私が作った水薬(ポーション)軟膏クリーム魔術道具(マジック・アイテム)類が並んでいる。


 そして、それは日々少しずつ増えていた。


 お師匠様にしてみれば、なんてこと無い簡単で、効果の弱いそれら。

 だけど、何もできなかった私が生み出した物。


 お父様やお母様が。お師匠様が。

 私に授けてくれた技術と知識と才能の成果。


 それは何も持たない無力だった私が、手に入れた力と言える。


 ……少しだけ、強くなれた……かな?



* * *



 暖かくなった日差しを感じながら、朝を悟る。

 身体を伸ばして、ベッドから降りて身支度。


 それから朝食を作る前にお師匠様を起こしに向かう。


「お師匠様。おはようございます。朝ですよ」


 言いながら扉を開けて、私は固まった。


 見慣れた小さめのベッドには見知らぬ人物がいた。

 お師匠様用のベッドだから小さかったのだろう。


 お布団から手足をはみ出させながら、上半身裸というあられもない格好で。


 ――見知らぬ男性がそこに居た。




お読みいただきありがとうございます。

やっと錬金術が出てきた。

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