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12/お師匠様の修行プラン

 そして弟子入りした直後。


 私は体力テストと称して、ひたすら倒れるまで走らされました。

 それから反射神経のテストだ、と言ってボールを投げられたのをひたすら避けたり……。

 あとは腕力の確認とか言われて、いろんな重さの物も持たされました……。


 ……うん。すごく疲れた……。

 丸一日寝てた人間に、いきなりこれは過酷すぎだと思う……。

 最初のマラソンなんて特に横腹が痛くなって辛かった……その後倒れるまで走らされてなお辛かったけど……。


「んー。持久力、腕力共に絶望的だけど、反射神経だけは良いわね。

 というか、もしかして貴方見る前に動いてない?」


 ……言われてもよくわからない。

 でも……確かに。なんとなくの嫌な感じがするという感覚で避けてた事が多い気がする。


「ふむぅ。

 なるほど……使い魔契約のお陰かしらねぇ」


 使い魔契約とは何の事だろう?

 私に対して言ってるなら、その対象は恐らくラフィークだろうけど……この子と何か契約をした記憶はない。


「まぁいいわ。

 だいたい方針は決まったから、夕食にしましょ。

 言っておくけど、師匠の身の回りのことをするのも弟子の仕事だからね。

 明日からは炊事洗濯、食事……は、美味しいもの作れるなら任せるけど無理そうなら自分でやるわ」


 そうか。もう夕方なんだ……。

 ひたすら指示されたマラソンとかしてたからなぁ……気づかなかったな。


 サージュさん――いえ、お師匠様の言葉に私はカクカクと頷く。

 疲労困憊でもぅ……座り込んで休憩したいです……。


「まぁ、今日は私が作ってあげるから安心しなさい。ほら、歩ける?」

「が、がんばりますぅ……」

「生まれたての子鹿みたいな足じゃ、全然説得力ないわよ。

 ……あんまりよろしくないけど……ほら。またこれを飲みなさい」


 そう言って小瓶を渡してくるお師匠様。

 小瓶の中身はマラソンが終わった時に飲んだ物と同じだろう。

 最初はなんだろうと思ったけど、飲むだけで疲労が嘘みたいに消える不思議な飲み物だ。


 小瓶の蓋を取ってコクリと飲む。

 とろりとした液体の味は、少し苦い。

 だけど、すぐに身体がぽかぽかとして、疲れてたのが嘘みたいに身体が軽くなる。


「……お師匠様のお薬凄いですね。

 これって錬金術で作った物でしょうか?」

「そうよ。あんまり多用させたくはないけど……まぁ、常用しなければ大丈夫でしょ」

「何故ですか?」

「緊急時は仕方ないけど、薬ってのは常用しすぎると身体が慣れて効かなくなってくるの。

 そうなるとより強い薬じゃないと効果がなくなって……また慣れて新しく強い薬を……って悪循環になるわ。

 まぁ、魔力のこもった薬ならまた違ってくるけど……」


 どう違うのかは良くわからない。けど、今日と同じ事を薬抜きでやれというのは……。

 明日から始まるという本格的な修行について行けるか不安です。


* * *


「さて。夕食を終えたことだし。明日からの修行について話しましょうか」

「……そのぅ……そもそも、私は合格出来たのでしょうか?」


 そもそもお師匠様になってくれるための条件が『真面目に投げ出さずに続けられるかどうか』だ。

 自分なりに頑張ったつもりではある。


 だけど、私の『頑張った成果』と師匠から見た、もしくは目標とする『頑張った成果』が一致するとは限らない。


 しかし不安を他所に、お師匠様はあっけらかんと言う。


「合格もなにも、それを決めるのは今後の貴方自身を見てからよ。

 今日のは現状把握と言ったでしょ?

 理由も言わずに走れとか色々指示したけど、貴方は真面目に頑張ってたし。

 ――まぁ、成果はいまいちと言わざる得ないけど。

 それでも、元々が箱入り令嬢だったのを考えれば上々よ」

「本当ですか……!?」


 ほっと胸を撫で下ろす。


 良かった。

 これでグレゴリー達との目標も、彼を助けるための目標も一歩前進出来る。


「ともあれ、修行について話すわね。

 まずは毎日午前中に家事をやって頂戴。

 掃除と洗濯はできるのよね?」

「えぇ。プロ級の完璧な掃除とか、特殊な素材の布とかでしたら無理ですけど……。

 そうでなければ基本的には出来ると思います」


 継母様とメイドたちのお陰で、私は一般的な平民レベルであれば家事ができるはずだ。


「じゃあ、それらを終えてから修行にするわ。

 だから修行の時間を確保したいならしっかり手早くすること。手抜きをしちゃだめよ。

 家事の後から昼食までが、錬金術を含む座学。

 午後は体力をつけるためのトレーニングを始めるわ」


 ……座学はともかく、体力トレーニングも必要なのでしょうか?


「座学に関しては、錬金術に必要な素材の入手の仕方。それと見分け方。

 あとは錬金術そのものに関してになるわ。

 座学といったけど、そのうち実技もやるでしょうね」


 なるほど。

 確かに実家の感覚で『必要な物があれば、買えばいい』とはいかない。

 そもそも元手がないし、錬金術に使用するものが普通に購入可能かどうかも怪しいし。

 安く、確実に手に入れたければ自分で採取する必要があるだろう。


「それから体力トレーニングについてだけど……。

 こっちは単純よ。

 貴方が少しでも足手まといでなくなるようにするためね。

 ひいては助けたいと言ってた男の子を、助ける時に役に立つと思うわ」


 足手まとい……。

 それに異論はないけれど、ピンと来ない。

 役立たずなら、そもそも危険な場所に行かなければ良いのでは……と思ってしまう。

 そもそも、足手まといなら出来るだけ大人しく安全な場所に居るべきではなかろうか。


 ただ、少年を助ける時に役立つ、というのは心惹かれる。

 出来ることなら、自分自身の手で助けたい。


「いーい?

 錬金術師の基本は調合より何より採取にあるの。

 少なくとも私の持論は素材入手は可能な限り自力で。

 私の弟子になりたいというなら、これは守ってもらうわよ」


 そう言ってお師匠様は自分で採取に向かう利点を上げた。


 一つ、素材品質の良質化。

 自分の目で見ることで、確実に良質な素材を入手可能な事。


 一つ、入手時間短縮。

 どこかに依頼を出して入手すると時間のロスが多く、無駄にお金がかかり、品質がいいとは限らない事。


 一つ、多様な素材の採取。

 自分で採取しに行くことで、目的以外の素材も採取も可能である事。


 以上三つと、ついでに最後に一言追加された「運動不足の解消」という点で、お師匠様は「採取を自分でやる」という持論を譲る気がないようです。


「かしこまりました。

 確かに、自分で手に入れた方がお金もかかりませんし、いいと思います」


 それに何より、いろんな場所に行くことが”素材の採集”という建前があれば許される。

 もちろん、分不相応な場所へ向かう場合は止められると思う。


 けれど、少なくとも”とりあえず危険だから”という理由での採取活動拒否はされないはず。

 私としても大歓迎な持論ですね。


「――で、それを踏まえて貴方が採取に向かうとするでしょ?」

「はい」

「その場合、隠れたりして安全な場所があればいいわ。

 だけど、突然囲まれたり、不意打ちを受けてしまった場合、その限りではないでしょう?」

「そうですね。嫌でも乱戦になると思います」

「で、その時に貴方が適切な行動できるかどうかが、貴方の護衛を引き受けた人たちにも関わってくるの。

 貴方がパニックになって勝手な行動を起こした結果、護衛が被害を受ける――なんてのは嫌でしょう?」

「嫌です」


 きっぱりと言う。

 私の返事に満足したようにお師匠様は頷くと、「だから」と続ける。


「貴方には戦闘訓練を受けてもらうわ。

 ただ、貴方に攻撃力を期待してないから安心なさい」


 ……まぁ、そうですよね。

 魔物とはいえ生き物に攻撃を当てられる自信も、思い切りもありません。


「攻撃を想定した訓練となると、ちゃんとした所に通った方がいいし。

 ――何より、貴方に攻撃手段を与えると、何するか不安でたまらないもの」


 あれ?

 そ、そういう理由ですか?

 なんだか後者の理由の方が大きく聞こえるのですが!


 しかもラフィークもしみじみとした感じに頷いてるし!


「錬金術でも脅しや牽制するのに使えるような、殺傷能力の低いものは教えてあげるけど、それ以上のは教えないからね。

 作りたいなら自分でレシピを考えた上で、私に見せなさい。

 レシピを見せてない物を作っちゃ駄目よ」

「分かりました」


 道具のレシピを考えるというのは、結構な難度だと思うのでピンとこない。

 とはいえ、お師匠様の言う通り、考えた所で問題があったりちゃんと動作しないと危険なので、ちゃんと見せるのは大事だと思う。


「えーっとどこまで話したかしら?

 ……そうそう、戦闘訓練の話だったわね。

 攻撃力は期待してないけど、逃げる訓練と持久力をつけるためのマラソンはしてもらうわね」


 逃げる訓練なら、私にも出来そう。

 それに持久力をつける訓練は私としても必要だと思ってた。

 いろんな場所へ採取に向かうなら、道中歩く事になる。

 その時に「疲れたから」という理由で頻繁に休憩を取るのは迷惑だ。


「とりあえず春までのプランとしては、さっき言ってた体力トレーニングと座学をメインで行うわ。

 そして春になったら、冒険者ギルドへ行きなさい」

「冒険者ギルド……ですか」


 確か、冒険者ギルドとは、開拓領で発足された組織。

 主な仕事は未開拓領域の調査や採集。

 そして危険な領内での護衛だ。


 ……一攫千金を狙うならず者が多い、ろくでなし達、だそうですが。


 ちなみに冒険者ギルドは現在、いろいろな領へと支部を増やしている。

 このお陰で流通や魔物や動物からの人的被害が減ったのだ。


 まぁ、同時に騎士の人たちからはあまり良く思われていないみたいですけど。


 けど騎士は領主の直属として兵士を率いる立場であり、貴族としての資格も必要となる。

 一代限りであっても貴族となるには、高い実力と信用が必要で、簡単に騎士になることは出来ない。

 自然と絶対数は少なくなり、たくさんいる商隊などを全て守ってはいられないのが現状と言える。

 それに、冒険者という仕事が生まれたお陰で、食い詰めての盗賊などが減ったという利点もあった。


 それでも盗賊被害はなくならないから困ったものです。

 ……実際私も盗賊に襲われた訳だし。


 今では爵位のある貴族の次男や三男、魔術師なども冒険者ギルドに登録してるらしい。


 ――とそうだ。


「あの! お師匠様!」

「ん。なぁに?」

「お師匠様は魔術を使えますか?

 もしも使えるなら、私も使ってみたいです!

 お母様が魔術師だったので私にも素養はありませんか?」

「素質ねぇ……」


 つい、と視線をそらすお師匠様。

 その目線はラフィークに向かっている。


 ……私の事なのに、何故ゆえこの子を見るのですか?

お読みいただきありがとうございます。


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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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