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11/ウサギさんは錬金術師


「でまぁ……それで……私がいた理由なんだけど……」


 何やら言いにくそうに彼女(?)は語りだしました。


 彼女(?)の名前はサージュ・ダスカロスさんと言うそうです。

 そして錬金術師なる職業の人(?)だと名乗りました。


 あの盗賊に襲撃された日。

 ちなみに今日は襲撃された日から数えて二日目の昼。私は丸一日ちょっと寝ていたみたいです。


 それはさておき。

 サージュさんはたまたまファングウルフの牙が欲しくて、追い込み漁をしたそうです。


 ……うん。牙が欲しいからと、魔物の群れを単身で追い込み漁とか意味がわかりませんね。

 とりあえず話を続けます。


 そして、いつものように追い込み漁を仕掛けていたのに、うっかりミスをしたのか街道の方へとファングウルフが移動を始めた。

 追いかけてみたものの、街道のキャンプ地では人がたくさん倒れて、ファングウルフ数匹が襲いかかっている場面に遭遇。


 護衛が薬か何かで行動不能だったみたいなので、慌てて薬を使って動けるようにしてファングウルフを追い払う。

 そして、一段落と思った時、ラフィークがサージュさんに助けを求めた。


 ……聞いててびっくりなのですが、ラフィークは地面に爪で文字を掘って会話をしたというのです。

 そんな芸当出来るなら、もっと前に教えて欲しかったわ……確かに、私の言うこと分かってるみたいな態度が多かったけど……。


 ファングウルフを追い込んだのは自分だからと、サージュさんはラフィークの願いを聞き届け私を助けてくれたとの事でした。

 確かに原因事態はサージュさんにあると言えますが、そのお陰で商隊には人的被害がほぼなく、私もこの通り無事なのだから負い目を感じる必要ないのでは……?

 むしろ、ミスして下さってありがとうございますという気持ちです。


 しかし説明の所々によく判らない点が……。


「……あの、色々と頭が追いつかないのですが……。

 もしかして……あの夜、黒くて大きな動物に乗っていましたが……その動物って……」


 言いながらラフィークを見る。

 当のラフィークはにゃぁんと鳴いて頷いている。


「そ。その子がいきなり大きくなって走り出したのよ。

 まぁ、移動速度が早くなったお陰で貴方を助けられたのだから、ちゃんとお礼をした方がいいわよ」

「……そ、そうですね。

 ラフィーク……ありがとう。でも大きくなれるなら、もっと前にやって欲しかったわ」


 小さい頃なら夢の猫に乗る、というロマンが叶えられたかもしれないのに……。


「貴方、ちょいちょい考えがズレてないかしら?」

「? そうですか?」

「まぁ……良いわ」

「あの、それで商隊の方々は……盗賊達はどうなりました? 盗品も」

「やっぱり盗賊の被害だったのね。

 悪いけど私が見つけたのは貴方だけ。盗賊の姿なんて見てないわ」


 ……つまり、彼の安否も判らないということです。


 胸が締め付けられるように苦しい。

 この感情はなんだろう……?

 悔しいの……だろうか。悲しいのだろうか。


「商隊の方はさっさと離れたし、あんまり人前に出たくないから判らないけど……でも、そうね。

 倒したファングウルフを放置しておいたから、ある程度補填はできるんじゃないかしら? もちろん積荷の金額次第だけど」


 あの時の彼の顔が忘れられない。

 どうして私は彼の名前を聞いて置かなかったんだろう。


「一応怪我人用に薬も無償でおいてきてあげたし、まぁ、大丈夫でしょう」


 名前すら呼べないなんて。

 人を探すならまず名前が必須でしょうに……。


「全く大損ったらないわ。

 またファングウルフを狩りに行かないと……」


 あ。そうだわ。

 商隊のリーダーさんに聞いてみれば名前分かるかしら?


「――って、貴方ちゃんと話を聞いてる?

 人に聞いておいて、聞き流しているんじゃないでしょうね?」


 ……でもそうね。

 普通偽名で潜入するわよね……。

 それに彼が犯人だと知らしめる様になっちゃうし……。


「……ちょっと?」

「――私、決めました!」


 がたり、と椅子から立ち上がる。

 ラフィークもサージュさんもキョトンとして私を見ています。


「お世話になりました。ありがとう存じます」

「い、いいえ。まぁ、あの状態で見捨てたら寝覚めも悪いでしょうし。気にしなくていいわ」

「では、私はこれで失礼致します。

 この御礼はいつか、必ず。ラフィーク。行きましょ」

「にゃ……にゃあ……?」

「いや、ちょっと待ちなさい。

 行くってどこへ行く気なの?」

「えっと、まずは盗賊団のアジトを人に聞いて回って……それから盗賊団のアジトへ行きます!」

「……貴方はもしかして自殺願望者なのかしら?

 それとも人生を棒に振るのが趣味とか……?

 はたまたすっごい戦闘能力を持ってたりするのかしらね?」


 なぜか凄い呆れ顔で言われている気がする。

 そして何故、最初に旅立とうとした日のグレゴリーみたいな凄みを感じるのでしょうか。


 私がじり、と後ずさるとサージュさんは……そう、笑顔です。ウサギの笑顔って案外可愛くないものですね。

 こう……怖いです。口が広がって歯が見えて。


「ねぇ、どうなのかしら?」

「えぇとその……何かおかしいことを言ったのでしょうか?」

「そうね。言ったわねぇ。

 ファングウルフに殺されかけた子が、盗賊団相手になにをする気なのかしらぁ?」


 ううう。怖い。なんか怖い!!!


「えと、その先程話した、助けてくれた方を盗賊団から助けないといけないと思って……」


 だんだん声が小さくなっていく。

 だって睨むんだもの。凄い目つきで睨むんですもの!!

 サージュさん、なんでそんなに怒ってるんですか!?


 私がびくびくとしていると、サージュさんは深い、それはもうとてつもなく深い溜息をしました。


「ねぇ、あんたのご主人どうなってるの?

 これが温室育ちの結果かしら?

 もうちょっと後先考える脳みそ育てた方がいいんじゃないの?」


 ……ひどい言われようです。

 そして言われてみれば確かに……。


 目的を変える気はありませんが、手段がない。

 仮に今、奇跡的に盗賊団の居場所を知ることができても、せっかく逃がしてくれた彼の努力を無駄にするだけだろう。


 ……今、私に必要なのはそう。


 人を雇うためのお金。

 お金を稼ぐための職。


 それらを兼ね備えた上で、準備を入念にすれば……彼を助け出せるはず。


「あの!」

「何かしら」

「私を弟子にしてください!!」


 ぶふぅっ! と、サージュさんは吹き出しました。

 ……変なことを言ったつもりはないのですが。


 だって彼女は単身ファングウルフを追い込み漁で狩れるほどの実力者です。

 そして錬金術師と言っていた。

 詳しく知らないけど、確か錬金術師というのは様々な魔術道具(マジック・アイテム)を作り出す職人を指すはず。


 ――ならば。


 私が作った魔術道具(マジック・アイテム)でお金を稼ぎ、そのお金で盗賊団に対抗できる戦力を雇い入れれば良い。


「あ、貴方ねぇ……。

 私を見て動じないのも変だけど、錬金術師のこと知ってるの? ちゃんと」

「いろんな魔術道具(マジック・アイテム)を作れる職業の方……ですよね?」


 違うのかしら?

 私の答えにサージュさんはとても複雑そうな顔。


 ……なんだかこの人の表情も読みやすくなってきたな。

 サージュさんはどうやら、表情というか感情が雰囲気に影響するみたい。


「――はぁ。

 あんな話聞かされて、こんな猪突猛進娘放っておいたら、気がかりでしかないわよね……。

 野垂れ死んだら、私のせいみたいだし……。

 まぁ、興味がないわけじゃないし……」


 言って、私をまっすぐに彼女は見る。

 まるで射抜かれたような感覚だわ。


「もし、貴方が私の言う修行内容を真面目に、投げ出さずに続けられると誓えるのなら。

 いいわ。弟子にしてあげる。

 ――その覚悟は良いかしら?」


 もちろんある。

 私は彼を助け出さなきゃいけない。

 一種の使命感だと思う。

 ――もしかしたら、罪悪感かも。


 それでも、彼を助けたいという気持ちは悪いことじゃないはず。


 だから私は頷いた。

 辛いことも、過酷なことも自分が想像してることより、もっと酷いことがあると知ったけど。

 それでも私は私の願いを叶える。


 私の返事を見て満足そうにサージュさんは言う。


「じゃあまずは、現状把握からね。

 長距離走をひたすら倒れるまでやってもらおうかしら」


 ――弟子入りは早まったのかもしれない。




お読み頂きありがとうございました。

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 こちら『悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~』にて新連載を始めました。
 ゲームの悪役キャラ憑依物です。よろしければ、目を通してやって下さい。
 ……感想や、評価に飢えているので、何卒お願い致します。m(_ _)m
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