ナカーマ
どうも、どもども
俺がルゥたちとの所に辿り着いたまさにそのタイミングで、狼は俺に向かって飛び掛かってきた。少々開けたところに着いたからな。トドメを刺す絶好のチャンスに思えたのだろう。
だが、甘い。甘すぎる。ドーナツに蜂蜜かけて生クリームを付けるぐらい甘い。これは、あれだな……飛んで火に入る夏の狼だな。
……オーケー、見事に滑ったみたいだな。さっきまでの記憶は封印するんだ。良いね?それじゃあ、話を戻すぞ。
俺がガブガブと美味しく頂かれてしまうその僅か数秒前、ルゥとラインハルトは木から飛び降りてきて、狼に向かってそれぞれの一撃を振り下ろした。
狼も急には止まれないってな。右見て左見てしてからじゃないと危険なのはゲームの中だろうと同じだって事だ。そんな事をサボるだけで命を落とすなんてさ、馬鹿馬鹿しいだろ?
だからこそ……周りの警戒を怠った狼にはそれ相応の結果が降り注ぐ。警戒してたらきっと躱せていただろう。二人が俺の事を放って逃げたのではなく、そこまでが作戦だという事に気付く、若しくは疑えていれば。
もう躱せない。狼にはもう、迎撃するしか手段がないのだ。だがしかし、それは…
「俺がやらせねぇよ」
狼は俺を追いかけていた筈なのに、今は襲い掛かっている二人に注目している。つまり俺がフリーになったって訳だ。一人をノーマークで放置する。サッカーだったら命取りだ。
俺は走っていた勢いを無理矢理殺し、狼の方に向き直る。躱す事の出来ないタイミング。自分の事を放置してくれている事によって発生する奇襲性。俺自身が持っているステータス値の暴力。さぁ、喰らえ…
「うおおおおおおおお!! どりゃぁあああ!!!!!!」
一閃。相手の身体をバラバラにしてやるぐらいの勢いで、俺は狼に向けて斬撃を繰り出した。
そして、先ほども述べた通り狼は避けることが出来ず、盛大に一撃を喰らうことになった。しかし、いくら防御力の低い狼系統のボス? と言えども、俺一人の一撃でとどめを刺すことはできない。
だから仲間がいる。俺が狼を斬ることが出来たのは二人が隙を作ってくれたお陰だし、俺が今斬る事によって隙を作り出す事に成功した。さぁ、頼むぞ!!
「喰らいなさい!!」
「喰らうのですぞ!!」
「いっけぇー!!!!!!」
・
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目を開けた時、そこには狼の姿は残っていなかった。立っていたのは小太りな男と小さな女の子。そう、ラインハルトとルゥである。つまり……
「俺たちの勝利だ!!」
「やりましたね!!」
「デュフフフフ!!!某も頑張りましたぞ!!」
仲間同士で分かち合う勝利の味は格別だな…
☆☆☆☆☆
「デュフフ!? 見るのですぞ! 街が!! 街が見えてきましたぞ!!」
狼を倒してから数分。ラインハルトの報告通り、俺の目にも街が映っている。どうやら俺たちはようやく街に辿り着くことに成功したようだ。
じつは、狼を倒してからは、ボスを倒した俺たちに恐れをなして(そんなものをゲームの中のモンスターが感じるのかまでは知らないが)モンスターがあまり襲いかかっては来なかったので、割と簡単に森を抜けることができたのだ。
「わぁ〜凄いです!! 前まで居た街と全然違いますね!!」
そう、ルゥの言う通り、前まで居た街とは見た目がまったくと言っていいほど違っていたのだ。前まで居た始まりの町は、分かりやすく言うならTHE・町!! という感じだった。
色んな施設はちゃんと揃っているし、特別変なものがあるわけでもない良い町だった。だが、それは逆に言うならあまり特徴がない町でもあったのだ。
それに比べてここは…
「凄い!!水上都市って奴ですか、これ!! 街の周りもだけじゃなくて街の中にも水が一杯です!!」
説明をありがとう。たしかにルゥの言う通り、水が沢山流れている。しかし、それは川が街の中に流れているというわけではない。
そもそも前提が違う。川ですらないのだ。何故なら、街の正面には広い広い大海原が広がっているから。
この街は海のそばに出来ているわけじゃない。海の上に出来た街なんだ。そう、まさに水上都市という訳だ。凄いよな、しっかりと潮の香りまでするんだぜ?
よく考えたら、以前食べた魚料理(蒲焼きの事)とかはここから送られていたのかもしれないな。川魚って感じじゃなかったし。
「デュフフ!!それでは中に入るとしましょう!! いつまでも外にいては、またモンスターに襲われるかもしれませぬし!!」
「確かにそうですね。それじゃあ早く入りましょう、シルバーさん!」
異論はない。というか、俺も早く街に入りたいぐらいだ。早く観光……じゃなくて冒険者ギルドのマスターに手紙を渡さないといけないからな。
ちなみに街の周辺は、自然の防御壁ともいうべき水に囲まれているので、通り道となっている場所を除けば、陸地を走る魔物は入って来られない様になっているらしい。
地形を生かした街づくりか……中々良いよな。金もかからないだろうし…
まぁ、そこまで考えてこのゲームの開発者が作ったかどうから知らないけど。
そんなことを考えながら、俺たちはマリンシティの中に入って行くのだった…
読んで下さりありがとうございました