弱い奴はカットされても文句言えねぇ。弱い奴は出演時間も選べねぇ……って俺も!?
「カンゼンカットデスカーー!!??」
「これで終わりです!!」
辛く悲しい悲鳴が聞こえる。名をカットカットカット。他のやつに比べて名前は弱そうだったが、実力は全く劣っていない強く恐ろしい敵だった。
しかし残念なことにそれ以上の強者が俺側にいた。……アイリスが強すぎる。
弱い奴はカットされても文句言えねぇ。弱い奴は出演時間も選べねぇ……。この世は諸行無常だ。酷く辛くて悲しい。でも……。
「これで三つ揃いましたね!!」
そう、あまりにも諸々カットされたせいで全然実感が湧かないし理解もしにくいかもしれないが、これで目的の三つの素材を手に入れたのだ!
今回は割と正統派の強さの敵だったから結構戦えたのに……!!まさかの俺の活躍も全カットでしょぼしょぼシルバーだ。
「それじゃあ早く戻りましょう!!善は急げですよ!!」
しょぼくれていてはいけない。例え俺の頑張りが全カットされていたとしても!悲しいことに全カットされていたとしても!俺とアイリスは見事に仕事をやり切ったのだ。
それを喜びこそすれ、しょぼくれていては盛り上がるモノも盛り上がらない!……胸を張って堂々と帰還しよう。
帰還しても誰もいないけど!寧ろこっちに敵意しかなさそうな邪神しかいないけれど!
「おう、頼む!」
「分かりました!……ピララ、ピラニア、カピバラ♪」
それではさらば!強き者たちよ!!こんなところに居られるか!俺は帰らせてもらうぜ!
☆☆☆☆☆
さて、戻ってきたぜ真っ白な世界。もう何回も聞いたからあのクソみたいなセンスの呪文聞いても何とも思わなくなったな。これが成長……?(違う)
「さぁ、シルバーさん。手筈通りにお願いします」
そして邪神が居たところまで戻ると、アイリスが俺に向かってそう言った。……それも大変楽しそうに。その様は滅茶苦茶可愛いんだけど……ちょっと素直に受け入れられない理由がある。
「なぁ……これ、本当に必要か?」
「えぇ、絶対に必要です!決して私が見てみたいとか、シルバーさんがやったら面白そうだなんて考えていませんよ!」
ここに来る道中、幾度もそう言って問いただしたんだが、アイリスは微笑んで受け流す。というか絶対に見たがってるし面白そうだと思ってるだろ!
……え?アイリスは俺に何をさせようとしてるのかって?それは見てれば分かるさ……よし、覚悟は決めた。
あんまり活躍してなかったんだ。ここでちょっとぐらいアイリスの言うことを聞いてもいいじゃねぇか。
じゃあ……行くぜ!邪神に向かって素材を掲げて……呪文を唱える!!
「じょーぶつじょーぶつさようなら♪いちにのさんしでさようなら♪」
恥ずかしい!!!……ってやめろ!!そんな目で俺を見るんじゃねぇ!!これは必要な犠牲だったんだ……。シクシク。
『シヌ……?ワレガシヌ……?イヤダイヤダシニタクナイ!!……ァ……』
しかし俺が苦しんだ甲斐もあったようだ。邪神は苦しみ、死を拒もうとしたものの、小さな声を遺して結局は完全に消えてしまった。
これがかつて、世界の安寧を脅かした者の末路か。清々したような気もするし、何だかしんみりとした気もする不思議な気持ちだ。
だけど、悪いことではないんだろうな。うん。仲間が、世界が、みんなが、襲われたりする可能性がこれでまた一つ消えたんだ。良いことに違いない。
「はい。これで邪神は完全に消滅しました。これで世界が邪神によって被害を受けることも無くなるでしょう。本当に、本当にありがとうございます」
いやいや、何度も言っているがアイリスの活躍あってこその結果だ。俺はほとんど付き添っただけに過ぎない。
こちらこそ、謎空間で途方に暮れていた俺を助けに来てくれてありがとうと言いたい。
「うふふ、分かりました。そういう事にしておきましょう。じゃあ、元の世界に帰りましょうか」
あぁ、帰ろう。一仕事終えたんだ。これは気分良く帰れそうだな。
「それに、シルバーさんが恥ずかしそうに呪文を唱える姿をしっかりと撮影出来ましたから。これは楽しめそうです」
……なんてこった。
これが今年最後の更新になると思います。
皆様、良いお年をお迎えくださいませ。