邪神を追い詰めろ
「と、とんでもない威力ですぅ」
エミリーが呟いた。恐ろしい、俺たちがのんびりとそのままあそこに突っ立って居たなら、今頃生きては居ないだろう。
「あ、そ、そうでした。シルバーさん!助けてくれてありがとうございます。私、エミリーちゃんが襲われてるので頭がいっぱいで、自分のことまで頭が回りきってませんでした」
ルゥが俺に感謝を述べる。
「わ、私がもっと自分を守れていたらルゥちゃんがピンチになることも、シルバーさんに守ってもらう必要もありませんでしたぁ。感謝をするならルゥちゃんじゃなくて私の方ですぅ」
エミリーもルゥを庇い、そして俺に感謝を述べる。だが、アレはどうしようもない、仕方のないことだったんだ。
「よしてくれ、あんな奴がいることを予想出来なかった俺の落ち度でもあるんだ。ここは謝りあったりするんじゃなくて、ここからどうするかを考えよう」
どうやらこの言葉に納得してくれたようで、二人は辺りを見渡した。俺も辺りを見渡すことにする。
見てみると、やはり俺たちのように勘のいい者や、本当に偶然攻撃範囲値居なかった人達しか生き延びていないようだ。本当にとんでもない威力だったな。
それにしても、ある程度攻撃したら邪神の雰囲気が変わったし、そのタイミングで沢山の裏切り者?邪神の眷属(人)が出てきたこと。そしてとんでもない爆発攻撃。ここから考えられることは……。
第二フェーズに突入した。これしかあるまい。
第二フェーズに突入したという意味がよく分からない人向けに説明すると、ゲームでは敵にダメージを与えると行動パターンが変化することがあるんだ。
最初の行動パターンを第一フェーズとすると、二つ目の行動パターンだから第二フェーズになるんだ。
殴るしかしてなかった邪神が魔法?を使ったんだから第二フェーズは確定でいいだろう。で、どうするか。邪神は生き残った俺たちを見据えている。
第二フェーズに入るくらいには体力を削られたんだ。俺たちのことが憎らしくて仕方ないんだろう。街を滅ぼすのを一旦後回しにするくらいには。
でも、俺たちが逃げ出したら街を優先するんだろうな。俺たちが気を引いて街を守るのは出来ないと思う。
「つまり攻めるしか無いって事だよな!」
どのみち街を守るには、世界を滅ぼされないようにする為には邪神を倒すしかないんだ。今更何を悩む必要があると言うんだ。
周りも同じ考えのようだ。流石、あの邪神の攻撃から生き残っただけある。
『ゲゴゴゴゴゴゴ!!!』
沢山の腕で薙ぎ払って来るだけでなく、魔法を放って来るようになってしまった邪神。それは中々厄介で、先程までのように良いペースで体力を削ることは難しくなってしまった。
しかし、後が無い生命は強いのだ。少しずつだが、確実に削りを入れていく。
「うぉぉぉぉぉぉぉお!!くたばれ!!」
だが、邪神にばかり注目して居られない。俺たちを襲ってきていた男たちが全滅したからもう大丈夫なのかと思っていたが、どこから来ているのか不明な新手がどんどん襲いかかってくるのだ。
「えーい!もうやられないですぅ!」
「エミリーちゃんは狙わせません!」
だが、襲いかかってくることがもう分かっているので、最初ほどのピンチは訪れない。ルゥとエミリーもしっかりと対処しているからな。この安定感、いいパーティーになったものだ。
☆☆☆☆☆
アレからどれくらいの時間が流れただろうか。……いや、あんまり流れてないかもしれない。だが、すぐ近くに死が待ち構えている極限状態の中で戦闘を続けていたら時間の感覚が無くなっても仕方がないというものだ。
そんな戦闘なのだから、何人かの無念の脱落を目撃した。しかし、その穴を埋めるように上手いこと誰かがやって来るのだ。
魔王ちゃんかアイリスか、それとも別に優秀な指揮官でも居るのかもしれないが、いい采配だと思う。お陰で戦線は崩れず、攻撃を続けられている。……!!
そしてその時、再び邪神のオーラが変化した。これでフェーズスリーか。だいぶ追い詰めたと思うが、ここからどうな……!?
近くで攻撃を続けていた、名も知らぬ仲間の男が、邪神の腕の一振りで消失した。
「速すぎる!?なんだこグボハッ!?」
そしてまた一人、やられた。よく見ると、邪神の顔であろう所に先程まで存在していなかった心臓?のような物が生えているではないか。
まさか弱点を露出する代わりに身体能力を異常なくらい向上させているのか?……それにしても速すぎる!!今のバフ増し増しの俺でもギリギリ目で追えるか追えないかといったところだ。
「一時撤退だ!!このままじゃ壊滅する!」
「「はい!」」
せめてもと、ルゥとエミリーを連れて離脱する。……いきなりヤバすぎるだろ。どうしろって言うんだ。