怪しげな者たちと邪神
連続更新が止まらない。
悲鳴が聞こえたので慌ててそちらを見ると、そこではエミリーがしりもちをついていた。……エミリーの目の前にいる男から少しでも距離を取るために。
意味が分からない。なんとその男はエミリーに武器を振り下ろしていたのだ。邪神と戦っている今、なぜそんなことをするのか。本当に分からない。
だが、分かることが一つある。それは仲間を助けるということだ。エミリーに邪神の攻撃を避ける能力がないために、少し離れたところから魔法を打ってもらっていたのだが、今の状況はそこで他の人間に襲われる可能性に思い至らなかった俺のミスだ。ならばやらねばあるまい。
「あ!エミリーちゃん!今助けます!」
気づいたのは俺だけではない。ルゥも気が付いたようだ。このまま二人で助けに……!?
よく見ると、ルゥの後ろに不自然な男が立っていた。悲鳴を上げたエミリーを見るわけでもなく、敵であるはずの邪神を見ているわけでもない。
ただ、エミリーの元へ駆け寄ろうとしているルウのことを見つめている。……片手に殺傷力のある短剣を持って。
クソ、ここまで状況証拠が並べば、俺みたいな鈍感なやつでも分かる。コイツら、ルゥとエミリーを傷つけるつもりだ。
だが、どうする。ルゥもエミリーも俺が今駆け寄っても間に合わないくらい距離がある。
いや、全力でどちらかに行けば片方は間に合うかもしれない。だがそれは、もう片方を見捨てるということに繋がる。
俺はそんな選択出来ない。どうする、どうする。……そうか、こうすれば……いやでもそれは失敗した時……でもそれしか方法は無いか。
もっと他にあるかもしれないが、今の俺にはこれしか思いつかない。……やるぞ。
エミリー側にいる男に向け、剣を構えて……投げる!!
「グボハッ!?」
よし、エミリーに当たらないか心配だったが、見事男の頭を撃ち抜くことに成功した。
そしてそのまま投げた勢いで回転し、ルゥの方へ全力ダッシュ!!
しかし、当然ルゥを襲おうとしている男も、片割れが倒され、俺がそちらに向かって来ていることは気づいている。
なので慌ててルゥを仕留めようと動きだした。駆ける俺。仕留めようとする男。……間に合えぇぇぇぇぇぇえ!!!!
ガキンッ!!
「クソッ!」
「よしっ!」
ルゥの頭スレスレに盾を滑り込ませ、その凶刃を防ぐことに成功した。
「え!?」
俺がエミリーを倒したことに安心したルゥだったが、俺が突然走ってきたこと、そして自分が攻撃されたことに気付くと、驚きのあまり身体が固まってしまった。
だが、大丈夫だ。ルゥは俺が守る。
「ふん、バカが!武器を捨てて向かってくるとは。この俺様が切り裂いてやろう」
男は防がれたことに驚いたようだったが、武器を投げた俺を思い出して、直ぐに侮るような態度を見せた。
確かに俺だって、武器を無くして盾しか持ってない奴だったら楽に倒せると思ってしまうかもしれない。でも、現実はそうではない。
「クソ、なんで、こんな奴に!俺は邪神の力だって受け取ってるのに!!」
男の攻撃を全ていなしていく。男は盾しか持ってない俺に攻撃を防がれ続けている怒りと情けなさで、攻撃が単調になっているため凌ぎやすい。
と言うか今コイツとんでもないこと言ったな。邪神に協力しているのか。通りで俺たち人間サイドを潰しに来るわけだ。……つまり敵だってことだな。
まぁ、元から仲間を狙った時点で叩き潰す前提だったが、これでより遠慮する必要がなくなったな。
アタックモードに盾を切り替える。意外と色々なところで使っているので、知っている奴は知っているんだが、どうやら男は知らなかったようだ。中々に物騒な見た目となった盾に顔を引きつらせている。
あんな痛そうな盾の攻撃を喰らうわけにはいかない。その一心で短剣を振ってくるが、もう見切ったので問題ない。ひらりひらりと蝶のように舞い、蜂(トゲトゲの盾)のように刺す。
「あああああああ!!グぅ……クソが!」
俺も結構攻撃にステータスを割り振っているはずなんだが、一発では倒せなかったようだ。憎たらし気にこちらを見ている。……!?
DANGER!!DANGER!!
その時、危険察知が反応した。範囲は……かなり広い。これはまずい!!
「え!?」
「きゃあ!?」
先ずは近くに居たルゥを左の腕に。次に走ってエミリーを右腕に抱え、そのまま出来るだけ距離をとるために走り出す。
「は、ははは。ビビらせやがって。馬鹿なヤツだ、今更この俺に怖気付いたのか?」
馬鹿はそっちだ。俺みたいに危険察知が無かったとしても、もう異常に気がついて逃げたしてる奴は居るってのに。
俺が何から逃げているのか。それはみんな予想してると思うが、邪神だ。邪神が何やら力を溜めているのだ。
力を溜めた次の攻撃は大きなものが来る。ゲームをやった事がある者なら、子供でも分かる簡単な原理だ。危険察知も発動してるし、間違いないだろう。
そうして恐らく安全であろう範囲まで逃げた僅か数秒後……地が爆ぜた。ダメージこそ無いものの、俺たち所まで爆風が押し寄せてきた。
そして次に目を開けた時、その場所に邪神以外の生命体は存在していなかった。勿論あの男も。