今後の行動指針
今回は3千字行ってます。いつもは2千字ほどなので、ご注意ください。
「だ、大丈夫かい?アンタ。怪我してないかい?」
そう俺に優しく語りかけてきているのは、俺が先程助けたおばちゃんだ。やっぱり優しいなぁ。そういえばあの時は気づいてなかったが、あのチンピラのスキルで怪我をした人がいなかったか心配だったが、どうやら俺たちの乱闘騒ぎが始まる少しほど前に俺たちから距離を取っていたようで、怪我人はゼロだった。良かった良かった。
「大丈夫ですよ。おばちゃんに何もなくてよかったです」
これは本心だ。本当に何もなくて良かった。ゲームのデータなどではない。彼等にも心はあり、俺たちと同じように生きているのだから。そして、俺たちプレイヤーと違い、一度死んでしまうとどうすることもできない。そんなことになってしまえば、俺は本当に後悔するだろう。
話は少し変わるが、俺はPKをした。そういえば、大体この手の自由なゲームではPKをするような悪質なプレイヤーは犯罪者になってしまったりする。増してや現地人に心があるのなら尚更のことである。でも、おばちゃんは変わらず話しかけてくれてるし、周りの人たちも殺人鬼を見るような目ではなく、助かった、などといった、どちらかというと好意的な目を向けられている。なぜだろうかと思った俺は、図書館で調べたことを思い出した。
それは、このゲーム、この世界において、犯罪かどうかなどを決めるのは彼ら現地人だということだ。そして先程俺はチンピラをPKしたが、現地人には感謝を向けられている。つまり、善意のPKであれば許されるということだ。これは良いことを知った。これなら、彼ら現地人を助けることができる。悪い奴をPKするのなら、良心が痛むこともない。いいじゃないか。俺のこのゲームにおける行動指針が決まったな。
ズバリ”普段は好きにゲームを楽しみ、マナーの悪いプレイヤーがいればPKする”だ。前々から人とは違うことをやりたいなって思ってたんだ。そういうことなら、これはぴったりだな。うんうん。
そしてまず俺がしないといけないことは、力を蓄えるということだ。だって考えてみろよ、爽快に助けに来たヒーローが悪い奴に力が足りなくてボコボコにされるところを。滅茶苦茶かっこ悪いだろ。よくやってるヒーローものならそこで新しくすごい能力が目覚めたりするんだろうけど、生憎と俺はそこまで自分が恵まれていると自惚れていない。それにこのゲームでは分かりやすくステータスなんてモノまである。修行するにはもってこいじゃないか。
ん?おお!?なんかレベルが上がってる!どうやらPKでもレベルが上がるようだ。吉報だな。まぁ、俺はそこまで根こそぎPKするつもりはないから、副産物みたいなもんだと思っておこう。よし、じゃあ取り敢えず今手に入れた割り振りポイントをステータスに割り振っとくか。それ!
シルバー
レベル5
HP140/140(生命力)
MP70/70(魔力)
STR(物理攻撃力)17
VIT(物理防御力)9
AGI(素早さ) 19
INT(魔法攻撃力)5
MND(魔法防御力)9
・・・今回こそはちゃんとSTRとAGIにのみ割り振ったからな。これからはチキンとは言わせないぜ。割り振り方は均等でもいいかなって思ってたけど、今回の戦闘ではAGI強化における動体視力のおかげで勝てたようなもんだと思うんだ。だから、AGIに4ポイント、STRに2ポイントずつ割り振った。動体視力がよくなれば、相手の攻撃も躱しやすいし、盾を使って受け流す場合もやりやすいと思うんだ。・・・俺、盾にホーンラビットのツノをつけるんだよな。今思ったけど、ツノがついた状態で受け流せるものなのか?・・・うん。やばいよな。普通に考えたら無理だよな。バカ、俺のバカ、妙案だと思ったあの時の俺をぶん殴ってやりたい気分だ。
「アンタ、急におばちゃんを指さしたりして、どうしたんだい?」
え?客観的に今の状況を考えてみよう。おばちゃんを助け、そのおばちゃんと話し始める俺→急に考えに耽り始める→なぜかわからないが、指を前に出し、何かをタッチするような素振りを見せる俺。うん、変人だな。これが若い女性だったら・・・うん。折角PKしても捕まらなかったのに犯罪者になってしまうところだった。ありがとう、おばちゃん。何がとは言わないが。
「ちょっと目の前にハエがいて、追っ払ってたんですよ」
言い訳にしては無理があるような気がするが、乗り切った。そう思った俺は少し考えた。この世界にもハエっているのだろうかと。
「なんだ、そういうことだったのかい。それならいいんだよ」
しかしそんな俺の心配をよそに、おばちゃんはこう言った。よかった、神は俺を見捨ててはいなかった。ちっちゃいことだけどな。
「そうだ、ちょっとこっちに来なさい」
そう言うと、おばちゃんは店の方に引っ込んでいった。なんだろうかと俺が店の前で待っていると、おばちゃんは何かが入った箱を俺に渡そうとしてきた。
「これの中身は珍しいポーションさ。効果は普通のポーションみたいに回復するんじゃなくて、5分間だけSTRとINTが2倍になるというとんでもないものさ。ピンチになった時にでも使いな」
確かにすごい効果のものだし、今まで見た道具屋にはそんな効果のものは一つも置いてなかったことを考えると、本当に珍しいのだろう。でも、俺には受け取れない。俺は恩を返しただけだ。それなのにそんなものを受け取れば、俺が一方的に得をしてしまう。そうおばちゃんに伝えると、おばちゃんはおばちゃん特有の気の強さを発揮し、物の押し付け合いが始まった。しばらく押し付け合いをしていると、見かねた隣の店のおじさんが話しかけてきた。
「受け取ってやりな、こいつだってあんたのことを心配してんだよ。次元人がいくら死んでも大丈夫とは言え、こんな騒動にも顔を出すあんたのことだ、またこれに近いことがあればまた首を突っ込むだろう。あんたと同じようにこいつだって恩人には傷ついて欲しくないのさ。コイツの心配事を取り除くと思ってな、受け取ってやりな」
うぐぐ・・・はぁ、仕方ない。そこまで言うのなら受け取らせてもらおう。悪意のある押し付けなら簡単に断れるが、善意の行動は本当に断りづらい。
「分かりました。ありがたく頂戴します。ピンチになった時には使わせてもらいますね」
俺はポーションの入ったその箱を受け取り、ストレージに収納した。箱ごと入れると、いざ必要な時に出してみると、箱に入っていて、それを開ける時間が足りず結局使えなかった。なんてことにならないよう、別々に収納した。箱は返そうとしたけど、何かを入れるのに使えるかもしれないと、渡された。確かに密閉もできそうなので、いろいろと使い道はありそうだ。
「そうそう、それでいいんだよ。若いんだから遠慮なんてしなくていいのにねぇ。そうだ、アンタも何か用事があったんじゃないのかい?」
そうだった、そろそろ1時間経っただろうし、そろそろ鍛冶屋に戻るか。
「そうでした、それじゃあそろそろお暇させていただきますね。そうだ!俺はシルバーといいます。また困ったことがあれば遠慮なく言ってくださいね。俺に出せる全力で頑張りますので」
それだけ言って俺は鍛冶屋に向けて歩き始めた。そうそうこういった事は無い筈だが、念のためだ。そしておばちゃんはもう俺に何を言ってもその意思は変わらないことを理解したのか、それについては何も言わず、「今度は客として来なさい。」というありがたい言葉だけ言ってくれた。そういうことを言ってもらえると本当にうれしい。そうして俺はそう言ってもらえた嬉しさとツノを付けたことで受け流せるかどうかの不安に揺れながら鍛冶屋に戻るのだった。
読んで下さりありがとうございます!
今回で鍛冶屋まで行き切らなかったので、募集の方はまだ続けさせていただきます。
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