命大事に
どうも、評価沢山もらえてとっても嬉しい公爵蜘蛛です
宙を飛ぶ。宙を舞う。弾丸の如く、風のように。
…あぁ、素晴らしきかな。こんな経験、このゲームでなければきっと出来ないだろう。流石最新のゲームだな。
…それにしてもとんでもない速度だ。現実世界でこんなことをしようものなら、とっくに気絶してしまっていることだろう。仮に試行錯誤して意識を保つことに成功したとしても、着地が絶対にうまくいかない自信がある。下手しなくても死にそうだな。
それに、空中を飛びながらこうやって思考が出来ているのも凄い。これは俺が素早さのステータスに結構振っているからこそ出来ているわけで、その辺りがまた、現実とはかけ離れていて最高だ。
…そろそろ巨大ゴーレムの元に到着するな。なんというか、あまりにも俺の速度が速すぎるせいで、盾を構えてただぶつかるだけで、巨大ゴーレムにかなりのダメージを与えられそうだが……やめておこう。
どう考えても俺の方も無事じゃ済まないだろう。痛そうだし、俺だってゴーレムと仲良くスクラップにはなりたくないからな。
…え?こんなどうでもいい事じゃなくて、攻撃をどうするか考えた方が良いんじゃないかって?……ふっふっふ、安心したまえ、ワトソン君。大丈夫だ。
空中だからあまり体勢が安定しないが、そんなことは関係ない。そんなモノはこの圧倒的なスピードと威力の前にはあまりに無力で小さなことだ。
作戦とも言えない俺の考えとしては、ただ、この勢いを利用してぶった斬る!!……以上だ!!
シンプル、イズ、ベスト!!恐らく圧倒的大きさ、とんでもないパワーで名だたる強者を捻り潰してきたゴーレムにはお似合いのトドメの刺し方ではないだろうか。
…よし、では行くぞ。
「しゃあ、オラァァァァァ!!!ぶちかましてやるぜぇぇぇぇぇぇ!!!死に晒せぇぇ!!!」
そう、これはまるで、乗るところもなくシートベルトもないジェットコースター!!こうしてちょっと人格が変わってしまっても仕方ないのだ!それが絶叫系なのだから!!
そしてこのままの勢いのまま、剣を両手で持ち、思いっきり振り下ろした。その様はまさに大根切り!!実力も何もない、ただ勢いだけの一撃!
スパン…。
小さな音が鳴った。包丁で人参を真っ二つに叩き割ったみたいなそんな音が。それは俺の気合と様相からは想像も出来ないような小さな音だった。
そして俺は……巨大ゴーレムの所を通り過ぎ、勢いそのままに壁に衝突しようとしていた。
DANGER!!DANGER!!
いや、ちょ、まっ!?なんでこんなことに!?俺は確かにゴーレムを叩き斬った筈だ!なんで壁にぶつかりそうになってるんだよ!?
危険察知まで働いてるし、本当にヤバイ!この状況を打破する方法、何かないか何かないか何かないか!!!
…そうだ、上手くいくかは分からないが、あのスキルがあった!!うぉぉぉぉぉぉ!!!こうなったらもう、それを使って気合で止まるしかねぇ!!
「切り裂き魔の咆哮!!」
随分前に悪夢の呼び声という名の物騒なアイテムで、白目をむきたくなるほどの大量のモンスターを呼び寄せたときに使用したこのスキルは、剣から敵を切り刻む鋭い刃の様な風を出すことが出来るスキルだ。
…勘の良い人なら、もう俺がどうするつもりなのか分かったかもしれないな。そう、このスキルを使って出した風で勢いを相殺しようというのが、俺の思いついた作戦だ。
そして俺の出した切り裂き魔の咆哮は、前回出した時以上の凄まじい勢いで飛び出し、壁にぶつかって俺の勢いを緩めていく……が、一度だけでは当然止まらない。それだけ師匠の投げは強烈なモノだった。
だが、俺はそれで諦めるほど単純な男じゃない。一回でダメなら何度でもだ……!
連発連発連発連発!!MPが凄い勢いで無くなっていくが、そんな事はどうでもいい。大事なのは命だ。それ以外は無くなったところでどうとでもなるからな。
俺はそんな事を考えながらスキルを連発しまくった。そして…。
「よっしゃあ!!俺は生きてるぞー!!」
俺は見事に生還した!!五体満足、最高の結果だ!!
…あ、そうだ!巨大ゴーレムは!?
何のためにこんな危険な目に遭ったのかすっかり忘れかけていた俺は、慌ててゴーレムの方に振り返った。
ガシャンガシャンゴンガラガラガーン!!
まさに俺が振り向いたその瞬間!巨大ゴーレムはその人型を維持する事すら適わず、モンスターからただの無機物へと変貌を遂げていくところだった。
つまり、あれだな…。
「俺たちの勝利だ!!」
気分が乗っていたのでルビが多くなりました。