み、見守ってるだけなんだからね!ストーカーじゃねぇ!!
五時に間に合わなかっただと!?
サッサ……サッサ……
足音が響く。森を歩くにしてはやたら軽快な音を立てて、エミリーは進んで行く。
そしてその後ろをコソコソと追いかけていく俺!!完全に不審者の仲間入りである。今なら余裕で警察に捕まる自信がある。
まぁ、このゲームの中に警察は居ないから安心だな……って俺は一体何目線になってんだ。犯罪は犯さないし、今の俺は見守っているだけだ。決してストーカー行為に及んでいる訳では無い。
さて、こうなっている理由は皆様お気付きの事だろう。そう、ローラのお願いだ。俺がエミリーを危険から守るのが彼女のそのお願いの具体的内容である。そしてその危険というのは、ズバリPKプレイヤーのことだ。イベントの無い期間は、何故か分からないがPKをしたがるプレイヤーが増加するらしい。
いや、確かに分かるよ。誰かをPKするのは、モンスターをボコボコにするのとはまた違った快感に近いものが有るからな。やりたくなってしまうのはよく分かるし、俺だってその楽しさというものは知っているつもりだ。
でも罪のない、何も悪い事をしていない純粋なプレイヤーをPKするのは罪悪感が伴う様な気もするんだけどな。少なくとも、俺はそれが有るから見境なくPKしたりはしない。
マナーの悪いヤツとか、そもそもPKをしようとしたヤツをPKし返す位だな。そいつらを倒す際は、二つの意味で美味しい。
それに、アイリスにも出来るだけ悪意からは守ってくれって頼まれてるからな。俺は仕事は果たす主義だから当然の事だ(休み明けは辞表を突きつけたくなるのは内緒の話)。
ちなみに、アイリスというのは俺がゲームを始めた時に最初に会った人?神?だ。ゲームを始める際に話しかけて来た天の声的な存在なのだが、仲良くなったのに彼女には名前が無かったのだ。で、それだったらという事で俺が名前を付けたのが始まりだな。
思い返せば良い出会いだった。彼女のお蔭でこのゲームをより楽しめてるからな。本当に感謝に尽きる。
…閑話休題。エミリーとPKの所まで話を戻すとしよう。エミリーはあまり戦えないと言っていたものの、一応最低限は戦えるはずなのである。確か、風魔法を使えるとか言ってたかな?それでビシビシザクザク敵を切り裂いて戦うのだろう。
しかし、普段は回復役としてパーティに貢献していたはずなので直接的に自分が戦うという状況自体に慣れていないはずだ。
分かるだろう?実際に出来るかどうかと、それが出来る能力を持っているというのは違う。机上の空論という言葉があるのと同様で理論上は出来ても、実際にやるとなった時の状況やコンディション等によって複雑に移り変わっていく。
況やエミリーは自他共に認める(自分で認めていたかは覚えてないけど)ドジっ娘だ。そうでなくても実力を発揮し切れる保証は無い。というか、発揮出来る可能性は低いだろう。
「あわわわわ!?」
ほら、早速木の根に足を引っかけてすっころびそうになっている。戦闘中にこんなことになったら致命傷だ。これも、リアルになりすぎた弊害ともいえるかもしれないな。俺はそういう細かいの好きだけれども。
いくらバレないようにしているとはいえ、流石にこけるのを見過ごすのは俺としてもあまりいい心地はしないので、圧倒的スピードでエミリーを救出し、そしてそのままの勢いで元の位置に戻った。
エミリーは何が何だか分からなかったようで、頭の上に疑問符が浮かんでいるさまがありありと目視できる。ローラからの事前情報で、あまりスピードにステータスを割り振っていないことが知らされているからな。こうなるのは予想できていた。
スピードはそのまま動体視力に直結するからな。スピードにかなり振っている俺の動きが見えなかったとしても、仕方がないと言えるだろう。
あ、今更話すのも何とも言えないことだが、ここにいるモンスターはかなり弱い。それこそゲームを始めて少し経ったくらいのプレイヤーでも楽々と倒せるレベルでだ。だからこそ今の所俺がすべき仕事はほとんどない。
それと、俺が集めようと思っていたアイテムに関してはローラが集めておいてくれるらしい。なんでも、「彼女の成長が見えたようでうれしい。せっかく奮起しているのだから無粋なことはしたくない……」ということらしい。きゃー、イケメン。思わず惚れてしまいそうだ。
どう考えても俺じゃローラに釣り合わないだろうし、そもそもの話ローラとはいい友達と思っているからな。あんまりそういう目で見たくないというのはある。
後はそうだな……あの澄ました感じのお嬢様が、誰かにデレデレとしている姿を想像できるか?俺はまったくできない。
きっと、適当な男が言い寄ってきたら、「あら、三百年ぐらい修行してから出直してくるといいですわ!!その時に成ったら考えてあげますわね、オーホッホッホッホ!!!」とでも言ってそうじゃないか?(偏見)
…さて、こんなふざけたことを考えているうちにエミリーは目的地にたどり着いたようだ。彼女は自分の役目を果たすため、採取を始めた。
そして……俺の危険察知に反応が出た。残念なことにローラの懸念は的中してしまったようだな。本当なら、可哀想なエミリーは簡単にPKプレイヤーにやられてしまうのだろう……だが、ここには俺がいる。エミリーには手を出させん。ここからは、俺の出番だ。無事、守り切って見せる。
がんばれシルバーくん