8 モンスターハウス
「中は思ったより広くないな。入口は高さ20mくらいあったとおもったんだが。」
洞窟に入って俺は率直な感想を述べた。
現在俺達は階段を下ってB1Fにいる。1Fは大広間になっていてめぼしいものが特になかったからだ。
しいて言うならば空の宝箱が一つあったくらい。
まるでたくさん動いてくださいと言わんばかりのスペースだった。
「という訳で、やっと本格的にダンジョンっぽくなってきたか。
楽しみだ。」
B1Fに降り立ち気合を入れる。
と、突然サイレンのような音がけたたましく鳴り響いた。
耳を塞ぎ周囲を確認していると、来た道である階段が折りたたまれているではないか!
だが気づくのが遅かったようだ。もう既に天井付近にまで上がっており掴むのは不可能だった。
階段を見送っていると完全に塞がれる直前、エリーが微笑んでいた……気がした。
逃げ場を失った俺は、出口を探すべく真っ暗闇の迷宮を彷徨った。
壁伝いに歩いていくとちょうど奥に光が差しているところがある。
俺は夢中にそこに向かって走る。
それほど暗闇というものが嫌いなのだ。
光の差す部屋にたどり着くと再度サイレンのようなものが鳴り響く。
今度はなんだ……。
そこは簡素なところだった。
特に物などはなく学校の教室くらいの広さの部屋。
俺は真ん中に立ち、周囲を見渡していく。
と、元来た道のほうに骸骨の剣士が現れた。
今まで敵が出なかったのが不思議なくらいだぜ。
俺は余裕をもって敵の攻撃を躱し(かわし)、腰にある剣を使い切り倒す。
さすがに上級ダンジョンだけあって一撃ではやれなかった。
相手がひるんでいるうちにもう一撃……というところでどこから湧いたのか2体目の骸骨剣士が切りかかってきた。
一撃を諦めそれを躱し後方へ飛ぶ。
そして体勢を整えようとしたところで、後ろから衝撃を受けた。
「ッなんっ……!!!?」
重い衝撃に耐えられず前に吹き飛ばされる。
くそッ……後ろにも居やがったのかよ……。
俺は待ってましたと言わんばかりの骸骨剣士の斬撃をなんとか躱し、そのまま先ほどダメージを与えていた方にもう一撃喰らわせる。
体重の掛かった一撃に敵は霧散し消滅となる。
俺は壁に背を預けてあと2体を倒すために周囲を確認した。
「...............。逃げる場所は、ないか。」
部屋にいる骸骨剣士とゴブリン合わせてざっと20体を前にため息を零すのであった。
どのくらいが過ぎただろうか……。
先ほどから周囲に現れる敵という敵全てを切っているが一向に減る気がしない。
むしろ増えているようにすら感じる。
昔からダンジョン探索系RPGは好きでよくやっていたが、
“モンスターハウス”というものがここまできついとは思わなかった。
俺は一旦後ろに下がり部屋を見渡す。
ダメ元でポップエフェクトの位置を把握。
「これでだめなら、部屋中焼き払うしかねぇな!!」
そう叫び先ほど見つけたポップエフェクトから半径5mくらいに範囲を絞り、《フレア》を放つ。
最初に比べ威力は抑え気味だったがそれでも辺り一帯を焼き払うには十分すぎる。
そして予想通り、ポップエフェクト付近にはポップ装置があったのだ。
周りの敵を巻き込みながらもポップ装置を破壊する《フレア》。
俺はやり遂げたのを見届け、安堵の息を漏らす……。
オーバー火力のおかげで敵の数も数え切れるほどしかいなくなり、あとは雑魚戦のみ……。
剣を持ち直し体勢を立て直す、はずが逆に剣を落としてしまう。
「あ、れ......。なん......で......。」
立て直すはずの体勢も上手くいかず床にうつ伏せの状態に倒れこんでしまう。
くそ............。
あと、少し.........なのに......。
薄れゆく意識のなか、微かに懐かしい香りと声がした。
気が付くとそこは森の中。
だが最初に目覚めたときとは違う。
とても明るく昼の日差しが眩しい、見覚えのある景色。
覚えはあっても記憶には存在しない、そんな曖昧な場所。
「ここは......。」
そう言葉を漏らすとまた一つ違和感に気づく。
声が、高い。まるで小学生のような声。
そこでこれが夢だということが分かった。
おもむろに立ち上がり周囲を見渡した。
すると一人の少女に目が行く。
「何をしているの?」
子供のような声で子どものように聞く。
が、少女に反応はない。
もう一度、今度は大きな声で問う。
すると、今度はこちらに気づいたものの返答はない。
声がうまく届いてないのだろうか。
僕は少女に近づこうと駆け出した。
少女はこちらを向いて微笑む。
あちらの動きは止まっていて、僕は駆けているのに、距離は縮まらない。
それどころか遠ざかってしまう。
「待って!!僕は君に謝らなきゃ……!」
無意識のうちに叫んでいた言葉。
俺にはわからない、僕の言葉。
しかし、その言葉が届くことは......なかった。
あなたが、拒否したから......。
その言葉が胸に響きながら......
意識はまた、深い闇の中に落ちた。