5 天才肌とクエスト
舞台は変わり、街を少し離れた平野。
魔物の現れるであろうここで、俺は魔法の練習をしていた。
とは言っても始めから攻撃魔法の練習は危険らしいので回復魔法からになった。
まずは基本的な回復魔法〈ヒール〉。
その上位互換である〈ハイヒール〉や〈メガヒール〉。
状態異常を治せる〈クリア〉と半径10mの範囲版〈クリアラー〉。
この辺までは名前も覚えやすく、すぐに扱えるようになった。
問題は、攻撃魔法である。
ここまで順調に習得してきた俺は少し自惚れていた。
きっと才能があるんだなと。
それは間違いではなかったと思う。
確かに才能はあった。魔力的なモノは。
だが……制御するほど扱い慣れていなかった。
習った通りに炎系基礎魔法〈フレア〉を放ち、俺は驚愕した。
すぐ近くにいたエリーも口を開けたまま固まっていた。
目の前にあった林がおそらく俺が放ったであろう〈フレア〉で焼滅したのだ。
「しろう……あんた一体……。
いえ、昔から……ね。」
そう言って苦笑いとは違う笑みを浮かべるエリー。
そんな顔を見ると不覚にもドキッとさせられてしまう。
きっと見た目が悪魔だろうと良い奴なんだろうな。
歳もきっとそんなに遠くないだろう。
俺は無意識のうちに彼女の頭を撫でていた。
「なっ……なっ…………。」
気付くと顔を茹でダコのように真っ赤にしたエリーがぷるぷると肩を震わせている。
俺は慌てて手を退ける。
「ご、ごめっ……!つい……。」
また槍で刺されると思い痛みを覚悟したが、
その痛みが来ることはなかった。
彼女の槍の切っ先が刺さる直前に邪魔者が現れたのだ。
「あ、あの……!さっきの炎系魔法っ!
あなたですよねっっ!
その腕を見込んで、お願いがありますっ。」
まだ見た目的に歳にして15もいかないであろう若い娘だった。
「どう?少しは落ち着いた?」
しばらく落ち着かせていたところで
口を開いたのはエリーだった。
こういうところすごくしっかりしているな。
「えぇ……ありがとうございます。
突然声を掛けて申し訳ないです。」
まぁこの娘が声を掛けてくれなかったらまた殺されてた訳だしな。
その辺は感謝してるんだよ?ほんとに。
見た目もあかるい茶色の髪のセミロング、おっとりした目に膨らみかけの胸、
おとなしい感じが好印象。
「シロー。初対面だからってそんなにじろじろ見んのは失礼なんじゃないの?」
ふとエリーの方を見るとジト目でこう言われた。
そんなにじろじろ見ていたかな。
「ごめん。」と軽く謝る。
それと咳払いをして、
「ところで、『お願い』ってのはなんなんだ?」
俺は先ほどの少女の発言の意を問う。
この興味本位の行動がまさかあんなことになろうとはこの時の俺は知る由もない。
「はい、ありがとうございます。
私のお願いというのはダンジョンに置き去りになってしまった私の友達を助けに行ってほしいのです。
ダンジョンは先ほど焼き払っていた
林の奥の湖を越えた所にございます。
どうか、宜しくお願いします。」
なるほど。異世界的な“クエスト”というヤツか。
おもしろそうだ。
そう思ったところでピロンッと効果音のようなものが耳に響く。
それと同時に目の前に‘Receive Quest’の文字。
クエスト受注完了、ということか。
どうやら「ありがとうございます」と言われた時点で受けることになってしまったらしい。
…………これからは気をつけなくては。
おそらく“お願い”、“頼み事”などを聞いた時に受注承諾となってしまうのだろう。
こうしてエリーに若干睨まれていた気がするが、次の目的が決まったのだった。
“Receive Quest”
少女のお願い、ダンジョンに置き去りになっている“お友達”を救出せよ。
次回のネタバレになるかもしれませんが予定だとダンジョンに向かう途中のお話になりまして、初の魔物との戦闘になります。
今まで1度も魔物と出会わなかった理由なども出てきますのでお楽しみに!