(第090話)朝の朋美
ゴールデンウィーク前の金曜日。本来なら長い休日を前にすれば大抵の学生は悪い気分にならないはずだった。特に高校三年生ともなれば進学せず就職すればこのような長い休みなど取れない職場だと、こんな長い休みはもう最後のチャンスとなるはずだった。
しかし燧灘高校の場合、理由もろくに説明されないまま無期限休校とされてしまった。いくら憲法の非常事態条項が適用されているとはいえ、あまりにも理不尽な扱いに生徒は諦めにも似た思いを抱いていた。なぜなら、休校のはずなのに登校して自習しろなんていうからだ。
そのような指示を出したのは自衛隊の纐纈などという薄気味悪い男だった。もし単体で町をうろついていたら警察に通報しなければならないほど挙動不審な行動をしていたからだ。
この日、朋美はいつものように家を出ると坂垣商店に悠爾を迎いに行った。これはずっと続けている習慣だったので誰も特別な事だと思われていなかった。しかし、店には「本日休業」という張り紙がしていて、坂垣家の人々は誰もいなくなっていた。ほんの少し前に広野に促されて出発した後だった。
その時、朋美はさっきの事を思い出していた。彩華が無言でどこかに行ってしまった事を。しかもロボットになった明日香も身体が消えてしまったからだ。明日香の家族に知らせようと思ったけど、あいにく家族は東京へ旅行に行っており、どっちにしても帰ってこれないし連絡もつかない状態だった。いまは四国全体が政府によって封鎖されてしまったからだ。
その前の晩、担任教師の野村は町を出て行ってしまった。実家に残している母親が心配だといって。それに校長先生の越智は何故か自衛隊に拘束されたとの噂が立っていた。それと町長といったこの町の行政トップなども同じ目に遭っているようで、どうも纐纈が好き勝手な事をしているようだった。いくら憲法で定められているとはいえ、勝手すぎないか纐纈! というわけだ。
悠爾の事は諦めて朋美はいつものように海岸沿いの国道の通学路を自転車で向かっていた。昨日までの異常な自衛隊の車両はいなくなっていたが、それに伴いいつもよりも交通量が少なくなっていた。一体何が起きているのか分からなかったが、原因ははっきりしていた。人間がロボットになるという現象が引き金なんだと。
朋美はそのような話を悠爾の父が好きな事を知っていたが、そのような話題になるのを避けていた。それは実父が怪しげなオカルト雑誌の記者をしていたから、嫌いだったのだ。その話題をすると決まって実母の機嫌が悪くなっていたので、嫌なものだと思い込んでいたからだ。
そんなことを考えていると強い潮風が吹いてきた。もうすぐ初夏になるので心地よく感じたがスカートの中に入ってきたので少しむっとした気分になった。それで空を見るとトンビが空をのんびりと舞っていた。これから起きるであろう人類の変化なんか関係ないさと・・・




