(第088話)鋼身弾圧の理由
とにかく2022年という年は不安定極まりない状況であった。前年暴発したノース・コリアのチェ国家評議会議長はほぼ無差別に核攻撃を仕掛けたが、対する米露の核の報復はさらに悲劇をもたらした。報復として発射した何発かの大陸弾道ミサイルや巡行ミサイルが同盟国のみならず自国で炸裂したからだ。
特に悲惨だったのはアメリカで、核戦力の「近代化」を掲げて導入した「プロメテウスシステム」が暴走。発射したミサイルが国内に次々と落下し、多くの中小都市を破壊した。その結果莫大な国防費を投入してきた、セシル・アンクルト大統領が心労で逝去する事態になった。のちに、この惨劇の真相は仕組まれたものだと判明したが、この時はチェ政権による工作によるものとされていた。
それはさておき、自衛隊は国内各地で鋼身の掃討作戦を実行していたが、その作戦に従事していた隊員も鋼身になっている者もいた。事前に聞かされたのは一種の訓練みたいなものとされていたが、実際には住民虐殺と同じであった。しかし、ほぼ抵抗しない鋼身を破壊する意味まであまり説明されていなかった。伝染するから破壊する必要としか言われていなかった。
「今は鋼身になっていますが、どうして抵抗らしい抵抗をしなかったのですか? 機械生命体に生まれ変わるのですから、武装させることは簡単ではなかったですか?」
そう質問した元隊員の古村は自分がやったことを思い出していた。とにかく鋼身は強力な外骨格をしていたので破壊するには重火器を使用していたが、抵抗するといえばせいぜい転がっている石を投げつける程度で、それも他の仲間を逃がすための殿みたいな者に限られていた。
ちなみに金が谷地区で完全に破壊した鋼身は十体前後で、恐らく機械生命体になった者のうちの数パーセントにすぎなかった。どうも、他の活動範囲とは違い鋼身が「進化」していると、苫米地小隊長が言っているのが気がかりだった。それに対するユニットの回答は要約するとこんなものだった。
「私たちの側は平和的解決法として人類の機械生命体への人工進化を進めようとしています。一方で従来の人類側の支配階層の中に、敢えて世界を混迷の渦に巻き込むことで滅亡の淵へと追いやることで、別の方法で人工進化を進めようとする勢力が存在します。
そちらにも私たち鋼身と同じように人類を機械化生命体にするテクノロジーが存在していて、そっちの方は武力でこの世界を支配しようとしています。おそらく対決する必要があると思われますが、その時まで可能な限り避けようということです」
その回答からすれば、地球の人類を機械生命体に人工進化させようとする存在が二つあるようだが、一体どっちが正しいのか、もしくは双方とも誤りなのか、この時点では分からなかった。




