(第007話)繰り返しのはずだった日常・3
悠爾と朋美、変わらない日常でも来るはずの未来があったはずだったが・・・
朋美が彩華と喧嘩するのは別に珍しい事ではなかった。互いに一人っ子で意地っ張りで、似た者同士だったからだ。でも、本当は互いに姉妹のような絆を感じていたのだ。そう、いわゆる喧嘩するほど仲が良いというわけだ。
しかし、この時朋美は言い表せない不安を感じていたようだ。もしかすると彩華が遠い所にいってしまうような気がしていたようだ。でも悠爾はそこまで思いつめていることに気付くことはなかったので、朋美の肩をツーンと押してこういった。
「とにかく少女漫画の一場面の登場人物のように気取ってないで帰ろうぜ! そうだ俺の家によらねえか? おかあが朋美のおかあにあげなきゃといっていたものがあるから」
「少女漫画だなんて・・・そんなに気取ってないわよ! でも、うちのかあさんに何かくれるんなら寄るわよ」
朋美はそういって悠爾の家によることにした。悠爾の家は国道わきにある古くから続く酒屋だった。もっとも町から人々が消えていくに従い売り上げも年々下がるという、町とともに店も消えて行ってしまいそうな状況にあった。なんとか別の仕事をするなどして支えているような状態だった。
二人は「坂垣坂店」の戸を開けるとそこには店番の悠爾の祖母がいた。店にはメインであるはずの酒類よりも野菜や果物、雑貨、挙句の果てには土産物すら置かれていた。
土産物は、今の時期に海辺に咲く菜の花畑を訪れる観光客目当てのものもあった。こうして少しでも売り上げにつなげようと必死さが伝わる状況だった。
「朋美、うちのおかあが菜の花饅頭の発注を間違えて多く仕入れたんだよ。それでやるから少し持って帰ってくれねえか? 金はいいからさ」
「うちは残り物の捌き先ですか? まあ、いいわよ。うちだって出荷できないイヨカンを押し付けていたからおあいこね?」
「あのイヨカンか? あれはカビってしまうのが多かったので、カビっているところを外しながら食ったぞ! でもありがとなああの時は!」
「おやおや、おふたりさん。青春かいそりゃ? ところで朋美ちゃんはどうするんだい、進路は? この町出るんかい?」
二人の話に悠爾の祖母が割って入ってきた。悠爾の祖母は嫁いでこの町にやってきたが、今ではこの町の中でも古株になっていた。だから町が衰退していく姿しか見た事がなかった。
「おばあちゃん。朋美は・・・大学に行こうと思うのよ。この町は住みやすいけど・・・もう一度東京に行きたいと思って・・・」
「そうかい、また寂しくなるなあ。この町から進学のために出て行ったら大半は戻って来ねえけどしかなねえなあ。わしは止めんが」
そういって悠爾の祖母は日めくりカレンダーを見ていた。その日は2022年4月18日月曜日だった。