(第079話)坂垣高志という男
坂垣家の三人は広野にいわれるまま車で海沿いを西へと向かっていた。その道は山並みを潮が押し寄せているような風景で、海と陸の境界を縫っていくような感じであった。その道を通る車はなかったが、所々で釣りに興じている人影を見る事ができた。
四人は黙っていたが、その間もパソコンは坂垣高志が家族に送った記録媒体のガードを解除する作業を行っていたので、その作動音だけが聞こえていた。
車はさらに西へと行き、原子力発電所の建屋や風力発電所の羽が回る姿が見えるところを過ぎ、とある小さな民家で止まるように広野が指示した。そこは広野の親戚が住んでいた廃屋だった。
「わざわざ遠くまで来てもらってすいません。実はあなたたちは政府の監視対象になったそうでして、その監視網に捕捉される前に逃げ出してもらったのです」
広野の言葉に三人は信じられないと思った。なんも変哲もない田舎の商店経営者一家が監視対象になるだなんて、もっと他にやることはあるだろうに・・・
「それって、主人に関係するのですか? 主人はいまどうなっているのですか?」
遥香はパソコンの画面をのぞき込むようにしながら広野に聞き返した、
「そうです! あなた方の家族の高志さんはどうも現政権などを裏で操っている秘密結社の知られたくない情報を掴んでいるようです。あなたがたにファイルを郵送したあと、所在が確認できないのですが、どうも追われているようです」
悠爾はなんでそんなことを広野が知っているのか不思議であったが、色々と意見が対立して不仲とはいえ父親の事が気になるので、もう少し聞いてみようと思った。
「広野さん。一つ聞いてもいいですか? あなたは新聞記者なんですよね? いろいろと情報を知っているようですが、一体正体はなんですか?」
悠爾の問いかけに広野はもう隠し通すことは出来ないなあという表情をした。そして意を決したように告白しはじめた。
「実は私は人類防衛組織”イージス”のメンバーです。この世界は金が谷地区などで発生した鋼身だけでなく、そのテクノロジーで人類を支配しようとしている秘密結社”ファッショ”の脅威にさらされています。その脅威から人類を守ろうとしているのですが、もはや風前の灯です」
「あのう、広野さん。そんな義理の息子が好きそうなフィクションみたいなことを言われても、困るんですが」
環希は呆れたような表情をしていた。まあ無理もない、そんな地球が狙われているだなんて話をされても当然であった。しかし、人間が機械の身体になって、四国全体が封鎖されている現在となっては、何が起きても不思議ではないかもしれなかった。
「広野さん、私たちはこれからどうしろというのですか? 教えてください!」
遥香は困惑の表情を浮かべていた。その時、空にはトンビが優雅に舞い、前後からは潮騒の音だけが聞こえていた。




