(第077話)坂垣家の朝
坂垣商店に久しぶりの朝が戻っていた。悠爾の母が帰宅出来たからだ。悠爾の母・遥香は火曜日に朋美の母と一緒に松山市内で開かれていた展覧会に遊びに行っていたときに、燧灘町が封鎖されたので帰れなくなっていた。帰れない間、他の多くの燧灘の住民と同じように松山市内の知り合いの所に身を寄せていたという事だった。
「悠爾、お父さんから手紙が来たそうだけど、いつ帰るといっていたの?」
遥香は古い台所でせくせく調理しながら祖母の環希にも手伝ってもらっていた。今回の封鎖によって坂垣商店が受けた経済的損失は計り知れなかった。一応、後で政府が損失を補償するとは言ったが、そんなのは当てにならなかった。
「手紙にはケリがついたら帰るって書いていたけど、おかしいなあ。たしか、半年契約だったんだから五月の連休中に戻るっていっていたはずよね、母さん?」
悠爾はキッチンの上で借りてきたパソコンをセットアップしていた。父の高志が送ってきた記録媒体を読むためだった。父が送ってきたものには、なぜか特殊なプロテクトがかけられていて、しかたないので新聞記者の広野に頼んで解除プログラムを準備してもらったのだ。
「そうよ! あの人は悠爾が東京の大学に四年間行かせても貯金が出来るぐらいの報酬がもらえるっていって半島にいったのよ! でも、ここ二か月は連絡ないので心配していたのよ!」
遥香は少し興奮気味であったが、夫から送られてきた記録媒体に何があるのか不安になっていた。もしそんなに問題がないのならメールなり電話なりすれば問題ないはずだからだ。こんな形で送ったからには相当ヤバいことがあるのかもしれなかった。
「悠爾、同級生の長和さんが機械の身体になったといっていたけど、彼女はどこに行ったの?」
「あいつは・・・いつの間にかいなくなっていた。それと他のも。この町にいた自衛隊が連れて行ったかもしれないけど、なんか消えていなくなるって感じだったな。それにしても静かだよ」
悠爾は家の前にある海岸沿いに伸びる国道が見える窓を覗いていた。いつもならある程度の交通量があるので行きかう車が見えるはずなのに、そんな気配すらなかった。人通りが絶えたという感じであった。それに、国道で町を封鎖していた自衛隊が撤収したので余計静かだった。
「それって不思議よね。まあ人が機械になるだなんて。ところでなんとかなりそう、悠爾?」
遥香は悠爾の前に食事を持ってき始めた。その時、玄関から呼び鈴が聞こえてきた。




