(第006話)繰り返しのはずだった日常・2
日常というものはある日大きく変わっていくものというものに、その時誰も知るものはいなかった・・・
悠爾のクラスのメンバーは基本的に小学校五年生と時と変わっていなかった。燧灘高校がある燧津町は小さな町で小学校と中学校は二つあるけど高校は一つしかなかった。しかも他の町の高校に進学するのは、長時間の通学時間がかかるうえに経済的に余裕がなければ難しいほど隣町の高校が遠かった。だから、高校で松山市などにある進学校に行かなかった生徒が全て同級生として残っていたわけだ。
そんななか、今日欠席している五人はそんな町内のもう一つの中学校から進学してきた生徒だった。しかし同じ地区から通う生徒が全員欠席というのもおかしな話だ。
「先生、そこの五人って金が谷中学の出身じゃないの? そしたら金が谷地区で何かあったんじゃないの?」
悠爾の同級生の一人、海原伸一郎が野村に発言した。伸一郎はこの「クラス」で一番成績が良かったが、全国から見るとそんなに大したことはなさそうだと言われていた。
「海原の言う通りかもしれないなあ。あそこは学校から二十キロも南にあるからなあ。でも、何ら聞いてないぞ。取りあえず事務に頼んで電話してもらうから」
そういって朝礼は終わったが、訳が分からなかった。結局のところ、その五人は翌日以降も来ることはなかった。それはともかく、その時は何かが変わりつつあることに誰も気づいていなかった。そう、この繰り返しのはずだった日常が終わりが近づいていることに。
その日の授業はいつものように進んでいった。悠爾は高校三年生だったので次の進路を決めないといけなかったが、いろいろと迷っていた。成績は平凡でこれといった夢はなく、ただ代々続く家業を継ぐことしか頭になかったからだ。そう考えたのも暮らしている町は緩やかに衰退しているし、これといって変わる要素もなかったからだ。
高校からの帰り道、海辺を通る国道沿いにある防波堤の上で呆然とする朋美の姿に悠爾は気づいた。彼女の肩まで伸ばした髪が潮風に揺れセーラー服の襟にまとわりついている様子は、なにか心揺さぶられるものを感じた。彼女とは知り合って八年経つが、あまりにも幼い時から一緒だったので恋愛感情というものは一切なかった。
「おい片山! いったい何黄昏ているんぞよ!」
悠爾は朋美の後ろに回り大きな声で驚かすつもりで耳元で叫んだ。いつもの朋美ならびっくりして怒り出すところだが、この時は違った。
「なによ悠! 決まっているんじゃないの、彩華の事を考えていたんよ。どうでもいいことで金曜にここで言い争いしてしまったけど・・・どうしたんかなと」
そういって朋美はまた海の方に視線をやった。その先には小さな漁船が漂い、そのさらに沖合には大きな貨物船がいくつも航行していた。それはいつもの日常の一コマにすぎなかった。