(第074話)混迷の宰相.1
その時の日本国首相は鷹塚二郎であったが、彼は前任者が急病により退陣したので急遽就任した。そのため、次の総選挙までの選挙管理内閣というのが一般的な見方であった。しかし実際には憲法の非常事態条項を濫用したうえ、鋼身に対抗すると称して国民の機械化を密かに行っていた。それらの行為は情報を管理することで露見するのを先送りしていた。
「総理、もうそろそろ抑えるのも限界ですぞ。四国だけでなく北海道も封鎖されるのですから、経済へのダメージも計り知れないですから」
首相秘書官の安岡誠は首相に耳打ちしていた。この日、四国に続いて北海道も封鎖しようとしていたから。
「経済? そんな従来の人類社会の事なんぞ関係なくなるからいいぞ。それよりも鋼身はどうなっている?」
「はい、防衛相の情報によれば全国一五道県で発生が確認されています。そのうち八県では”パンドラの鉄棺”の開花を確認。無数の機械蟲が拡散した模様。あと一週間もすれば数十万人単位で鋼身が誕生すると想定されます」
安岡の報告に鷹塚はうなずいていた。全てはこれから始まる世界の覇者になるための前段だったから。
「ときに安岡。あの”黒き菓子折”の準備はどうなっている?」
「はい、来週月曜日正午に都内で開花するはずです。その時、感染するのは若い男女だけのはずですから鋼身に対抗するには充分かと」
「そうか・・・」
安岡の言葉に鷹塚は後悔の想いを深くしていた。全て行き詰まった人類を救うためだと協力した事であったが、結果世界は憎悪と経済格差によって分断されてしまい、もはやこの手でしか打開できそうになくなっていたから・・・
「ところで新聞記者の広野はどうします? 一層の事、纐纈に始末させたほうが良いのでは?」
安岡は次の作戦の指示のための書類を作成しながら聞いた、鷹塚は山のような書類に目を通していたが、もうすぐそのほとんどが無意味になる事を知っていた。
「ほっとけばいいんじゃないか? どうせ、鋼身同士の戦争になるのは目前なんだし。その時にはもう広野の奴が掴んでいる情報は時代遅れさ!」
「そうですね、それともう一つ総理。いまUNTANK管轄下のどこかに潜伏している坂垣高志ですが、どうも国内の何者かに鋼身の本当の情報を流しているようですが、排除いたしましょうか?」
鷹塚はその名を聞いたとき、凍りついてしまった。
「排除といったって・・・どこにいるのか分からんだろ? 日本に舞い戻って来るとかしたときに対処すればいいんじゃねえかな?」




