(第068話)人類の裏切り者.3
少し前まで命令により”破壊”しようとした鋼身たちに囲まれ苫米地は困惑していた。もし並みの人間なら殺されてしまうと発狂してしまいそうになるところだが、不思議と落ち着いていた。囲まれている列の中には元”部下”も混じっていた。
「戦う戦わないはお前たちの話を聞いてからということにしてくれないか? どっちにしたって無事に帰れる保証はないだろ?」
苫米地は諦めていた。作戦はどっちにしても失敗、それに重質量爆雷の正体が北の核弾頭というスキャンダルを知ってしまったからには、ここで終わっても帰ったとしても待っているのは困難な状況なのは確かだった。
「それもそうでしょう。僕だって半信半疑になるでしょ、あなたの立場なら。まあ話は聞いてもらいます。それをユリアも望んでいますから。そうそうユリアは我々を導いてくれるシステムです」
泉里はそういうと、そこらへんの民家から持ってきたテレビに手をかざした、すると画面になにかが表示され始めた。
「あなたもご存知でしょうけど、この世界の混乱は目を覆いたくなる状況です。本来なら私たちをこの身体にしてくれた存在は、もう少し未来に徐々に変えていくつもりだったようです。もっとも、それは実行されなかったかもしれません。
この世界の人間は醜い争いを激しくするようになりました。そういった行為は人類が知恵を得る以前から続けていたことですし、それが社会を発達させてきた原動力の一つでした。
しかし、ここ四半世紀の間に起きたことは一体なんですか? 克服しつつあった排外主義や差別主義は台頭し、戦って排除してやるという欲望を正当化しようとしてこじらせているではありませんか。
それに、その事態をさらに悪化させて世界を変えてやろうとする欲望が渦巻いているではないですか? そんな欲望を実現しようとしている者たちに便乗して、我々のあの方を困惑した者どもがいます。その者どもが、限定的な核戦争を引き起こし既存の政治家を排除してさらに人類を殺し合いさせようとしています。だから我々鋼身はこの世界を正常化させるために生まれたのです」
泉里の言葉の意味が分からず苫米地と小林の頭には疑問符がいっぱい浮かんでいた。すくなくとも鋼身が生まれたのは”あの方”と呼ぶ存在が関わっているのは確かなようであったが、世界的に混乱を引き起こした者の一部が、その”ある方”の決意を促したというようであった。




