(第005話)繰り返しのはずだった日常・1
平凡な田舎の高校生だった悠爾と朋美に何が起きたというのか? その時がいま明らかにされる!
新暦元年、西暦でいえば2022年春の地球社会は混迷を深めていた。世界各地ではテロが続発し民主主義を標榜している国家も行き過ぎたポピュリズムと衆愚政治が台頭し、混乱に拍車を駆けていた。世界には難民が溢れ、政治的にも経済的にも混乱していた。
そうしたなか、四国の海沿いにある小さな町はそんな混乱など関係ない日常が続いていた。坂垣悠爾が住んでいた町は特に顕著だった。そんな世界の混乱など無縁の場所であったと言えた。穏やかな海に向って山肌が急に落ち込んでいる地形で、その山肌にはイヨカンなどの柑橘畑がへばりつくように広がっていて、その斜面を右に左にへと蛇のように走る道路のところどころに民家が点在していたが、そんな畑や家の中には人の営みを失くし朽ちかけているところも少なくなかったが。
悠爾が通っている燧灘高校は公立高校であったが、著しい少子高齢化と人口流失のため廃校も時間の問題だった。校舎と敷地の大きさに比べ少人数しか生徒がいなかった。そのため一学年が一学級で生徒が二十人にも満たない状態だった。月曜日の穏やかな日差しが教室の空気を温めていた朝の事だった。
「おはよう、こんなん少ないんじゃあ欠席しているんのが一目でわかるというのに休んでいるんか? 坂垣、来なかった連中はどうしたのかしらねえか? 連絡など受けていないぞ、わしは!」
悠爾のクラス担任の野村先生が入ってきたがすぐ欠席者がわかった。この日教室に並べられた十五の席のうち五人が座っていなかったのだ。
「どうしたんでしょ? 休むなんて相談なんかなかったし体調だって悪そうじゃなかったし。でも休むような連中じゃないんじゃないですか? 真面目な村上もいないし、それに西本も。道路でも通行止めになったんじゃないんですか?」
悠爾はそういったが欠席者に共通点があった。彼らは町でも山の方の地区から通っていたからだ。その地区へはバス路線がないので特別に原付バイクでの通学が認められていた。しかし、大雨が降っているわけもないし道路わきの斜面が崩落して通行止めということはなさそうだった。
「そんなの知らんぞ。交通情報でも通行止めなんて話してなかったぞ。そこの片山聞いてねえか? お前たしかそこの長和と友達だろ? 」
野村は窓際に座る長い髪の女子生徒に視線を向けた。指名されたのは片山朋美だ。彼女は悠爾の幼馴染だった。彼女は十歳まで東京で暮らしていたが母親が離婚して実家に一緒に戻ってきた。そして悠爾と同級生となってもう八年もクラスメートというわけだ。
「先生、いくら彩華と話をしているといっても知りませんよ! 休むなんて相談ありませんし。先生こそ電話すればいいんじゃないですか?」
朋美は少し興奮気味に言っていた。実は先週の金曜に長和彩華と激しい喧嘩をしたばかりだった。