(第066話)人類の裏切り者.1
金が谷地区に派遣された陸上自衛隊の臨時編成の小隊を指揮していた小隊長の苫米地勲はアルコールが入ってしまった頭を打ち振っていた。いま起きている事態に困惑していた。
ここ数年世界各地で続発した非常事態に海外派遣された部隊に所属したことはなく、いままでずっと国内で平穏な日々を過ごしていた。しかし、ここ数日起きていることは一体なんだ?
「小隊長! あいつらが言っていることは間違いないのですか?」
小隊長の隣で酒を飲んでいた定年直前の自衛官・小林達樹もまた少しアルコールが効き始めた頭をかいていた。
「それは分からん! しかし、核弾頭だなんて・・・北のUNTANK(ノース・コリア暫定統治機構)に派遣された部隊はいないはずだが・・・まさか!」
この時、ここに派遣される前に聞いた越智智輝防衛副大臣からの情報を思い出した。それによれば、ここ数年世界各地で続発する人類同士に憎しみと溝を生み出すだけの事態は、全てある目的のためではないかというものだった。そんなこと、質の悪い陰謀論ぐらいにしか考えていなかったが。
「なにか心当たりでも?」
「いやあ、ほら連立与党に極右とも揶揄されることもある”日本の針路”とかいう政党があるだろ」
「たしか外国人排斥を訴える政党でしょ! あまりにもひどいので自由保守党の中からも批判されている・・・それがどうしたのですか?」
「その党の後援者に”光の輪環”とかという宗教団体があるんだが、此処に来る前に越智副大臣から聞かされた話によれば、その団体の上部組織が人類を憎しみ合わせる策謀をしているというんだ。あの北の独裁者チェを暴走させたのも葬ったのもその組織だというのだ」
「まさか・・・保守政権でしょ、今の内閣は? それなのに海外のそんなテロ組織みたいなのと繋がりがある人物が入閣しているというのですか?」
「そうだ! ただ越智副大臣も証拠は掴んでいないと言っていたが、もし今回の作戦が失敗する事があれば・・・」
「あれば・・・?」
「人類社会が一気に機械化人類にとって代わるという事だった。まあ、どうなるかは分からんけど」
苫米地の言葉に小林の思考は混乱していた。状況が理解できないキーワードばっかりだったからだ。どうしてそれが自衛隊が核弾頭を持っていることになるのかが分からなかったから。
「小隊長。ところであいつらは止めてくれるのですか、あの爆弾を!」
「それも分からないが、とにかく、ここで死んでも生き残っても俺らに待っているのは地獄かもしれないな」




