(第004話)鋼身の元彼女
メタリックボディの彼女は鋼身だ。彼女は機械生命体に無理やり改造されたのだ、最近!
「今日のところは大丈夫よ。取りあえず今日はねえ。明日はどうなっているのかわからないけど。ところで、あなたはいつまで隠れているつもりなのよ悠爾!」
そういって彼女は私に小さなレトルトパックとペットボトルを渡してくれた。それは私の数日分の「食料」だった。私が潜伏している地区ではもう生身の人間など存在しないはずなので、入手するのが難しいものだった。
「ありがとういつも! 我がレジスタンスのメンバーも殆ど改造されてしまったからな。このままでは、この国から生身の人間がいなくなるのも時間の問題だろうな。なんだって現在のこの地球の支配者は君ら鋼身だからな。私のように不適格者は火星あたりに追放されるか、反逆罪で処刑だろうな。
そんな恐怖の体制を終わらせるためにも、やりたいことがあるのさ! だからもうしばらく協力してくれ!」
そういって私は小窓から差し入れられたトモミの手を握りしめた。その手は金属質な素材に覆われていて関節部は硬質な蛇腹状のラバーだったが仄かに暖かい感触だった。彼女が「人間」だった時の事を思い出すと、少し涙ぐんでいた。
「悠爾、泣く事ないでしょ! わたしだってこうやって危ない橋を渡って協力しているのだから。あなたが作ってくれたペンダントのおかげで、このように人間の少女の朋美だった時の自我を失くさずにいられるのだから。
それにしても、毎日何をやっているのよ! そんな旧式のソフトウェアを使って!」
「これかい? これは今までこの国で起きたことを思い出しながら打っているのさ文章を! こうやって文章にしておけば、いつの日にか誰かが読んでくれるかもしれないと思ってからさ。
それを読むのが鋼身であっても私は良いとおもうんだ。なぜならこうして生きていた証になるからさ。なんだって君ら鋼身のようには存在できないからさ私は。完成したら君がどこかのデータベースに保存してくれないか私の回顧録を!」
「そうなんだ、いいわよ記録を写してあげるわよ。もちろん私の自我が消去されなければね。なんだって、この鋼身の記憶デバイスはいくらでも書き換えられる可能性があるからね。その前に、なんか方法を見つけてあげるわよ。
それよりも悠爾。私たちもう一度一緒に暮らせないかしら? 出来たら生身に戻ってから!」
そういってトモミは少し悲しそうな素振りを見せた。ただ、彼女には涙はなかった。彼女は鋼身、機械生命体だから!
「鋼身にされた奴が人間に戻ったなんて噂は聞いたことがないわけでもないが・・・難しいかもな。なんかの都市伝説じゃないかもしれないし。
でも、私が思っている事が実現すれば、形か違いこそあれ君とまた暮らせるかもしれないさ。それまで希望を捨てないでくれ」
そう言ったとき、トモミは何かを言いそうになったが、額のパネルが点滅し始めた。それは鋼身達を管理するユニットからの指令を意味していた。トモミは指令に従い小窓の前を去っていった。
私は再び一人になった。自室には父の写真とネットワークに接続されていない旧式のソフトウェア搭載のタブレットとそして何冊かのノート、それと・・・今は語らないでおこう、これは何かは。
それらのノートには私が高校生だった時から対峙してきた鋼身たちとの闘争が書き込まれていた。この世界になにが起きたのか、私の視点で感じたものすべてだった。
「さあて、今日はどこから打ち込んでやろうか? とりあえず、いまは潜伏しておかなければ。待てば海路の日和ありってことさ!」
そういってタブレットに打ち込み始めた。ノートにある内容を全て終わるまでに、この潜伏先を特定されないように祈るしかできなかった。悠爾と朋美が出会った時から今までのことを打ち終わるまで。鋼身の支配者どもよ、それまで待ってろ!
次回、悠爾の高校時代の話になります。鋼身達によってなぜ地球が征服されたのかの謎が明らかになっていきます。