(第055話)変化したあとは.1
金が谷地区にいた自衛隊は命令で撤収し始めた。勝負銅山にセットされた重質量爆雷の起爆まで時間がなかったからだ。しかし小隊長は残っていた、鋼身に変化しつつある隊員を見捨てるわけにはいかなかったからだ。
今回の事態について、小隊長はある程度正確に知っていたと思っていたが、実際は将棋の駒と同様の扱いでしかなく、本当の事は知らされていなかった。それは統合幕僚長も同じで、とにかく人類が機械生命体になるのを防ぐには、変化してしまった者を駆除するしかないと思い込まされていたからだ。
「これからどうなるというのだろうか? このまま、俺たちは重質量爆雷で消し飛んでいくだけだろうが、人類はあの金属の塊になってしまうというのか?」
小隊長は機械蟲によって鋼身に変えられていく自衛隊員たちを見ていくしかなかった。小隊長は五〇代の老年のためか機械蟲が寄生せず今までと変わることはないようだった。どうも鋼身になるのは若い男女に限られているようだった。
残された時間とばかり小隊長は私物入れから家族の写真を取り出して見つめていた。自分がこの地で果てるのは運命だとして、娘や息子たちの未来はどうなっていくのだろうかが気がかりだった。機械蟲たちが四方八方に拡散していったので、恐らくこの燧灘町を封鎖している意味はもうないだろうからだ。
「小隊長! 脱出できる者は全て脱出しました! 小隊長も徒歩でもいいですから出来る限り安全なところに避難しましょう!」
残った部下は年配者でどうやら機械蟲の影響を受けない様子だった。頭は髪は薄く白くなっていて、もうすぐ定年のような年頃だった。
「俺は良い! ここで鋼身になっていく部下を見届ける。もしかすると変化が完了すればここから逃げる事もできるだろうから」
「しかし、小隊長も自分も変化しないのですよ! このまま残るというのですか? そしたら自分も残ります」
「それはならぬ! 今回の作戦の顛末を報告してもらわないといけないからな。それにしても重質量爆雷をセットした隊員はどうしたんだ?」
「それが見当たらないのです。いつの間にか脱出したようで。あいつらは上層部直属の特殊部隊との事でしたが、作戦の成否に関係なくここを破壊させるつもりだったんではないですか?」
「そうかもしれないぞ。なんだって憲法の非常事態条項を適用してまでやっていたからな。まあ、本音を言わせてもらうと、首相自身が黒幕かもしれんぞ。ここまで事態を悪化させて証拠を消すような事をしようとしているからな」
そういって小隊長は作戦行動中は慎んでいたタバコを口にくわえライターをカチカチさせていた。
「なかなかつかんぞ! 最期の一服なんだからな!」
少し声を荒げていた。




