(第051話)解き放たれた封印.4
「お嬢さんと付き合っている時間もないから早めに言っとくけど、いま”パンドラの鉄棺”にくっつけている装置だけど、止める事にはならないから。つけているだけで無駄だよ。今頃は、反対にハッキングしているころだと思うぞ、この国のネットワークに!」
泉里はそういうと”パンドラの鉄棺”を軽々と持ち上げてしまった。そして抱えたままこういった。
「もうすぐ、ここに自衛隊どもがやってくるからな。いまから早く脱出することだなあ。なにせ、人間と鋼身の識別が出来る前に射撃し始めるぐらいだからな、今は興奮状態なんだし。だから巻き添えを喰らう前に立ち去りな! また近いうちに会おう!」
もはや人間離れしてしまった泉里はそう言い残すと坑道の外の方に駆け出していった。そして、坑道内には猛烈な自衛隊によると思われる射撃音が響いていた。
「とりあえず逃げましょうよ! あんな変な奴のいう事とは腹が立つけど、もう用はないんでしょ、パンドラのなんとかを持っていったんだから!」
朋美はそういうと、三人の男どもの手を引こうとした。
「片山! わかったから手を引くな! それよりも、いったいどうなっているんだよ広野! 言っていたのと違うじゃないかよ! それに、さっきの奴が言っていたネットワークってなんだよ!」
野村は荷物になりそうなカバンなどを捨てると先を急ごうとしていた。それに応じた広野は少し何かを考えているようだった。次に話し始めたのは、坑道の入り口に出る直前だった。
「さっき奴が言っていたネットワークだが、あれは密かに我々の組織が構築していた反鋼身ネットワークシステムのことなんだ。まあ、ネットワークといっても寄せ集めて急遽作ったもんだが」
「なんですか広野さん? それってどういうことなんですか? どうも、その組織は今回の事態について知っているようなのに、どうして自衛隊と協力しないのですか?」
「それはねえ坂垣君。我々の組織は各国政府に属しないものだからさ。実は、今回の事態は政府の中に裏切り者が多くて、わざと事態を悪化するように仕向けているのさ。今回の金が谷地区に対する武力侵攻も”鋼身”の進化を進めてしまった結果で終わりそうだ。どうも、奴らの進化を食い止めるのは出来ないかもしれない」
そういって広野は通じないはずの携帯電話を取り出したかとおもったら、それは軍事用の衛星電話機だった。
「こちらは、デゴイ45。花咲かしは失敗した。もはや咲くことはない、次のステージに向かう、以上!」
そういっただけで、広野はその場で衛星電話機を持っていた拳銃で破壊した。
「いまのは一体?」
「どうせバレるからいうけど、仲間に伝えたのさ、この地区は封じ込める事は出来ないと。まあ、自衛隊の奴らが諦めるのはまだしないだろうけどさ」
そういって広野が指さした先には猛烈な炎と煙が立ち上っていた。その発生源と思われるところには、ロボットが鉄の箱を持っていて、それに目がけて自衛隊の火器が一斉に発射していた、そう泉里だった!