(第003回)潜伏者
人類レジスタンスの悠爾は支配階層である鋼身との闘争に敗れ潜伏していた。
幼い日に父が持っていたコミックを盗み読みしたことがあった。その多くはSF作品が多かったが、こんな未来がくるのだろうかと信じていたこともあった。なかには1999年に人類は滅亡するとしたのもあったが、比較的楽観的な社会と舞台設定したものが多かったように思う。
その作品のひとつに人間がサイボーグとなって活躍するというものがあった。ただ、そういったサイボーグにされた人間は苦悩するのが常であった。そんな改造をされたら他の人々とは違う存在になり、社会的マイノリティーとして差別されるからだ。
そういったマイノリティーが苦悩するのは私も目撃したことであったし、いまも現に体験していることだった。私は生まれてからずっと人間だった。それが今の時代はマイノリティー階層であった。そうなったのはいつからなんだろうか? そうなった経緯から話さないといけないが、それは大変長い話になってしまいそうだ。
私は、父が持っていたコミックの『メタリック・ドリーマー』をめくっていた。その話は世界が機械化していく恐怖が描かれていたが、それは聖書の黙示録のようなものだったと今からすると思えるものだった。
『メタリック・ドリーマー』はバット・エンドのような終わり方をしていた。機械と人間の抗争が果てしなく続いていくうちに氷河期が訪れ、それを生き延びたのは機械の方だった。もちろん作品の主人公は人間だったので、敗れた側というわけだ。
『メタリック・ドリーマー』を読んでいるとふと顔をあげると父の凛々しい写真が目に入ってきた。このコミックを持っていた父は、そのコミックの主人公のような最期を迎えてしまったのだ。
私はじっと父の顔を見ていると、今までの事が走馬燈のように甦ってきた。それはまさに『メタリック・ドリーマー』の作品世界と一緒であった。
いまの私は、長い間潜伏しているので地下にある自室から外の様子を見ることが出来なかった。私はここにいるのは捕まりたくないからだ。ここは打ち捨てられた銅山の坑道の中に置かれたレジスタンスの隠れ家のひとつだったが、この国で残されたレジスタンスはもしかすると私だけなのかもしれなかった。
もし地上に出たら鋼身の奴らに捕まるのは明白だったからだ。捕まったら・・・おそらく地球追放処分は免れないだろう。そうなる前に私がしたいことは残されていた。
それは鋼身の連中と我ら生身との間に平穏な日々を取り戻すという夢だ! 無論、この身体が滅したとしてもだ! そう思っていると『協力者』が潜伏している自室の扉の小窓の前にいるのに気が付いた。
「やあ、トモミ! どうかね今日は?」
小窓の向こうにはツートンカラーのメタリック少女の姿があった。彼女とはもう二十年近い付き合いで、かつては男女の仲だった事もあった。しかし今は交わることは出来なくなっていた。
予定では2017年中に365話で完結させます。そのため毎日連載しますので、よろしくお願いします。