(第036話)勝負銅山にて.1
広野がどこかとコンタクトを取っているのは確かであったが、悠爾は恐ろしくて聞く事ができなかった。もしかすると広野は誰かと繋がっているから、今回の事態が分かっているのかもしれなかった。ではなぜ?
その謎が解けたのは随分あとのことだった。
夜が明けるころになって峠のお堂に近づいてくる影があった。そしてその声は悠爾と朋美には聞きなれた声だった。野村先生だった。
「広野! お前に頼まれたモノを持ってきたぞ! それにしてもどうして新聞販売店が預かっていたんかわからんのう」
そういって野村先生が持ってきたのは小さなジェラルミンケースだった。その銀色のケースから出てきたものは謎めいた装置だった。
「広野さん、これっていったいなんですか?」
「これはなあ、”パンドラの鉄棺”を無効化するかもしれない装置だ。実は同じものは世界各地の鉱山で見つかっていてな。実際に数百個が起動して世界各地が大変なことになっているんだ。
この装置は試作品だが、使ってみる価値があると思って送ってもらっていたんだ。ただ、町が封鎖されていたので今日の愛媛日報の朝刊配達車で持ってきてもらったんだ」
「じゃあ、これを使えば金が谷地区の人たちが助かるかもしれないってことですか。でも、どうして広野さんがやるのですか? こういったことは自衛隊の仕事ではないですか?」
悠爾が理由を聞こうとしたら野村が話を遮った。どうやらそのあたりの事情は知っているようだった。
「なあ坂垣。全てを今知る必要はないぞ。取りあえず勝負銅山に行こう! 取りあえず今俺が持ってきた装置をパンドラの鉄棺に付けてやれば、とりあえず町の封鎖は解除されるかもしれないから」
そういったところで野村は「2022年4月21日木曜日」と書かれた愛媛日報を見せてくれた。それを見た悠爾は息をのんでしまった。
「この新聞の一面はなんですか? 訳が分からないですが・・・」
「これか? 日本が完全に封鎖されたという事さ。簡単にいえば」
一面に書かれていたのは、東アジア各国は陸海空全ての往来を一時的に禁止するという事に合意したというものだった。その理由は・・・何も書かれていなかった。
「いったいどうなっているのですか世界は?」
悠爾はパニックになりそうだったが、広野はなにもかもお見通しのような感じで落ち着かせるようにこう言った。
「そうだなあ、どの国も自国に対応だけで精いっぱいという事さ。今、この国で起きていることは・・・限りない人類の終わりへの旅路が始まった事さ」
そういって広野は件の装置のダイアルを回していた。