(第035話)峠のお堂にて.3
朋美は両親が離婚し東京から愛媛に越してきたが、どういうわけか小説というものを読むのが嫌いだった。特にSF作品と聞いただけで毛嫌いするほどだった。だから悠爾の父自慢のSF小説のコレクションなどは見るのも嫌というほどだった。
その原因について、最近朋美が言うには実の父親がどちらかといえば空想科学的な現実など見ていないような事ばかりしていたからだという。ちなみに朋美の実父は技術者でも研究者でもなく、出版社で怪しげな内容の書籍編集者だった。
「ユートピアを説明せいと言われても・・・極楽浄土みたいなものといえばいいかな?」
「極楽浄土・・・なんか渋いわねその表現。理想的な社会ってことかしら?」
「まあ、そんなところ。で、ディストピアはいろいろ定義できるかもしれないけど、苦痛もなく苦労もすることもないが、平和を維持するとして全ての生活が管理される社会といったところかな?」
「それって、校則が厳しすぎる学校みたいなものかしら」
「そういうことにしておいとこう」
朋美が本を読まないのは父親に対するわだかまりのせいなのかもしれなかった。でも、本人の名誉のためにいっておくと、国語と古文の成績は結構良かったりするので、単なる読まず嫌いだといえるようだ。
それにしても政府はどうしてこんな強硬策を取っているのか分からない事ばかりだった。世界各国は自国優先主義が蔓延した結果、政治的経済的に混乱が加速し世界的な脅威に対する取り組みが後手に回ってばかりだった。
去年2021年に、半島北部で三代七〇年以上続いたチェ独裁政権が崩壊したが、崩壊の直接の原因は周辺国に対する無警告核先制攻撃であったが、チェ政権の軍事的挑発があったにも関わらず米中は互いに責任のなすりあいをしていたし、ロシアは知らぬふり、日本は経済制裁以上の事はしなかった。
唯一韓国だけは融和的な姿勢で話し合いを持とうとしたが、何故か会見場として準備していた施設ごと政権中枢を核によって抹殺してしまった。
核の先制攻撃で、中国、韓国それとアメリカ(日本も攻撃されたが核弾頭の起爆装置故障で核爆発は起きず)に数百万人以上の死傷者を出したチェ政権であったが、核の先制攻撃のあと政権幹部全員が謎の部隊によって生きたまま切り刻まれて殺害される目に会ってしまった。
半島南北の政権中枢が消滅する異常事態に陥っているにもかかわらず、米中日露四か国の思惑もあり事実上半島は無法地帯になっていた。
そんな難しい世界情勢に対し朋美はこう言っていた。
「私たちのような高校生が悩んでも、世界が良い方向に変わるわけはないけど、もし変える事が出来るとすれば、最悪の事態のトリガーを引く可能性が高いと思うわ。まあ、そんな可能性はありえないけどね」




