(第034話)峠のお堂にて.2
広野は怪しかった。自衛隊によって町が封鎖されることも知っていたし、「アマノイワト計画」という謎めいた冊子を持っているし、世界中で人間が機械になる事件が続発しているのを知っているし、それが隠蔽されていることも知っていた。そんな人間がなぜ危険を冒して自衛隊に封鎖されている地区にいくのだろうか?
「それは・・・君たちに隠してもしかたないなあ。実は封印は開きつつあるんだよ!」
「なんですか封印って?」
悠爾が聞くと例の「アマノイワト計画」の後ろの方を開いた。そこにも多くの部分が黒塗りになっていてのり弁のようであったが、ページの半分がはっきりと読めた。
「ここにあるんだが、”パンドラの鉄棺”とは、地球外の超高度知的生命体が送り込んだもので、ある程度にまで発達した文明が自壊する際に、その文明の担い手を次のステージに人工進化させる装置ということだそうだ」
「地球外? でもどうして今なんですか」
「それは・・・君がモノ心ついてからの世界ってどうだった? 地球環境は悪化するし世界中で難民が発生するし、テロや戦争が激しさをましているだろ! それに去年は核兵器がとうとう使われてしまっただろ!
それに対してどこの国の政治家も自分の国さえよれればそれでいいと、大衆迎合的な政治ばっかりしているだろ。それに貧富の格差は拡大し社会もバラバラだろ? 遠かれ早かれこの地球に住む人類は衰退するのは間違いないだろう? だから、おせっかいな超高度知的生命体が介入しはじめたわけさ」
「超高度知的生命体って、まさかそいつらは・・・機械?」
「ああ! 厳密にいえば有機化合物と金属が入り混じった機械生命体というわけさ。そいつらは、この記述が正しければ、人類をアリやハチのように社会的複合社会に再構成するのが目的のようだ。
そうすれば、個性は存在していたとしても社会を維持するためにのみ存在がゆるされるというわけさ。しかも身体の新陳代謝も向上するし、地球の環境にとって負担にならない社会が実現するわけさ!」
「それって、ディストピアじゃねんかい?」
「ディストピアってなによ! 悠爾!」
長々と広野と悠爾が話していたところに朋美が割って入ってきた。二人だけの世界に入っていたのでタイミングがつかめられなかったのだ。
「それは朋美。ディストピアとは親父が持っていたSF小説にあった話だけど、まあ話をするだけで夜が開けても終わらないけど。
簡単に言えばユートピアとは逆の世界だ」
「ちょっとまって! ユートピアってなによ! それが分からなきゃ分からんでしょ! 悠爾!」
朋美は大きくなりそうな声を殺すかのようにして思いっきり感情をぶつけていた。




