(第028話)人類の黄昏前夜.4
不安な夜を過ごしていたら、送電が再開され明かりがつくようになった。それで悠爾は店にあるパソコンで父からのUSBメモリーを見ようと思ったが、電源が立ち上がらなくなってしまった。かなりの旧式だったので停電のショックで立ち上がらなくなってしまったようだ。それで確認するのは諦めてしまった。のちに、それが重大なミスにつながるとは思ってもみなかったが。
電気がつくようになっても戻らないものがあった。それは電話回線とネット回線だった。どうやら自衛隊によって情報が漏洩させないための措置のようだったが、そこまでして漏らしてはならない情報がこの町にあるというのは間違いなさそうだった。それは彩華と明日菜のようにロボットに人間が変わってしまうという事のようだ。しかもそれは、日本だけでなく世界各地で続発しているようだった。
悠爾はネットで情報が集められないのでテレビをつけてみた。夜が開けぬ午前三時であっても全てのチャンネルが異常なニュースばかり伝えていた。
メキシコの国境の壁をよじ登るアメリカからの脱出者、同じように中国各地の大都市から逃げ出す群衆、そして各国の国境が閉鎖され押し問答する人々・・・それらの様子は伝えられてもその原因についての説明は一切なかった・・・
ただ、ひとつ確かなのは人類が大移動しはじめているということだ。なんらかの脅威から逃れるために。その脅威は、おそらく正体不明の要因で機械化される新たな人類のようだった。そういうことは、この町は既に前線ということのようだ。
テレビを見ていると祖母が起きてきた。彼女も訳が分からず困っている様子だった。テレビを一通り見てこんな話をし始めた。
「わしの若いころ、1999年に世界は終末を迎えるという話があったんだよ。たしかノストラダムスの大予言とか言ってね。それで人類は核戦争で滅ぶというもっともらしい予言本がよく売られていたよ。でも、1999年はそんなにひどいことは起きなかったから、お前が生まれたわけだ。
でも、今はほらあんまりにも世界が分断しているし対立も激しいだろ? この前のニュースで世界終末時計が残り1分なんていっていたけど、こうして話をしているうちにこの世界は終わるかもしれんから」
そういって祖母は冷蔵庫から二つ持ってきた。
「ばあちゃん、それってビールだろ? 俺はまだ高校生だろ!」
「それは承知のうえだよ。わしはお前が行きたい大学に行けて、それで独り立ちするのが希望だったんだ。そして二十歳になったらみんなでお酒を飲みたかったんだが・・・今、飲んでくれねえかよ? お前が酒を飲める年齢までこの世界が続いているように思えんからのう」