(第001話)新暦十五年の地球
地球の文明の担い手が交代した未来。その経緯を知る男が語る物語とは? なぜ人類は衰退したのだろうか?
新暦十五年、地球は大きく変わっていた。他の恒星系の超高度文明と交流するようになり、自然環境も劇的に改善されつつあった。文明によって傷ついた環境は自然界の変動レベルに修復されつつあるし、汚染物質をまき散らす産業も徐々になくなっていった。それにより生態系も元に戻りつつあった、人類の干渉がなくなりつつあったから・・・
そう、この地球上にいた数多くの人類は劇的に姿を消しつつあったからだ。それは「緩やかな」絶滅に向っているといっていい事態だった。その原因は核兵器による全面戦争が起きたわけではなく、また人類にとって致死的な疫病が流行ったわけではなかった。まあ人によっては疫病ともいえるかもしれないけど。
私、坂垣悠爾は残り少なくなった人類のひとりだ。故郷である日本も世界各国とおなじように・・・いや、いまはユニットと呼ばれる管理組織の一つにされていたが、とにかく人類はいなくなりつつあった。十五年前のあの日以来、地球上の人類は他の存在に置き換わっていったのだ。その最初の原因が生じた瞬間に立ち会ったのにも関わらす私は今も昔の自分のままだった。
数多くいた人類はどうなったのか? それは、数少なくなった人類からすれば驚異の存在になったとしか言えなかった。
昔、高校生の時に見た映画でゾンビウイルスが世界に蔓延し、人類が滅亡に瀕するというものがあった。そいつらは知能もなくただ仲間を増やすためだけに無秩序に暴れまわるだけであったが、その脅威の存在は人類よりもはるかに進化した生体機能と社会秩序を獲得していた。しかも、そいつらのほうが(種族間ではあるが)はるかに理性的であった。
人類はそいつらに駆逐されたのであった。では駆逐された人類はどうなったというのか? それはそいつらに同化してしまったのだ。
私はそいつらの社会体制に反抗するレジスタンスに参加していたが、それもいまは昔の事になった。そう、人類は敗れたのだ。
人類側のレジスタンスは装備も人数も劣っていたが、最大の敗因は滅亡の淵に追いやられても最後まで宗教的、民族的なエゴを乗り越えられなかったことだ。それに対しそいつらはプログラムに従い対処するのだから勝負は最初からついていたといえた。それに、寛容にもレジスタンスに参加していても仲間になることを許容したのだから、生きていくためには投降しか道がなかった。それが人類としてのアイデンディティーを捨てることであっても。
私が今いるのは、かつて四国と呼ばれた島の中にあった銅鉱山の坑道のなかだった。ここにいればとりあえずそういつらに捕まって同化させられることはなかったからだ。私はそこで時を待っていたが、それが報われないかもしれないと分かっていた。
もし人類としての存在を捨てないのなら私は殺処分されるか、別の惑星系の人類保護区に行くしかなかった。地球上には人類が生存できる地域といえば近代工業社会になる以前の生活を営んでいる先住民保護区だけであった。中途半端に世界有数の文明国だと主張していた現代の日本人は地球に残留することが許されないのだ。
だから私は隠れるしかなかった。そいつらは私一人なんかその気になれば捕まえるのはたやすいのかもしれなかったが、私なんかはお目こぼししていたのかもしれなかった。そう、人類一人が隠れていても大勢に影響しないのだろう。
私は古びたタブレットに記憶していた動画を暇つぶしにそいつらが誕生する様子を見ていた。人類の身体を分解して再構成し機械生命体に変化するおぞましい光景だ。
その画像はかつて世界最強とされた合衆国陸軍の研究所で撮影されたものだ。もっとも今では影も形も存在せず、かつての国防総省ビルなどは北米総ユニット本部に衣替えしているが。
それはともかく画像の女性は若いビキニ姿で「感染」してから数時間している様子だった。彼女の胸のビキニの下が黒い塊のようなモノが現れ、それがやがて全身を覆っていった。その途中で彼女は嘆き悲しんでいるようだったが、彼女がしゃべっていたのは英語以外の言語のようで意味がわからなかった。とにかく彼女の白い白磁のような肌が黒光りする金属質のものへと変化していった。
そして全身タイツでも着たかのような姿になったかと思うと関節に切れ目が入りはじめた。そして切れ目に区切られた体表が盛り上がっていって、ツルンとしていた顔に疑似的な目と唇と鼻筋が浮かび上がったが、それは能面のように無表情なものだった。そして彼女はロボットのようになった。
そのロボットのようなものが地球を支配する機械生命体の一形態であった! 人類が生まれ変わった姿であった!
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