(第012話)隠蔽された迫りくる危機.1
四国の北岸にある燧灘町はこのまま永遠にのどかな光景が続くかのような雰囲気の町だった。しかし実際には町は寂れ人は去っていきそして自然の雑木林に還っていきつつあった。ただ、その変化はゆっくりとしたものであった。
しかし、この町を取り巻く世界の情勢は混迷の度を増していた。二十一世紀初頭から始まった対テロ戦争は世界各地に拡散、それに乗じて野心に燃えた政治家たちが「国家権益の確保」を名目に他国の権益をも侵害する形で介入したため悪化の一途を辿っていた。
そんな状況は2022年になるとさらに悪化していた。地球の五大陸全域に混迷が拡大していた。例えば日本の周りでは前年に設置された国連ノース・コリア暫定統治機構(UNTANK)の運営を巡りニュージーランド人リチャード・グリンウェル事務総長特別代表と日米中韓露が激しく対立し事実上の無政府状態になったほか、2022年冬季五輪閉幕後に日中両軍事勢力による偶発的衝突が東シナ海で起きるなど、非常事態になっていた。
しかも、その状況を上手に収める事が出来る政治家は一切存在しなかったのも混乱に拍車をかけていた。そうなったのも、互いの国の欠陥を罵ることで国民の高揚感を煽る事のみで支持を集めてきたポピュリズム政治家にビジョンなどなかったからだ。そう人類社会が共栄共存していくことに関心などなく、自分が生きている間ぐらい自分の国だけよければいいという衆愚が台頭していた・・・
「おい、広野。こんなところで油を売っていていいんかい? 自衛隊にアポでも取らんといけないんじゃねえんかよ」
野村は片手に缶ビールをふたつ持っていた。それは広野がそんなことをするつもりじゃないという事を承知のうえだった。広野は先日まで東京で取材活動をしていたが、取材中に不祥事を起こしたとして愛媛県南予支局の通信員に左遷されたばかりだった。
「とらんさ。どうせ上は今回の事態は緘口令が解かれるまで一切紙面に載せないつもりさ。まあ、緘口令が解かれる頃には手遅れだろうが」
そういって広野は取材ノートをめくっていた。本当はタブレットに記憶していたけど、没収されたらパスワードなどあっという間に解読され情報が封印されるのは目に見えていたのであえてアナログな方法を取っていた。そこには汚くて判読不能な書いた本人以外は読めない字で書かれていた。
「そういうことは、いま何が起きているのか知っているのか?」
野村は少し興奮気味で聞き返した。すると広野は缶ビールを開けグイグイ飲んでから少し考えていたようだった。何から話そうかと。