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祟り神の少年  作者: 如月
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祟り神と鬼姫③


第二次世界大戦が終了してから今や130年が過ぎた。それから日本は大した戦争もなく平和な日常を経験していくわけだが、ここ50年の技術の成長は異常異例だと言われている。

 技術躍進の発達を促す決定的なきっかけとなったのは60年前。棚町教授による第6感を決定する形質を持った子どもたちの発見である。教授はとある死体から現代の人間にはない遺伝子構造があることに気がついた。当時の世の中は人間の遺伝子操作を行うことは倫理的に問題であったが、彼は己の好奇心を抑えることができなかった。自らの研究員の子どもたちを使い、遺伝子改良を行ったのだ。

 そして、子どもたちの誰もが奇妙な力を持っていたことを発表した。この事実を受けて世間の遺伝子変化への眼は変わった。我も我もと遺伝子操作をしようという研究者が増えていく。いつの間に人に対する遺伝子改良の技術が進み、裕福な家庭でも遺伝子を自由に操作できる設備が整った現代。生まれてくる子ども達の遺伝子を操作して理想の子ども達を造る技術。遺伝子を操作されて生まれてきた子どもたちは遺伝子教育者と呼ばれた。

 また第6感調査から得られた研究成果は様々な技術に応用され、その余波で始まった技術革命ともいえる成長。しかし、その裏で遺伝子教育に関わった子ども達の全てが成功したわけではなかった。失敗作とも呼ばれる子どもたちもいたのだ。

 記憶容量、身体能力、演算能力普通の子ども達とは何ら変わりない彼らだが、成長するにつれて幻覚を見ているような妄言を吐き散らした。

 このような事態に陥り、しだいに第6感調査はされなくなったが、未だに遺伝子教育は続いている。それが今、赤井崇志が生きる時代。


赤井崇志、16歳。初恋と初の告白は中学2年の夏。撃沈の思い出だった。それから恋愛などしたこと無い。

 言い訳をすれば、周りの女子は怖がって近付いてこないのだが、実際のところ怖がられてなくても、口下手を自覚している崇志には女の子と仲良くなれるとは思えなかった。崇志は昔のことを振り返りながら、雑巾を動かした。

「いやぁ、本当に有難いことですよ」

 赤井智樹は上機嫌な調子で自称神様の鬼姫に話しかけている。鬼姫も愉快そうに胡坐を掻いている。彼らの横には酒がいくつも転がっていた。

「正直なところ、崇志の将来が不安だったんですよ。何せ本当に根暗で」

「安心してくれ。私のチカラであの社会不適合なクズをハキハキとした性格に矯正してやるよ」

 鬼姫が大口を開けて酒を一気飲みしていく。ゲラゲラと笑いながら祖父も酒を仰いでいる。さりげない祖父からの中傷にもめげずに崇志は赤井神社の掃除を淡々とこなす。

 赤井家に着くなり、鬼姫を見て茫然としていた智樹だったが事情を説明したところ、というより、崇志の嫁探しをすると話をした途端、両手を上げて喜び歓迎し出してしまった。

その一方で 崇志は神社の掃除を命じられ、ようやく一通りの崇志が終わったところだ。

ちなみに智樹は明日から出張があるので、身体に負担がかかることはしたくないと言い張り酒を呑んでいる。

「掃除が終わったぞ」

 ひとまず全体の雑巾がけが終わり、崇志は話し合う二人に声を掛けた。鬼姫が鋭い視線を向けてくる。

「まだ足りない。もっとたくさんしな」

「おい、おい。もう三回もここを雑巾がけしているんだよ」

「そんなことで私の気持ちがおさまるとでも思ってんの?私はこの土地の繁栄祈願のためだとか言い含められて、お前の先祖に何百年とあの井戸に閉じ込められていたんだぞ?泣いて叫んで恨んでも私の声も思いも呪詛も、誰にも届かない。その心境がお前に分かるか?」

「いや、それは」

うっと崇志は口ごもる。彼女が晒された状況を思い浮かべて少しだけぞっとしたのだ。

「でも、そのことについては別に良い。そのことに関して、私は許すことにした。悲しみで狂いそうになった時もあったけど、人間達は私を崇めてくれた。私を信仰して、たくさんの声と思いを私にくれたから、私は私を封じた赤井の子孫を恨みはしない。でもね、今の神社の状態だけは許せない!」

 酔っ払っているのか、鬼姫は大声で主張する。

若干顔を赤らめた鬼姫が睨んできた。

「私の本体は、先ほどまで井戸にあった。本体と神社は離れているが、この神社は私にとって大切なものだった」

 そう言って彼女は自分を指差し、次に上座に飾ってある鏡を指差した。

「この神社を通して土地からの声や思いを私は食べる。この神社は私にとって人間で言う口に等しい。口が汚れていてお前はどう思う」

 厳しい口調で問われ、崇志は困惑気味に頭を掻いた。

崇志の態度が気にくわなかったのか、鬼姫は更に顔を赤らめて口を開いた。

「主にこの鏡が私と繋がっているのだが、この鏡は神主と繋がっている。崇志、お前が私とって最も苦手な悪霊を付けている所為で、この鏡も汚れ、結果私の力も激減している」

「呪われたのは、俺にはどうしようもないことだろ」

「そうだな。確かにそうだ。私は寛大だから不甲斐ないお前のことを許してやる。だからせめて、必死に掃除をしろ。そうすれば、私がこの土地を、この世界を征服し終わった後、貴重なポストをお前に与えてやろう。頼りにしているぞ、崇志」

「征服って何だよ。お前、一応は神様だろ。それと俺は貴重なポストなんていらない。俺に憑いている女の子をどうにかしてくれればいいよ。俺は普通の人間として暮したいんだ」

 崇志が悲鳴を上げるように言うが、彼の言葉が耳に入らないのか鬼は拳を握りしめ、崇志へと一方的に話を始める。

「私は鬼だが神様の資格もある。今の世の中は、人間達が好き勝手し放題している。一度懲らしめてやらないといけない人間達が何人もいるのだ。知っているか?最近の似非魔術師のことを?」

「似非魔術師?」

「神に近づこうとする人間達のことだ。あろうことか奴らは私のような神を捕まえ、研究しているのだ。不敬だと思うだろう。奴らは『ヤオヨロズ』と名乗っている」

「な、何を言っているんだ?」

困惑した声で崇志が尋ねるが、鬼姫は話すことに熱中していて彼の声が届いていない。

「あぁ、不条理に満ちている。だから、支配しなくてはならない。どんな手を使ってでも、『ヤオヨロズ』を討伐しないといけない。その第一歩としてまずは新しい神主を設け、崇志を遠ざけ、私のチカラを戻さなくてはならないのだ。分かっているな」

「それは神様の言うことでは無いと思うぞ」

 一応、祟り神である崇志が窘める。

 その言葉に、鬼姫が首を振る。

「人間に最も大切なのは神様だ。人間には信仰が必要なんだ。私が神になり、人間達全員が私を信仰すれば、全ての人間を幸せにすることができるんだよ」




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