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いただきますとごちそうさま

作者: 宮本 ナオ

いつも



なんとなくいただきますして、

なんとなくご飯食べて、

なんとなくごちそうさまをして。

美味しい、温かいこの食事が当り前だと感じているからか、



お母さんの「おいいしい?」にうまく答えられなかった。



ご飯を噛むふりをして、考えた。

けれどやっぱり気の利いたうまい言葉なんて出てこないから、

飲み込むふりをして頷いて、「おいしい」とだけ答えた。


ジャガイモがちょっと苦いなんて言う横でばあちゃんが言うものだから、

ちょっとだけばつが悪くなって、箸の先を前歯で噛んだ。


最近お母さんは美味しそうなレシピを見つけては休みにそれを作って、食卓に出す。

美味しいか、苦手か、どんな風だろうかと気になっていたのかもしれなかった。


朝になって、ふと晩御飯はなんだったかなんて考えることがある。

けれどそれは曖昧で、思い出せなかったり、微妙なところで詰まったり。

ぼうっとして食べているから、何を食べたか覚えていないんだ。

お母さんの肉ジャガは美味しい。

でもそれがどんな味だったかなんてのはひどく曖昧だ。

懐かしいお袋の味なんてのは、きっとこの先追い求めても出会えないんだろう。

そう思うと、なんだか悲しくなった。


こんなに平和な世の中で、こんなに美味しい栄養のあるものを食べているのに、

感謝のいただきますとごちそうさまを、

ただ独り言のようにつぶやいて口にご飯を運んでいるだなんて、

なんて罰あたりなやつだろうと思った。


これじゃあ、戦争時代飢え死にした彼らに叱られてしまう。

今各地で空腹に耐えている人たちにも怒られるだろう。

食材と、それを作ってくれた人にありがたみを持って手を合わせましょう。

いつかそう言った、幼いころに先生に教わったのを思い出した。


そっと、ほろりとくずれたジャガイモを口に放り込んだ。

ばあちゃんの言うとおりちょっぴり苦くて、顔をゆがませる。



「ごちそうさま」



ぱん、と手を合わせて、飲み込んだ。

お茶碗の中にこびりついた米が、すこし、嬉しそうに輝いてみえた。

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