とろいめらい
■とろいめらい
【虚構もどき】
雨降りのある日
一瞬、現実が私から
遠ざかって行った
私は非現実的な感覚を覚え
現実から切り離される
と云う不安と
総てを捨て去り堕落する
と云う幸福を覚えた
いつも私の周りに在るモノ達が総て嘘に見えた
窓枠に切り取られた
箱庭のような校舎
何処にも届かず宙空を漂う先生の声
クラスメイトの茶色い髪
目の前の古い机
白いルーズリーフ
灰色の空は雨雲に覆われている割に明るい
黄色味がかって見える窓の外の見慣れた景色のなかに
雨の筋がやけにくっきりと見える
雨は秒単位で
強まったり弱まったりを
繰り返している……
ほんの一瞬
周りのざわめきも
先生の声も
雨音も…
一切の音が
私の耳に届かなくなった
また音が帰ってきた時、
私は虚構の中にいる様な
そんな妙な気分になった。
【アンノウンシック】
如何ニモ
気分ガ晴レナイ
良ロシクナイ
何故カ気ガ鬱グ
先程カラ
ズット続イテイル
頭痛ト吐キ気ト目眩ノ
原因ノ究明ハ
未ダ出来テオラズ
徐々ニ悪化シテイル
熱ハ36、0℃
平熱。
遂ニハ
腕手ガ眼瞼ガ
震エ出シタ
身体ヲ自由ニ操レヌ
各々ノ部位ガ好キ勝手ニ
動イテイル
目ガ霞ム……違ウ
目尻ノ方ニ
白イ塵ガ
付着シテイルヤウダ
幾ラ擦ッテモ取レヌ
…鏡ヲ見テモ塵ナド在ラズ
結局原因ハ不明。
相変ワラズ
頭痛ト吐キ気、目眩
腕手、眼瞼ノ痙攣ハ
続イテイル
【とろいめらい】
古い地球儀と
膨大な書架
数枚の油絵と
塑像や
球体間接人形に
美しい鳥やら蛇やらの剥製
そんな空間を映す夢は
屹度
溜め息が出るほど美しく
声すら出せぬほど残虐な
現実的な戯曲なのでしょう
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