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最凶の存在  作者: 翔さん
第弐章*過去編
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過去・最終話*目覚め

「間に合って良かった」


そっと頭を撫でられ、懐かしい声が響く

あぁ…なんだ…

心が落ち着いていくのを感じた


先程まで感じていた死の気配も、とてつもない殺気も…全て安心出来るものに変わった


「狂羅様…」

「うん。ごめんね、遅くなって」

「いえ…来てくれましたもの」


目の前に広がる真っ暗な闇も…狂羅様のものだと思う事だけで、全て変わったものに見える

闇が先程まで何かのいた場所目掛けて瞬時に移動する


闇は晴れ、狂羅様の姿が良く見える様になった

もう、私は何かを気にする事なく、ただ狂羅様だけを見つめる


狂羅様の瞳は真っ黒だった

何も映さない瞳が私を捉える


狂羅様は何も言わずに歩きだし、自らの影から剣を取り出した

その剣は、ひたすらに黒く大きく…禍々しいにも関わらず、どこか神秘的な剣だった


「********」

「もう何もかもがどうでも良いんだ。僕があなたを殺す事もただの切っ掛けに過ぎないんだ」

「********!*******!!」

「何度でも言うよ。もうどうでも良いんだよ。この世界も、生きている人も魔物も、全ての命あるものに僕は興味はない」

「狂羅様…?」


狂羅様は何かと話している様だ

私では言葉も分からない何かとの会話に、ただ私は不安を抱く

まるで、狂羅様が全く別の何かに変わった様な…


「今まで自らを圧倒的な強者だと信じ、弱者に徹底的に絶望を与え続けた。降臨魔法『暗黒界牢』」


狂羅様がそう呟いた瞬間、世界が変わった

大地も空も消え、薄暗い空間が延々と続く世界…


「まさか…異なる世界だと!?」

「そう、この世界は僕の闇の中にある、時空間の違う世界。気づいているとは思うけど、この世界から抜け出すには僕を殺すしかない」

「あり得ない!神である私を封じ込める等、あってはならない!!」

「何を言ってるの?封じ込めるんじゃない。あなたを殺すんだよ。勿論再臨出来ない様に徹底的にね」


狂羅様の視線の先、そこに騒ぐ1人の男がいた

特徴のない平凡な男

それが何かの正体なのだろう

そして、見えなかった姿が見える様になり、言葉も分かるのはきっと狂羅様の魔法によるものだろう

世界を創造する魔法…


「あなたに遥かなる高みと、想像し得ない絶望を与えよう」


狂羅様が黒い何かを纏う

それに呼応するように世界はより暗く…色褪せていく


「あり…あり得ない!人間が!ただの人間がっ!!」

「僕が…僕こそが全てを包み、終焉をもたらす闇である。光を夢見る人間を弄び、命を奪う神を名乗るあなたに、より深い絶望と、その生に終焉をもたらそう」

「ふざけるな人間風情が!良いだろう、私が相手をっ!?」


狂羅様の言葉が終わり何かを言おうとした神の右腕が消し飛んだ


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「今まであなたは痛みを感じる事がなかった。それはただ神と呼ばれるルールに守られているだけだった。あなた自身に戦う力はなかった」

「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!」

「あなたに弄ばれた人達はその程度の痛みではなかった。なのにそれを与えたあなたは腕を斬られた程度で這いつくばり泣き叫ぶ」


何事もなかったかの様にたつ狂羅様

狂羅様が神の腕を切り落としたと、頭では理解出来た

ただ、何も見えなかった…

何も感じなかった…

その場から動いた事すら分からなかった…


「くっ!ふざけるなぁ!!『ラゼーテ』」


怒り狂った神が残った左腕に、私を狙った時と同じ光を集め始めた

狂羅様は何もする事はなく、ただ佇んでいた

そして、神の左腕から放たれた光が佇む狂羅様を襲った


「狂羅様ぁ!!!」


轟音の後の一瞬の静寂

そして…神の左腕が切り落とされ、神の絶叫が響き渡った


「何をしても良いよ。あなたの持てる全てをぶつけてくれて構わない。それとももう終わり?」

「ま、待ってくれ!ゆ、許してくれ!何でもする!なっ?」

「そう…じゃあこれで最後にしよう。降臨魔法『癒しの拷問室』」

「なっ、なんだこれは!?何なんだこれは!?」


突如現れた小屋らしき物

その小屋の扉から鎖が飛び出し、神を引きずり込んだ

神が小屋に連れ去られて数秒後、神の絶叫が聞こえた


中で何が起こっているのかは分からないけれど、絶叫は止まない

尋常ではない絶叫が響き渡るにも関わらず、狂羅様の表情はいっさい変化がない


「狂羅様…」


私が呼び掛けたその言葉に反応はなく、世界が変わる

まるで崩れ去る様に砕けていく世界の外に、元の世界の光景が広がっていく


「お姉様!」

「ソフィア!!」

「姉ちゃん!」


背後から私を抱き締めるカリーヌさん

後に続くヤンフとヘルウェル


「久し振りだね、ヘル」

「お兄様!?」

「少し待ってて。直ぐに終わらせるよ」


そう言った消えた様の足元から闇は伸びていき…そして騎士達が消えた

私の出していた氷樹ですらも全て消えた


でも…狂羅様はまるで作業をする…いや、眺めるかの様に何も感じていない

私はその事がとても不安だった


「どうやら僕もまだ憎しみとやらが残っていた様だね。ほんの少しでもこれ程影響するとは思わなかったけど。さて、カリーヌさん、ヤンフ君、初めまして狂羅と言います。早速で悪いのですが、落ち着ける場所、そうですね、お二人の家にお邪魔しても宜しいですか?」

「…あぁ、構わないよ」

「ありがとうございます」


家に向かう道中、ヘルウェルが狂羅様に話しかける

それに機械的に返す狂羅様に、私はやはり不安が溜まっていった


家に着くとカリーヌさんがお茶を入れて配った


「ヘルとソフィアさんに良くしてくれて、ありがとうございました。長い年月一緒に過ごして下さってありがとうございます。それから、ごめんなさい。僕が起きていればダンテさんを助ける事が出来たにも関わらず、僕は時間がかかってしまいました。申し訳ありませんでした」

「…気にしなくていいよ。夫が死んだのはあんたの責任じゃない。それにソフィアがいてくれて助かっているからね。何よりも楽しかったさ」

「お、俺も!」


狂羅様が1度頷く


「…連れて行くのかい?」

「はい。ソフィアさんだけが僕に残された希望ですので」

「…そうかい。ソフィア、今まで楽しかったよ。ありがとね。寂しくなったらまたおいで」

「姉ちゃん、俺も楽しかった」


薄々は感じていた…

狂羅様は急いでいる様に見えたから…


「カリーヌさん…ヤンフ…本当に…本当に心から感謝していますわ。カリーヌさん、私は私が決めて狂羅様の隣に立ちますわ。あの日、私が話した事は何があっても違えることはありませんわ」

「そうかい…それが聞けただけで少し安心したよ。頑張りな」

「はい」

「ヘルウェルもまた遊びにおいで」

「はい。ありがとうございました」


カリーヌさんに頭を撫でられた後、抱きしめられた

私の中の不安を和らげる優しい暖かさ…


そして、私達は家を出た

心残りはあるが、長引けば長引く程別れが辛くなる…だからこれで良かったのだと思う


「狂羅様…何処に向かわれるのですか?」

「イスラエル国だよ。ソフィアさんのいた国だよ」


こうして私達はイスラエル国と向かった


…全ての始まりの地へと








******


壮絶な過去の話を聞いたカイラ達の表情は暗い


「そうして俺達はっ!?…そうか。すまない、俺はもうここまでの様だ」

「狂羅?」


そう私が口に出した瞬間に空気が変わる

狂羅の瞳が黒に塗り潰される


カイラ達の体が震えているのが分かる

初めての時の私と同じ様に…


「初めまして、僕は狂羅。もう1人の僕の友人であるカイラ君にエレナさん、シェルさんとミンミさん、弟子のミル君と妹のミーアさん、使い魔のフェスさん。もう1人の僕は優しい人に囲まれていた様で良かったよ」

「狂羅様…」

「ソフィアさんも久し振りだね。さて、話を中断して悪いけど、そんな状況ではなくなったんだ。深淵魔法『死者蘇生』『剥離せし魂』」


狂羅様の言葉に反応する様に大気が震える

足元に広がった魔方陣から不気味な唸り声を上げながら、死体が現れた

誰かも分からない死体は一歩踏み出した所で止まった


「狂羅様、これはなんですの?」

「これは死体だよ。本人の魂を抜いた状態のただの死体」

「…これをどうするんですの?」

「まぁ、見ててよ。深淵魔法『迷える魂の定着』」


狂羅様は自らの胸へと手を当てる

すると狂羅様の手は体の中へと入り何かを取り出した

そして、呟いたその言葉の最後と共に、死体が動き出した


「体の調子はどうかな?」

「頗る最悪だな…それにしても…対峙して分かるが、お前はやはり狂っている」


狂羅様と会話をする死体に驚きを隠せない

それに…狂羅様が少し笑った気がした


「ねぇもう1人の僕、君は知っている筈だよ」


だが、狂羅様が次に口を開いた言葉に、この場にいる者全てが呼吸困難に陥る程の圧迫感が支配した


「この僕を誰だと思ってるの?狂神、黒志狂羅。最も狂った神であるこの僕に、その疑問は失礼だよ」


殺気ではなく、ただ狂羅様の存在に圧倒される

格が違う…

人神とまで呼ばれる私ですら、次元が違うのだ…

あの日、狂羅様が眠りについた日から私も腕を上げたと思っていたけれど、追いつく事…いいえ、後ろ姿すら見えないなんて…


そう思った時、圧迫感は消え去り、狂羅様に頭を撫でられた


「…びっくりしましたわ。急に驚かされると困ってしまいますわ」

「そうだね」

「その…何をなされましたの?」

「あぁ、もう1人の僕の魂を切り離して、新しい体に定着させたんだよ。つまり、今から僕とは別の道を歩くんだよ」

「狂羅様は人格を分けたのですね?」

「まぁ、そんなところ」


つまり、狂羅様のもう1つの人格である狂羅は、狂羅様と体を離れ新たな命を得たのだ

それは、命の創造を意味する


「さて、もう1人の僕に名前をあげないといけないね。君は今から修羅だ。もう、僕とは違う1人の人間だよ」

「……本当に良いのか?」

「うん。修羅、僕の弟…。歩き出した僕はもう止まらない。いや、止まれない。数多くの命が僕の糧となった。この腐りきった世界で尚、美しく輝く魂があるんだ」


狂羅様が私を見る

頬が熱くなるのを感じ、どうすれば良いのか分からず視線を揺らす


「この腐った世界に巣くう悪は全て狩り尽くす。些細な悪意も全て滅する。僕は僕以外の悪を許容しない。見逃さない。僕は絶対なる悪をもって、小悪を滅する」


狂羅様が立ち上がり歩き出す

慌ててその背を追いかけようと立ち上がった所で、狂羅様が振り向いた


「この世界の生物の何割かは死ぬことになる。世界の希望に選ばれた君達は、僕の前に立つのだろうね。修羅とソフィアさんを友と呼ぶ君達は、美しい魂を持っている」


その色なき瞳がカイラ、エレナ、シェル、ミンミ、ミル、ミーアの順に移動し、私を捉えた


「ソフィアさん、楽しかった?」

「え?は、はい。楽しませて頂きましたわ」

「そう」


急な質問だったが、私は本心から答える

楽しかった

楽しかったのだ


そして、その瞬間に空気が変わった

濃密な死の気配が部屋を満たし、狂羅様の体を闇が覆う


「選ばれし英雄達よ。いずれ僕の前に立ちはだかる英雄よ。この世界の頂に立つ僕へ挑戦する英雄よ。今から僕はこの世界に巣くう小悪を滅していく。自らの信念のもとに立ちはだかる英雄よ。強くあれ。何度でも立ち上がり強くあれ。迷いなき信念と、遥かな強さの先で僕は待つ。狂神、黒志狂羅を越えて行け、英雄よ」

「か、必ず止めてみせます!」

「俺らが必ず!」


エレナとカイラは立ち上がり吼えた

震える体を鼓舞し立ち上がった


「狂神様に救われた私が…狂神様を救ってみせます!」

「ぼ、僕だって強くなります!」


ミンミとミルが立ち上がり吼えた

震える体を鼓舞し立ち上がった


「時間は限られてるよ。僕が殺し尽くすか、君達が僕を殺すか。さぁ、今この瞬間からゲームを始めよう。世界の命運をかけたゲームだ。降臨魔法『選別の闇』」


本来感じる事が出来ない魔力が、圧倒的な質量をもって空間を支配する

その莫大な魔力は瞬時に消え、突如世界が暗くなる

日の光が何かに阻まれ、シェルとミーアが影に覆われた


「シェル!?」

「ミーア!?」


悲痛な叫びをあげるミルとエレナだが、影は消え、額に白い紋様が浮き出ていた


「その紋様は悪か善か、ただそれを示す。それから英雄には紋様は出ない。黒の紋様が浮き出た者はゴミだよ。だから僕は黒の紋様を持った者を殺す。この世界の4割もの人類に出た。やはり、この世界は腐ってる」

「世界に…世界に魔法をかけたのですか?」

「そうだよ。維持は少し魔力を使うけど、1年後には、この世界に定着出来ると思う」


誰もが理解した

これが…この世界の頂点…

世界にすら影響を与える力…


これが狂神…


「さようなら」

「きょ、狂羅様!」


狂羅様の足元に闇が集まり始めて、私は慌てて声をかける


「駄目だよ。ソフィアさんはこちら側に来ては駄目なんだよ」

「私は…私が行きたいのです。狂羅様の側にいたいと、そう思っているのですわ」

「ありがとう。だから、これは忠告だよ」

「忠告ですの?」

「そう。きっとソフィアさんには辛い事になるからね。それでも良いなら僕は止めることは出来ないよ。ソフィアさんの行動はソフィアさん自身が決めるべきだからね」

「では、私は狂羅様の側にいたいですわ」

「分かったよ。でも始めは逃げさせてもらうよ。しなくちゃいけない事があるからね。だから…追いかけておいで。それがソフィアさんの望みなら」


その言葉を最後に狂羅様は消えた

背後でいくつも息を吐き出す音が聞こえる


私は直ぐに探し始めようと外に出ようとするが、背後で行われる会話に思わず歩を止める


「それで、お前達はどうする?」

「そうですね。まずはお父様に報告し、現在の英雄を探しだして貰える様に頼んでみます。それから各国との連携の強化でしょうか」

「それで、狂羅…じゃねぇな。修羅。俺達で狂羅に勝てるのか?」

「無理だな」


即答で断言する修羅


「お前達の前に立っていた俺は狂羅から力を貸し出されていた。1割にも満たない力だが、それでも今のお前達なら圧倒できる力がある。そして、あの時の俺でもソフィアには遠く及ばない。この意味が分かるな?」


私に視線が集まる


「勿論私でも狂羅様に勝つなど不可能ですわよ?守りに専念すれば、少しは凌ぐ事も出来るかと思いますけど」

「狂羅の強さは他の人神の奴等とはかけ離れたものだ。その圧倒的な魔力量はソフィアの軽く10倍以上はある。更には生物が生き残る為に習得してきた知識と技術による、誰も届かない戦闘技術。狂羅は間違いなく史上最強の人間だ」

「狂羅様に勝とうと思うのならば、それこそ人神が9人いたとしても足りないと思いますわ。そもそも狂羅様に勝とう等、不可能なのですわ」

「ソフィアの言うことは正しい。狂羅に勝つ可能性等、限りなく0に近いのだろう。それは、お前達が鍛えて強くなっても変わらないだろう」

「じゃあ、俺達はどうすれば良いんだ?」


カイラの当然の疑問に修羅は少し考えた後、話始める


「まずは鍛えるしかないだろう。肉体的にも精神的にもな。そうしなければ対峙しただけで死ぬ可能性があるからな」

「どうゆうことですか?」

「狂羅の殺気を受けただけで死ぬ可能性があると言う事だ。今の俺程度には強くならなければ、戦うどころではない」

「そうですか」

「それで、どの様に鍛えるかだが…」


私を見るけど勿論私は手伝わない

それは私が狂羅様の敵となる人に手を貸す事を意味するのだから、絶対にあり得ない


「ソフィア以外の人神に師事して貰う事が最善だろう」

「ですが、人神の方々の居場所は誰も知らない筈です」

「あぁ、だから探すしかないだろう。それに残りの英雄を探すのだろう?平行して行うしかないだろう」

「そうだな。どっちにしろやれる事はやった方が良いだろうな」


私はこれ以上いても何も収穫が無さそうなので立ち去る事にした


「ソフィアさん!」

「なんですの?」

「本当に狂羅さんが正しいと思いますか?悪人は法の元に裁かれるべきです。決して人が個人で行ってはいけないものです。個人で行ってしまったものは殺人と変わりがありません!だから、狂羅さんを止めないといけないんです!ソフィアさん、私達に力を貸して下さい!」

「確かに…エレナさんが仰る事は正しいのでしょう」

「でしたら!」

「それが私に関係あるのですか?」


私は振り返り言う

そう、エレナさんの言うことは正しいのだろう

世間的にはそれが正しく、私と狂羅様は間違っているのだろう事も分かっている

だが、それが何だと言うのか…


「エレナさんが正しくないと言った。皆が正しくないと言った。世界が正しくないと言った。それが何だと言うのですか?私は、私自らが見て知って、そうして何が正しいのか、その全てを私自身が決めますわ。私が見たのは狂羅様を苦しめる世界そのもの。私が知ったのは狂羅様がどれ程の苦痛を与えられてきたのか…。そして、私が決めたのは狂羅様を生涯愛し側で支えること…。

私が狂羅様の敵にまわったあなた達に手を貸す事も、手加減をする事もありませんわ」

「っ…そんなの間違っています!」

「えぇ、この世界が間違っているわ。私は何があっても狂羅様の敵にはなりませんわ」

「…そうですか。では、ソフィアさんも必ず止めてみせます!」

「そう…」


エレナさんの言葉に皆が私に決意を秘めた視線を送る

その中でただ1つ迷っている視線があった

私はその視線の主を見る


「貴女はどうしますの?」

「フェスも行く」

「「「「フェスさん!?」」」」


私の問いかけに答えたのはフェスだった

フェスの言葉に反応した声を無視し、何故かと問いかける


「フェスはご主人様の使い魔だから。フェスのパパだから!」

「そう。じゃあ一緒に行きましょう」

「うん!」


フェスが私の元に来て抱きついてくる

抱きつくフェスの頭を撫でながら、固まっている者達に視線を移す


「フェスちゃん、行っちゃ駄目だよ!」

「ううん。フェスはご主人様の所に行く」


首を振り拒否するフェスに皆がひき止めようと思考を凝らすなか、修羅がフェスの前に歩いてくる


「行ってこい。それがお前の決めた道ならば」

「うん」

「ソフィア、お前もそれで良い。お前が決めた道を行け」

「えぇ、分かっていますわ。それから分かっているとは思うけれども、貴方に言った言葉は全て狂羅様と体が同じだったからですわ。狂羅様の前に立つのであれば、容赦はしませんわよ?」

「あぁ、分かっている」

「そう。今まで私と狂羅様の事を真剣に考えてくれた事、心から感謝しますわ」

「あぁ…。頼んだぞ」

「えぇ」


フェスの手を握り外へ出る

外は狂羅様の魔法で混乱しており、未だに騒がしい

町のあちこちで住人が話している


先ずは狂羅様を探さないといけない


私はもう、私の道を進む

彼等が彼等の道を行くように、私は私の道を行く


「行きますわよ」

「うん!」


フェスの手を握り、歩き出す

さぁ、行こう

狂羅様の元に…私の帰るべき場所に











*********





懺悔の書第2章



人は何故自らを優位に位置付けるのだろうか

他者よりも自らが優位だと思いたい、信じたい

そうして人は他者を貶め、その姿を見ることに優越感を感じる


人は何故傷つけあうのか

同じ人であるにも関わらず、他者を傷つける

肉体を、精神を傷つけ破壊する


人は生きている限り誰かを傷つけ続ける


人は何故生まれ、そして死ぬのか…


私は何故生まれたのか…


私は私の生まれた意味を探し続ける

人は誰しもが生まれた意味を探し続ける


私は生まれた意味を探した

私が生まれ、これまで傷つけた誰かは笑えているのだろうか

私が生まれ、これまで殺した誰かは生に満足出来たのだろうか

私が生まれ、関わった人達は私をどの様に思っていたのだろうか


私は生まれ、そしてどの様に死ぬのか


そんな事を考える日々の中、私は彼と出会った


誰かの為に泣くことが出来る彼

誰かの為に自らが傷つく選択をする彼

誰かの為に…誰かの為に…


自らの優先度を一番に考えるではなく、よく知らない他人を優先できる彼…


その自らへの関心のなさに恐怖を…

その果てしない優しさに尊敬を…

その曇りなき笑顔に痛みを…


私は彼の声を聞く度に…笑顔を見る度に心が痛みを覚えた


彼を知れば知るほどに、胸の奥が痛みを覚える

彼を知れば知るほどに、汚れた私を醜いと感じる

彼を知れば知るほどに、自らの犯した過ちが私を追い込んでいく

彼を知れば知るほどに辛くなるけれど、それでも私は彼と関わり続けた


私の生まれた意味を彼の中にある気がしたから…


私は彼の未来を見る事にした

時の魔法…それは私に絶望と希望を与えた


彼の未来は絶望に支配されていたにも関わらず、彼が1人の少女の為に命を捨てたから…


絶望は救いのない彼の未来…

希望は彼を慕う者達…


その未来を見たとき、私は私の生まれた意味を決めつけた(・・・・・)


彼を救う

それが私の生まれた意味だと、そう決めつけた


私は彼に絶望を切り払う力を与えた

彼の心を代償に…

私は彼の喪った心を取り戻す為に友を与えた

彼の力を代償に…

私は彼に大切な者を与えた

彼の大切な者を代償に…


そして、彼は壊れてしまった

私が彼を救おうと思い起こした行動は、彼の心を蝕むだけだった


彼は私を憎むのだろうか…

彼は私を恨むのだろうか…




彼は私を憎まなかった

彼は私を恨まなかった


何故なら彼は世界そのものを憎み恨んだのだから…



絶望の果てに手にいれた強大な力は世界を破壊するだけの力となった

絶望の果てに手にいれた希望は、やがて大きな絶望となって彼の心に残った


私は彼を助ける方法を探した

私が絶望を与えてしまった彼をこの世界から救う方法を


探して…探して…探した…


けれども、どれ程探そうとも、その答えは見つからない

私に出来る事はなかった

絶望を与える事は出来ても、救う事は私には出来ない事しか分からなかった


私には出来ない

私に出来ないのであれば、後を任せようと思った

彼を慕う者達に全ての希望を託す


彼の心に希望を…光を…

彼の心に救いを…幸せを…


彼は世界を縛る

ならば私はその拘束を解こう

私の希望をあなた達に託すと私は決めたのだから


今から始めるものを彼に知られてはいけない

これは私とあの人のみで行わなければならない

私の魂に鎖を…彼に見つからない様に深い、深い場所で鎖に繋ぐ


最後の鍵はソフィアに託そう

私の愛する妹に、最後の鍵を預けよう


ソフィア…私の愛する妹…

どうか私の願いを叶えて…


大丈夫…貴女なら必ずその鍵を掴めるわ

貴女は私の妹だもの


準備は整った

さぁ、私の…最後の悪足掻きを見ていなさい

必ず全て上手くやって見せるわ

ソフィア(最後の希望)が、本当の希望を見つけた時、あなたを救える


全ては神を殺す為に

彼を救う為に


狂羅君…貴方の未来に幸あらん事を



懺悔の書

第2章:エミリア・アイリス・レビィアム




--------第弐章-完--------

少し早いですが、過去編は終了です

回想をちょくちょく挟みながらの3章となります

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