過去・3*壊れ行く者
「第6の実験の説明をするわ。第6の実験では主に体の改造となっているわ」
「体の改造?もしかしてサイボーグ?」
「サイボーグと言うものが何かは分からないけど、きっと違うわ。魔物の体と入れ替えるのよ」
「えっ…」
「例えば毒殺を防ぐ為にあらゆる消化器官を毒の耐性のある魔物の物と入れ替えたり、目を精霊等の見えない者達を見える目へと入れ替えたりするのよ。入れ替える手術事態に危険はないの。勿論見た目が人間離れする事はないわ。ただ、危険があるとすれば体が拒否反応を起こしてしまう事ね。最悪の場合は死亡する危険があるわ」
聞いただけで正直怖い
改造手術なんて怖いのは当たり前だとは思うけれど…
「大丈夫、狂羅君なら死ぬことはないわ」
「………分かったよ。人間止めるって事はないよね?」
「えぇそれは保証するわ」
「うん」
それから僕はエミリアさんと一緒に違う部屋に移動した
そこには数人のガスマスクを被った人達がいて、真ん中にある台の上は血で濡れていた
台の上に乗ると麻酔をしてくれた様だけど、僕には痛みがないから別に良かったのにと思ってしまった
その後、最初に目を、その次に内蔵を入れ替えていく
目が抉り出された時には吐きそうになったし、腹を切り裂かれ内蔵を取り出した時には気絶した
次に目を覚ましたとき僕はいつもの研究室へと戻っていた
「起きたの?気分はどう?」
エミリアさんにそう言われて辺りを見渡してみる
すると今までの視界と違い違和感がある
右目を閉じて見ると視界は白黒の世界になり、部屋の中の色々な物やエミリアさんからオーラの様な物が出ている
それは白黒の世界で色がついていた
エミリアさんからは緑色のオーラが、僕の剣からは赤いオーラが見える
左目を閉じると世界はがらりと変わり、壁をすり抜ける人影が見えた
幽霊の様なそれは僕を指差していた
しばらくするとその人影は更に増えて部屋を満たす程現れた
全ての人影が僕を指差していた
左目は白黒の世界を、右目は見えなかった物を見えると様になっていた
「エミリアさん!変なのがいる!」
「見えるのね。それは人の魂が形を取ったものや、精霊達の筈よ」
「…じゃあこの人達は僕を恨んでるんだね」
「え?」
「この人達、ずっと僕の心臓や首を叩いてるから…」
「っ!」
僕は右目だけを開いた状態にする
これは僕が背負わないといけない罪だから…
僕が今まで食べた人や、殺した人達が僕を恨んでるんだ
どの様な事情があっても、僕が皆を殺した事は変わらない
だから僕はこの人達から逃げる訳には…目を逸らす訳にはいかない
「皆が恨んでるのは分かってる。でも、もう少しだけ待って欲しいんだ。僕はやらなければならない事がある。僕はこれ以上犠牲者を増やしたくないんだ。お願いします。もう少し見ていて下さい」
僕は頭を下げて頼み込んだ
すると人影は僕を叩く事を止めて周りを囲むようにいるだけになった
「ありがとうございます。絶対に僕が全ての元凶を殺してみせるから」
国王を必ず殺す
国王だけじゃない
この国も全て殺してやる
どれ程の力の差があっても、絶対にやり遂げてみせる
「狂羅君?」
「もう大丈夫です。これからどうするんですか?」
「そう。今日から10日間、狂羅君にはその体になれてもらうわ。左目にはミストフェアリーの目を、右目にはダークネスドラゴンの目に入れ替えたわ。内蔵はヘルワームの内蔵と入れ替えて、皮膚はダークエルフの女性の皮膚へと入れ替えたわ」
「え!?」
皮膚も入れ替えたと言われ僕は自分の体を見てみる
確かに前よりも白い肌へと変わっていた
「でもどうして皮膚まで変えたの?」
「ダークエルフの肌は毒や麻痺の様な状態異常に強いの。それに気配察知に長けるのよ」
「そうなんだ」
「それじゃあ10日間は好きにしてて良いわ。出来るだけその体になれて欲しいのよ」
「うん。分かったよ」
先ずはこの目に慣れないと駄目だ
視界に様々な情報が入りすぎて僕の頭の中がぐちゃぐちゃだ
気持ち悪くて吐きそうになってしまう
先ずは少しの間両目をあけて閉じるを繰り返す
少し慣れてきたら時間を伸ばしていく
そうやって両目を開いていられる時間を伸ばしていった
目について途中で分かった事がある
左目は目に見える人や物の危険度を表していた
安全な緑から危険な赤へと色は変わっていく
僕にとって危険になり得るかが直ぐに分かった
右目は精霊や魂を感じるだけではなく、距離は近いが壁越しにいる人や物の存在を察知する事が出来る事が分かった
目には慣れた
内蔵はどうしようもないから置いておくとして、次は皮膚だ
と言っても触った感触はあるし、それ以上の事は変わらない様に思う
その時扉の外に誰かがいるのが分かる
肌が少し反応した
目でも確認できる
「調子はどう?」
エミリアさんがご飯を持って部屋へと入ってきた
「人間じゃなくなったみたい。誰かが来る事が分かるんだ」
「どうやらもう馴染んだみたいね」
「うん。10日もいらなかったね。10日経ったらどうするの?」
「10日経ったらまたあの広場に行ってもらう事になるわ。前の実験と同じ様に1年間は広場で過ごして貰うわ」
「おんなじなんだ」
「えぇ。ただ、少し違う事があるわ。魔物が体内に毒を持っていて、前回よりかなり強い魔物になるわ」
「へぇ。でも僕も魔法を使える様になったし簡単だと思うよ。ねぇエミリアさん」
「何かしら?」
「明日から僕を広場に連れていってよ」
「急にどうしたの?」
「僕もっと強くならないと駄目だから。だからお願い」
エミリアさんは少し考えると頷いてくれた
「但しこれを食べて問題がなかったらよ」
「もしかして毒入り?」
「えぇそうよ。結構強力な毒を持つ魔物の肉よ」
僕は恐る恐る食べてみた
口の中に入れると少しピリッとしたけど、問題なく食べる事が出来た
「大丈夫?」
「うん、大丈夫みたい」
「即効性の毒だから今問題がないのなら大丈夫ね。内蔵もちゃんと馴染んでるみたいね」
「うん」
「それじゃあ明日から広場での実験になるけれど、本当に良いのね?」
「良いよ」
「そう…」
エミリアさんはそう言うと部屋を出ていった
(ねぇもう1人の僕、起きてる?)
(あぁ)
(お願いがあるんだけど、良いかな?)
(あぁ)
(少しの間表層で体を任せたいんだ)
(何をするんだ?)
(内緒だよ)
(そうか。分かった)
(うん、ごめんね)
(気にするな)
僕は表層意識をもう1人の僕に任せて深層意識へと入れ替わる
僕ともう1人の僕との関係は少し複雑なんだ
僕が考えた事はもう1人の僕は知る事が出来ない
でも僕はもう1人の僕の考えや行動を正確に把握する事が出来る
つまり僕の存在の方がもう1人の僕より上位に位置している訳だ
これはとても寂しい事だった
この研究所に連れてこられて話す人はエミリアさんともう1人の僕だけだったから
第1の実験の時の人達とはもう話す事が出来ない
それに例え僕が作った人格だとしても、僕とは違う考えを持ち、話し、ここにいる
それなのに僕だけは情報を手に入れてもう1人の僕は知る事が出来ないなんて駄目だと思う
だって友達だから
それの邪魔になっているのがこの深層意識
もう1人の僕はいつも表層意識の奥で眠っている
それは深層意識へと入る事が出来ないからだ
だから深層意識からもう1人の僕への壁を壊す
でも壁は何度も色々な方法で壊そうとしたけれど1度も壊れる事はなかった
いったい何が邪魔しているのか分からない
僕は壊そうとしているのに、何かが邪魔をする
弾かれるように僕は壁から離れるしかないのだ
考えても考えても答えは出ない
仕方がないので、取り敢えず今日は諦める
そしてもう1つ気になる事があった
それはユリアの事だった
精霊を見れる事になった今、僕はユリアを探していた
生まれ変わると言っていたし、精霊になるとも言っていた
でもユリアの姿は見えない
もしかしたらまだ生まれ変わってないのかも知れない
それと、闇の精霊王がいるってことは、闇魔法もある筈
なのに本には闇魔法の詠唱の1つもなかったのが気になっていた
そう言えばユリアが今までは闇の精霊王はいなかったって言ってたけど、何か関係があるかも知れない
僕はもう1人の僕に声をかけた後、眠る事にした
次の日、僕は予定通りに広場へと入り、少しエミリアさんと話した後、1人になった
しばらくすると黒い狼が広場へと現れる
そして姿が消えた
「え!?何処に行ったの!?」
(落ち着け!目と肌で感じろ)
「うん」
僕は目で確認した
すると地面の中を移動するように狼が移動しているのが分かる
でも色は赤
つまり僕にとって危険だと言う事
僕は身体強化を直ぐにする
全身へと魔力を送りもう一度狼が何処にいるか確認する
すると僕が身体強化を行っていた一瞬の間で僕の目の前に移動していたのか、僕の直ぐ近くの地面が緑色になっていた
僕は後ろに下がって狼の襲撃を避ける
確かにかなり強くなってる
それに身体強化をしたら僕の相手にはならない様だし、大丈夫そうだ
「大地は鋼より硬し」
僕は土属性の魔法で狼が地面に潜れない様にする
でも狼はそんな事は関係ないと言わんばかりにまた地面の中へ消えてしまった
こうなったら襲ってきた時にやるしかないよね
足下に反応が見えた
後ろに下がって狼を蹴り飛ばす
強化された蹴りでも狼を分断することは出来なかったけど、血を吐いて動かなくなった
(結構強くなってるね)
(あぁ、特殊な能力に魔物事態の身体能力も上がってると見る)
狼に近づいて死んでいるのを確認する
魔法を覚えて良かった事は生肉じゃなくなった事かな
だって火の魔法で焼けば少しはマシになるもんね
そして驚いた事にこの狼の様な魔物の魔力がとても多い
かなり自分の魔力へと変換できた
それから1年間僕は危なげなく魔物を倒してその魔力を変換していった
1年前と比べると2倍以上に増えたし、魔力での身体強化がかなり強くなった
この両目や皮膚の使い方も分かり、今では無意識で制御出来ている
それと僕ともう1人の僕とで差がある事も分かった
僕は魔法を扱うのが得意で、魔力の制御はかなり上手いと自負する
もう1人の僕は体術に長けていて、僕も一応はマスターしているけど、もう1人の僕と比べると全く別物の様に変わる
僕はもう1人の僕の指導を受けて体術を練習した
まだもう1人の僕とは差があるけどかなり近づけた
こうして僕は確実に力をつけていった
「ねぇエミリアさん、僕結構強くなったよ」
「良く分かったわね」
「もうこの体には慣れたからね」
後ろから近づいてくるエミリアさんの気配も分かるようになった
第6の実験を終えて僕はエミリアさんと研究室へと戻る
「じゃあ早速だけど第7の実験の説明をするわね」
「うん」
「第7の実験内容は強制魔力増強になるわ。多分狂羅君でも辛い実験になると思うの」
「でも僕痛くないんだよ?」
「肉体的な痛みと違って強制的に魔力の器を広げる事は狂羅君の心にダメージを与えるわ。今までと違った痛みなのよ」
「そうなんだ。でも毎日やるんでしょ?それなら前と同じ様に痛くなくなるんじゃないかな?」
「いいえ、毎日はやらないわ。一月に1度の強制魔力増強をするの。強制魔力増強は心への負担が大きい為に狂羅君が壊れる危険性があるの。だから一月に1度だけよ」
「そんなんじゃ駄目だよ」
「駄目よ!今度ばかりは許可しないわ」
僕が言おうとした事は言う前にエミリアさんに却下される
(ねぇもう1人の僕、僕達は2人だから1人1回ずつ行けるよね?)
(あぁ、問題ない)
(ごめんね)
もう1人の僕は承諾してくれた
一月に1度の強制魔力増強はそれが1人だった場合
つまり僕達には一月に2回のチャンスがあるって事だよね
「僕は大丈夫だから、一月に2回やって欲しいんだ」
「駄目よ!そんな事したら狂羅君の自我が崩壊してしまうわ!」
「大丈夫。僕は絶対に大丈夫だから」
「………少しでも様子が変わったら直ぐに止めるわよ」
「うん、ありがとう」
そして次の日僕は違う部屋へと連れて来られた
とても広い部屋でその中央に拘束具付きのベットが用意されていた
そこに寝転ぶとエミリアさんが僕に拘束具をつけていく
「1回目の実験を始めるわ」
エミリアさんが少し離れた後、天井から何かが降りてくる
赤黒い影の様な何かが僕と同じ様に拘束されていた
徐々に近づいてくるそれに言い様のない不安にかられる
「エミリアさん、これは何?」
「デーモンと呼ばれる魔物よ。デーモンが狂羅君の体を乗っ取ろうとするけれど、狂羅君には心の中で制御してもらうわ。出来なければ体を乗っ取られてしまうわ」
デーモンと呼ばれた魔物は獲物を見つけた様にかなり暴れている
デーモンとの距離は既に1メートルをきり、遂に僕の中へ入ってきた
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
脳内を埋め尽くす程の殺意
(分かってるよ)
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
(大丈夫、君のその殺意も全て僕が引き受けるから)
奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い奴等が憎い
(うん。君のその記憶も全部僕が引き受けるから)
僕の中へ流れてくるその記憶は酷い物だった
デーモンは元は数人の人間の子供だった
奴隷としてこの国に買われ、実験の日々…
生きられるギリギリの所まで皮を剥がれ続けた子供
身体中をゆっくりと切り刻まれた子供
親を目の前で殴り殺された後、自分も同じ様に殺された子供
オークの前に縛られたまま放置され体を食われた子供
犯され続け最後には自害した子供
いくつもの恨みを持った人間の恨みの集合体
それがデーモンだった
(辛かったね…苦しかったよね…)
僕は…
私は…
僕(私)達はただ普通に生きたかった………
(うん…)
普通に生きる事すら出来なかった彼等…
生きて平穏な日々を送りながら寿命を全うする
それすらも出来なかった彼等…
(僕が全部引き受けるから…だからもう休んで良いんだよ)
僕達疲れたんだ…
後はお兄ちゃんに任せるよ…
(うん…)
ありがとうお兄ちゃん!
また会ったら遊んでね!
(うん…)
さようなら…
(さようなら…)
「狂羅君!」
エミリアさんの声が聞こえる
もしかしたらずっと呼びかけていたのかも知れない
「ねぇエミリアさん、このデーモンってこの国で捕まえたんだよね?」
「え、えぇ、そう聞いてるわ」
「後のデーモンも?」
「えぇ」
(大丈夫か?)
(うん。デーモンは全部僕に任せてもらって良い?)
(大丈夫なのか?)
(うん)
(分かった)
デーモンがこの国で捕まったのならこの国に恨みを持っている可能性が高い
「エミリアさん、今いる全てのデーモンを僕に下さい」
「駄目に決まってるじゃない!」
「彼等は魔物なんかじゃないんだ。僕は彼等を助けてあげたい。だからお願いします!」
「駄目よ」
「エミリアさん!」
「っ!」
「これ以上犠牲者を増やしたくないんです。これ以上苦しむ人がいたら駄目なんです!僕に彼等が救えるなら僕は彼等を救います!お願いです、僕に彼等を助けさせて下さい!」
僕の真剣な言葉にエミリアさんは何度も反対した
それでも僕は折れなかった
デーモンとなった彼等にだって気持ちがちゃんとあった
それはとても酷く悲しいもので…だからこそ終わらせてあげないと彼等はずっとあのままでいてしまう
次第に言葉に力がなくなっていくエミリアさん
エミリアさんだって分かってる筈なんだ
「今ここにいるデーモンは全部で50よ。絶対に無茶だけはしては駄目よ」
「エミリアさんありがとう!」
こうして僕は1年間かけて51体のデーモンをその身に取り込んだ
合計200を越える残酷な記憶が僕の中にあり、夜眠ると夢となって記憶を追体験する
その痛みも苦しみも…悲しみも絶望も…
全て僕1人の身に押さえつけられていた
だから気づかなかった
莫大な殺意と膨大な記憶の中で少しずつ何かが壊れていく事に
後、3つで実験は終わる
その頃にはもう僕は僕ではなくなっていた




