過去・2*変わり行く者
(これでもう何日目だ?)
(今日で1年がたつよ。もう1人の僕)
(第2の実験が始まるのか)
(違うよ)
(違う?)
(後9年でこの世界を壊せるんだ)
(そうだったな…)
「狂羅君」
「エミリア、どうしたの?」
ユリアを殺してから約1年が過ぎた
僕は毎日の様に人を殺し、食べる中でいつのまにか人を殺す事への嫌悪感はなくなっていた
人を食べ続けたせいか、味覚もなくなった
いつしか僕は笑わなくなった
ううん、笑えないよ
いつも夢で見る
今まで殺した女の人達が僕を串刺しにして喜んでいる夢
僕はもう笑ってはいけないんだ
「今日から実験は次のステップへ移行するわ。次の実験は餓鬼虫による魔力増強よ」
「餓鬼虫?」
「えぇ。…………狂羅君、お願いだから我を忘れないで…狂羅は私達の最後の希望だから」
エミリアは悲痛な表情で僕に告げた
僕は実験の事を詳しく聞いた
「………餓鬼虫とは他者の肉を食らい自らの魔力へと変換させる珍しい魔物の事よ」
「他者の肉を食らい?もしかしてそれが僕?」
「………そうよ。餓鬼虫が他者の肉を食らい自らの魔力へと変換させて時卵を体内に残して外へ出るの。その卵には微量ながら変換途中の魔力が残っていて、その魔力を自分の物に出来れば魔力総量が増えるの。中途半端な状態の卵の魔力を狂羅君自身の物へと変えるのよ」
「そうなんだ」
「餓鬼虫は臓器は食べない為、流れる血を魔法で補給し、意識を失わないように魔法をかけるわ。………狂羅には肉を噛み千切られる痛みが襲う」
「それはとても痛いだろうな」
エミリアが箱から何かを取り出した
体長は50センチメートル程
ゴブリンの様な顔をしたムカデの様な体の虫だった
「それが餓鬼虫?」
「そうよ」
「痛そう。でも、皆が味わった悲しみや痛みはこんな物じゃ足りないよね」
「狂羅君…」
僕はベットの上に寝転がる
エミリアがベットに取り付けられている拘束具を使い僕の動きを封じる
「ごめんなさい…」
エミリアが僕の上に餓鬼虫をおいた
「あぁぁぁぁ!!!!痛いっ!痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
肉を食い千切られる感覚
想像を絶する痛みが僕を襲う
ミチミチと音をたてて僕の肉を喰らう餓鬼虫
僕を襲う激痛で意識は朦朧としていく
たった5分程の時間だっただろうか
餓鬼虫は僕のお腹に風穴をあけ卵を産んだ
たった5分程の時間は僕にとっては永遠に感じられた
「終わりよ…良く耐えたわ」
「エミ………リア……」
「卵の魔力を感じなさい。それを自分の魔力へと変換するのよ」
僕には魔力と言った物が分からない
意識は朦朧とし激痛は続く中、僕は卵へと意識を集中した
体は体温を失っていく中で僕の頭はより冷静になっていく
血とは別の何かが僕の体の中にあるのが分かる
これが魔力だと理解出来た
卵へ意識を集中する
僕の魔力とは別の魔力がある
僕の魔力を流し込む
別の魔力を僕の魔力で満たしていく
これが変換なんだと理解した時、僕の意識は薄れていった
「彼の者の時を今戻さん『タイムヒール』」
意識を失う寸前にエミリアの声が聞こえた
僕の傷が塞がっていくのが分かる
「何をしたの?」
「私の魔法は少し特殊でね、時を操る魔法なの」
「時を操る?」
「私には魔法の才能はないわ。私にもっと魔法の才能があればあいつだって…」
エミリアは自らの腕から血が流れ出る程強く握っていた
「頑張って耐えて…私を恨んでもいいから」
「僕はエミリアさんを恨まないよ」
「えっ?」
「僕はエミリアさんが好きだから。エミリアさんが優しい人だって知ってるよ。エミリアさんが苦しんでいるのも知ってる。だからこそ僕でエミリアさんの役に立つなら僕は頑張るよ」
「どうしてそんな事言うの!?私はそんな良い人じゃない!私は関係のない大勢の命を奪った!あなたにも苦しむことを強要してる!」
「僕は許すよ」
「な、何を…」
「エミリアさんを僕は許すよ。僕はエミリアさんがいてくれて良かったってそう思ってるから」
エミリアさんは泣いた
僕にはどうして泣いたのか分からない
でもエミリアさんの顔から少しだけ暗い影が消えた
僕はそれだけで良かった
それから約100日程が経って僕は痛みを失った
「エミリアさん、僕にずっと回復魔法をかける事って出来る?あの傷が塞がっていくのじゃなくて、血が無くならないように出来る?」
「出来るわ。でもどうして急にそんな事を?」
「実は僕、もう痛くないんだ!僕のお腹を餓鬼虫が食べても、僕は痛みを感じないんだ」
「そんなっ………」
「だからね、僕はもっと強くならないといけないから、餓鬼虫をもっと増やして欲しいんだ。でも血が無かったら死んじゃうからお願いしてるの」
「………分かったわ」
それから餓鬼虫は10匹に増えた
腕や足、体全体にいくつもの風穴があいた
時には腕や足が完全に千切れた事もあった
それでも僕は痛みを感じないし、エミリアさんのお陰で死ぬ事はなかった
「僕の魔力も結構増えたね」
「そうね。既に私を上回っているわ」
「じゃあ今日からは更に増やそうよ」
「………えぇ」
第2の実験が終わる頃には僕の体はある変化を起こしていた
永遠に続くかの様に肉体は再生と破壊を繰り返す日々…
エミリアの回復魔法を受け続けたら結果、僕の体は驚異的な再生能力を発揮した
餓鬼虫に喰われた箇所から再生を回復し、今では脳と心臓への餓鬼虫の進行をさせないように確保し、永遠と餓鬼虫に喰われる日々を過ごしている
卵を産んだ餓鬼虫はしばらくの間卵を産むことはない
だから産んだ餓鬼虫から新たな餓鬼虫へと入れ替え、僕が寝ている間も続けた
既に自らの魔力への変換は無意識で出来るようになっており、寝ていても無意識で変換を行っている
こうして2年目が幕を閉じた
「今日から違う実験をするんでしょ?」
「えぇ」
「次はどんな実験なの?」
「これからの実験はかなり楽になると思うわ。第3の実験は魔物と戦う実験よ」
「魔物って餓鬼虫みたいなもの?」
「えぇ。ただ、餓鬼虫とは違って狂暴なの。魔物を相手にどうすれば勝てるのか考えて倒す。勿論その肉には魔力が宿っているから食べて貰うわ。第1の実験で狂羅君には他者の魔力を受ける容器は完成したものと仮定して、第2の実験で変換を覚えた。
私達にはここまでの仮定で推測を経てたの。それが第3の実験、ただの魔物から魔力を変換する事。
ここからは命の危険が出てくるわ。でも狂羅君なら大丈夫だと信じてるわ」
「分かったよ。頑張ってみる」
「えぇ。それじゃあ外に出るわよ」
「外に出るの!?じゃあそのまま逃げれば良いんじゃないの?」
「駄目なのよ。私にも狂羅君にも既に爆破装置が埋め込まれている。だから気づかれた時点で内側から爆発するわ」
「そうなんだ」
「さぁ行きましょう」
僕がエミリアについていくと広い広場に出た
エミリアが言うにはここで魔物と戦うらしい
「この広場で1年間過ごして貰う事になるの。明日からの1年間、毎日の様に違う魔物がこの広場に放り込まれるわ。何かあったら大声で叫んでくれたらいいわ。私はずっと見てるから」
「うん。わかった」
「今日の分の食事は餓鬼虫よ。この広場の何処かにいるわ」
「えぇ…あれを食べるの?」
「そうなるわ」
「分かったよ。それじゃあ探しに行ってくる」
「えぇ。会うのは1年後になるけれど、頑張ってね」
「うん」
エミリアはそう言って剣を渡してくれる
エミリアが来た道を引き返して行ったのを見送る
僕は餓鬼虫を探しながら何処か良い隠れ場所がないか探す
1年間過ごすなら寝床も必要になるしね
そう思って探してみたけれど、洞窟なんてないし、ましてや家なんて物はなかった
あるのは木が数本あるだけだった
その中で一番大きい木の根本で餓鬼虫を見つけた
剣で突き刺してみる
何の抵抗もなく剣は刺さった
嫌がる様にくねくねと餓鬼虫は動く
「うぇぇ、気持ち悪いな」
そんな事を言いながらもちゃんと食べた
既に味覚はないから味は分からないけど、食べたときの感触が気持ち悪かった
それでも生きなくてはいけないから
僕はエミリアさんが言ってた魔力への変換を実行することにした
餓鬼虫の中に流れる魔力を感じとる様に集中する
自分の中に産まれた卵の時の不安定な魔力とは違い、完全に他者の魔力だ
でも思ってたより簡単だった
僕の中にある違う魔力を感じるだけで良かったのだから
でも感じるのは簡単でも、完全に他者の魔力を自分の中に魔力へと変換するのは難しく、とても難航した
何度も挑戦していくうちに、餓鬼虫の魔力が僕の体から抜けていこうとしていた
僕は慌てて自分の魔力で逃げないように餓鬼虫の魔力を包んだ
すると包まれた餓鬼虫の魔力が徐々に僕の魔力と馴染んで行くのが分かる
しばらくすると完全に僕の魔力へと変わった
魔力を変換した頃には辺りは暗くなっていた
僕はこの大きな木を拠点にすることに決めた
僕は木にもたれかかりながら眠る事にした
次の日の朝、僕は派手な音で目を覚ました
重い物が動く音
辺りを見渡してみると、この広場を囲むように出来ている壁の一部分が扉の様に開いているのが見えた
そこから人影が入って来るのが見える
数は多く、軽く20はあると思う
「ゴブリンみたい…」
そう、その人影はファンタジーの住人であるゴブリンの様だった
これがエミリアさんの言っていた魔物
1匹ずつだと思ってたんだけどどうやら違うみたい
ちょっと考えているとゴブリン(そう呼ぶ事にした)達が僕を発見して何か言ってる
(どうしよう…)
(先ずは奴等を分断し、1匹ずつ撃破だ)
(そうだね。僕が今どの程度戦えるか分からないし、安全に行かないと)
(あぁ)
(でもどうやって分断するの?)
(取り敢えず走れ、奴等が来ている)
僕はもう1人の僕と作戦を考えていた
その時ゴブリン達が近づいて来ているのを教えてくれたので、反対方向へと走る
(奴等は頭が悪いみたいだな)
そう言われて走りながら振り返ってみると、ゴブリン達は仲間同士の距離が開き、1匹ずつ孤立していることに気がついていない
僕達にとっては嬉しい事だった
(奴等は知能が低いと思われる。最初のゴブリンでそれを確認したい)
(どうやって?)
(ゴブリンに向かって剣を突きだしたまま突っ込んでみてくれ)
(避ける知能があるか見るんだね?)
(あぁ)
僕は走るのを止めてゴブリンの方へと体を向ける
僕は剣を前に突きだしそのまま先頭のゴブリンへと走った
先頭のゴブリンは木の棒を振り上げると僕に向かって振り落とす
でもその前に僕がゴブリンの頭に剣を突き刺し、ゴブリンは絶命した
(避けると言った事は考えないらしいね)
(あぁ。ならば奴等は簡単だな。最後の1匹以外はこれで殺したら良いと思う)
(最後の1匹で実力の確認だね)
(あぁ)
剣を引き抜いて次のゴブリンへと向かう
最後のゴブリンを前に足を止める
後ろには簡単に死んでいったゴブリン達の死体
(ちょっと体を変わってよ)
(構わないが、どうしてだ?)
(ちょっとやってみたい事があるんだ。勿論ゴブリンは殺したら駄目だよ)
(分かった)
僕はもう1人の僕と入れ替わり、思考する
ここはファンタジーな世界でゴブリンもいれば、魔力もある
普通に考えると魔力があるならば、魔法も存在すると思う
魔法をあるものと仮定して、僕は思考する
もしも魔法に詠唱と呼ばれる行程が必要なら僕には無理だ
なら魔力をそのまま使う事は出来ないのか?
僕の魔力を外に出して扱う
これが出来るかは分からない
先ずはこの状態のままやってみる
そう思って思考を中断し、状況を確認する
もう1人の僕はゴブリンを素手で相手していた
ゴブリンの単純な攻撃を軽く避けて殴っている
ゴブリンへ与えるダメージは少ないものの、こちらがダメージを受けることはないと思う
(ちょっとびっくりするかも知れないけど、気にしないでね)
(分かった)
僕は体の中の魔力を外に出す
少しずつ抜けていき大気へと魔力が流れていった
そして僕の考えは間違っていた事を知る
大気へと流れた僕の魔力は直ぐに僕の影響を受けなくなり霧散していった
扱う事も関わる事も出来ずに霧散していった
(何をしたんだ?)
(実験だよ。失敗したけどね。もうちょっと待ってて)
(あぁ)
もう一度表層意識を離れて思考を開始する
僕の体の外へ出た魔力を扱う事は駄目だった
なら中にある魔力を使って何か出来ないか考える
こうゆう時には僕の記憶が役にたつ
何しろ空想とは言え地球にはファンタジー小説等の教本なり得る物がある
次に行うのは魔力での身体能力の強化
どの様に魔力で身体能力の強化をするのかは分からない
まずは魔力を体全身へと広がる様に意識する
すると魔力は血の流れと共に広がっていく
体全身が魔力で満たされているのが分かる
ここまでは上手くいった
(急に体が軽くなった。それに殴った時の感触も変わったぞ。何をしているんだ?)
そう言われて表層意識へと戻る
見ると明らかにゴブリンがダメージを負っているのが分かる
多分骨が折れてるんだと思う
(実験だよ。今度は成功したみたいだね。次は思いっきり殴ってみてよ)
(あぁ)
もう1人の僕がゴブリンの腹を殴った
ゴブリンは血を吐きながら倒れ、その腹は少しへこんでいた
(凄いな)
(うん)
ゴブリンが呻きながらも立ち上がるのを確認して最後の実験へと移行する
僕は体全身に更に魔力を送る
最初の10倍程になったその魔力は僕の全魔力だ
(次で最後だよ。もう一度同じ所を殴ってみてよ)
(何をしたのかは分からんが、異様な力を感じるぞ。これで攻撃するならば奴は死ぬと思われる)
(うん。大丈夫だよ)
(そうか、なら任せろ)
もう1人の僕がゴブリンの腹を全力で殴った
スボッっと音をたて、拳はゴブリンの腹を貫いた
圧倒的な力でもってゴブリンは死んだ
(感触はどう?)
(腹を貫いた筈なのに抵抗を余り感じなかったな。まるで紙を相手にしている様だった)
(それは凄いね。もう完全に身体強化は出来る様になったね。じゃあもう少し実験したいから付き合ってね)
(あぁ)
そこから様々な実験をする事にした
足の速さを確認して、今の自分の最高の威力はどれ程か確認する
この広場の端から端に向かって走り、5秒もかからない走力
だいたい500メートルはあると思うので、100メートルを1秒もかけずに走った事になる
その後行ったのは力の確認
近くにあった木を全力で殴ってもらう
すると木が相手でもその拳は貫通してみせた
木を折るように蹴ると、木を分断してみせた
(どう?)
(少し抵抗があったな。この様子だと石は厳しいと思う)
(貫通は出来なくても、割ることくらいは出来そうだね)
(あぁ)
次に目に集中して魔力を送ってみた
(どう?)
(かなり視力が良くなっている。端から端迄なら問題なく見えるな)
(どのくらい迄なら見えると思う?)
(この3倍程なら見えると思うぞ)
(分かったよ)
次に耳
(どう?)
(虫の羽音まで聞こえる。ただこれがどれ程の距離までかは分からん)
(でも耳も格段に良くなってるよね?)
(あぁ確実にな)
(なら良かったよ)
次に鼻を実験したけど、直ぐに中断した
鼻を良くした途端に異臭が襲ってきたのだ
ゴブリン達の血や体の臭いがきつくて直ぐに中断するしかなかった
でも、鼻も格段に良くなる事が分かった
この様な実験を行っているうちに、僕の魔力制御も上手くなっていった
体全身へと送ったら魔力は心臓へと戻す事により減らない事に気がつき、魔力が減らない事に安堵した
(じゃあそろそろゴブリンを食べないとね)
(そうだな…)
(このまま任せても良い?)
(断りたいが仕方がない)
(ごめんね)
(気にするな。だが俺は魔力への変換なんて出来ないぞ?)
(それは僕がやるよ)
その後、もう1人の僕が食べたゴブリンの魔力を僕は変換する
夜になるまで魔力の制御を工夫して、寝ている間は耳だけ強化しておく事にした
こうして僕達はこの実験での生き方を見つけたのである
それから約1年、僕達は様々な魔物と戦った
ワイバーンや巨人、頭が5つある蛇や巨大な虎の様な魔物、巨大な狼の様な魔物の群れや毒を吐く鳥の様な魔物の群れ、他にも様々な魔物と戦った
何度も死にかけたけど、その度に強くなっていった
そして遂に第3の実験は終わる
壁からエミリアが入ってきたのを確認したからだ
「エミリアさん!」
「1年ぶりね。良く頑張ったわ」
「うん。僕も結構強くなったよ」
「そうね。先ずはここから出てお風呂に入りなさい。それから次の実験の説明をするわ」
「うん」
エミリアさんについていき僕は風呂に入る
風呂から出るとエミリアさんが待っていてくれて、そのまま研究室へと向かう
「それで次はどんな実験をするの?」
部屋について僕はエミリアさんに聞いた
「第4の実験と第5の実験は楽なものよ。狂羅君の能力の強化をしていく実験が多いわ。第4の実験は実験と言うよりも勉強と言った方がいいわね。第4の実験は魔法を覚えることよ」
「そうなんだ」
「狂羅君には魔力があるから後は詠唱さえ覚えれば良いだけなの。今から渡す本を読んで勉強してもらうわ。分からない事があれば聞いてくれればいいわ」
「本当に勉強なんだね」
「そうね。はい、これ」
僕は渡された本を読む
ここから1年間は本当にそれだけだった
食事は魔物の肉と女性の血だったけど、今更そんな事では驚かない
1年間この食事と勉強を繰り返した
既に全ての属性の全ての詠唱を覚えた
何度かテストを行ったけど、僕は簡単に言われた魔法を扱えた
「第5の実験は戦闘訓練よ。様々な格闘術を学んでもらうわ」
「うん」
それから様々な種類の格闘術を学んだ
1年経つ頃には教えてくれた達人の人達よりも強くなったし、同じ動きも出来る様になっていた
全ての魔法を扱えて、あらゆる格闘術を学んで僕は強くなった
そんなある日、エミリアさんが言った
「第6の実験を始める前に国王と会ってもらうわ」
「え!?じゃあその時に」
「駄目よ!」
「どうしてなの?」
「忘れたの?私達には爆弾が埋め込まれてるわ。あいつに逆らったりしたら全て終わるのよ。馬鹿な事はしてはいけないのよ」
「そうだったね。分かったよ」
「そう、それじゃあついてきて」
エミリアさんについていき、僕は国王のいる場所へと向かった
僕は今の僕なら国王に爆弾のスイッチを押される前に殺せるとそう思っていた
僕が馬鹿だった
確かに僕は強くなった
でもそれは残酷な現実が僕の前に突きつけられただけだった
国王は殺せない
そう思った瞬間だった
強くなったせいで分かってしまった国王の強さ
僕の体は国王に睨まれた途端に動く事が出来なくなっていた
圧倒的な力の前では僕は無力だと思い知った
国王が何かを話していたけど僕はそれどころではなく、何も聞こえてこなかった
どうしたら国王を殺せる?
そもそも本当に国王が死ぬのか?
そんな事がずっと頭を支配する
目の前にいるだけで震えが止まらない
圧倒的な強者への弱者の震えは止まる事はなかった
それは絶望的な力の差だった
気づいた時には僕は研究室へと戻っていた
「エミリアさん…」
「分かったかしら、あいつは殺すのは難しいの。ただ希望があるとすれば狂羅君だけなの」
「でも…」
「今は無理でも未来はどうなるか分からないわ。私は狂羅君を信じてるの」
「はい!」
暗い絶望の中、エミリアさんだけが輝いて見えた
だから僕は諦める事はないように、覚悟を決めたのであった




