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エイプリル・フール  作者: いちい
開かれるは赤い緞帳
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1章 7話




「環ー、起きなよー。」


誰かに体を揺すられている。ゆっくりと目を開くと、ここは寮の自室だということが、すぐに分かった。


「なんかうなされてたから、起こしたよー。」


ベッドの隣に立っている夕が言った。急に倒れてしまったから心配して、付き添ってくれていたのだろう。


私は上半身をベッドから起こす。やけに蒸し暑く感じる。額を拭うと、うっすらと汗をかいていた。


「ありがとう。私、どうしたの?」


「ビラ配り中に幼馴染の、えぇっと逸樹君だっけー?、と話してたらいきなり倒れたらしいよー。それで、疲れてるみたいだったから、そのまま寮に送ったってわけ。


一応、いくら幼馴染でも女子寮に入れたらまずいから、ちゃんとエントランスで私と代わったよー。」


確かに疲れているのかもしれない。あんなに趣味の悪い夢をまた見るなんて。


あの夢の恐怖が忘れられない。アレは夢でしかないというのに、まだ頭にこびりついている。


このこびりつき具合は、○ョイでも落とせないな、などと、ふと考えてしまったあたり、やはり私は疲れているようだ。


「顔色良くないし、まだ寝てたらー?」


夕が言い重ねる。


だが私にはそれよりも訊きたい事、というか、気になることがあった。


「うん、大丈夫。ちょっと良くない夢を見ただけ。それよりも___どうして夕は私の部屋に入れたの?鍵かかってたよね?」


私がそう尋ねると、夕はいつものゆるい笑顔を浮かべて、なんてことないような平和な顔で言い放った。


「あぁ、そんなことー?うぅんとねぇ…。友情ぱわーだよ!」


私は無言で夕の、ちょうど良い高さにある鳩尾に拳をめり込ませた。


友情ぱわーってなんだよ、友情ぱわーって。そんなもので鍵が開くわけがないだろう、まったくこいつは。


夕は、うっ、と呻くとしばらく床を転がって悶絶していたが、思ったより早く復活して立ち上がる。


「ごめん…。でも、ちょっとしたジョークなのに、環ちゃんてば冷たい。冷たすぎるよぅ。ホントは管理人さんに、鍵借りたんだー。」


「あんまりふざけすぎないでね。」


笑顔で拳を握り締めて脅す私に、夕は目を泳がせて頷いた。


まったく、夕は一緒にいて楽しいのは確かだが、たまに螺子の外れた冗談を言うのが玉に瑕だ。


まあ、そういう性格だから私とやっていけるのかもしれないが、でもせめて、TPOを弁えて欲しいと、そう願うのは我儘なのだろうか。


しばらく微妙な沈黙が広がっていたが、突然、ドアが猛烈な勢いで叩かれ始めた。


どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん!


どこのホラー映画だよ…。


扉の向こうに声をかけると、紗枝の声がした。犯人はお前か…。


なんとなく予想ができていただけに、虚しい。


「セーンパーイ!倒れたんですって!?紗枝もう心配で心配で。あーけーてー。あーけーてーくーだーさーいー!」


どうしよう。凄く開けたくない。しかしこのままでは寮中に騒音被害がでてしまう。


助けを求めて夕を見つめる。


夕は、あっ、と言って、逸樹から私に伝言があるのだ、と伝えてきた。


「逸樹君が、明日、私たちのサークル見学したいって言ってたよー。


文芸サークルっていう超弱小のマイナーなサークルだよぉ、って言ったんだけどぉ、見てみたいってー。変わってるねー。


とりあえず、10時くらいなら皆、部室にいるって教えたら、明日の9時30分ごろに寮のエントランスで待ってるって、環に伝えて欲しいってー。」


「分かった。ありがとね、夕。」


「どういたしましてー。じゃあ、もうそれなりな時間になったし、私行くねー。


あとー、なんかよくわかんないけど、部屋の外で騒いでる子には、環寝てるから静かにって言っとくー。


後でちゃんとメールでもして、安心させてあげなよぉ?」


私が頷くと、夕は退室した。


私はカーテンの開かれた窓に目を向ける。


窓の外は、もう夕方の赤い色を帯びていた。


雨音が続いている。










更新に関して、お知らせがあります。詳しくは活動報告をご覧ください。


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