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エイプリル・フール  作者: いちい
開かれるは赤い緞帳
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1章 6話




私は再び、真紅の世界にいた。


前回はよく分からなかったし気にもとめていなかったが、直前の記憶から察するに、やはりここは私の夢の中なのだろう。


二度目ということもあり、少なくとも前回よりは冷静さを維持している私は、そう思考を巡らせつつ、前方に見える彼女に意識を向けた。


そう、今、私の目の前には、河野 諒子部長の姿があるのだ。その周囲だけ靄がかかっており、舞台をスポットライトが照らすように、中央だけがはっきりと浮き立っている。


「部長?なんでここに部長が?」


私はさっき会ったばかりだというのに、夢の中でもまた会いたいという願望でも存在したのだろうか。


先ほどの声に反応がないところを見ると、向こうにいる部長には、私の言葉は届いていないらしい。


部長は厳しい人だが、他人を無視するような人間ではないのは、ここ数年の付き合いで分かる。ああ見えて、きつい物言いも実は、照れているだけだったりするのだ。


まあこの世界はあくまでも夢なのだから、そういう不思議現象もあるのかもしれない。


他にすることもないので、私は部長の観察を続ける。


あたりはもう暗くなってきている様子なのに、部長は一人で日が落ち始めた、細い、木立の中の道を、赤いチェックの傘をさして足早に歩いている。


もう帰るところなのだろうか。風景からしてキャンパス内のどこかなのだろうが、私には詳しい場所までは分からない。


不意に、近くの大樹の影から、緑のレインコートを着た手が飛び出してきた。驚いて声をあげようとする部長の口を塞いで、一気に木立の中に引きずりこむ。


何者かの姿ははっきりとは見えないが、反撃の隙も与えずにその人物は部長の胸に、刃物を突き立てる。


部長は、かはっ、と、息をもらすような音を口から出すと、そのまま崩れ落ちる。彼女の傘が、血と雨に濡れて、道に放り出された。


おそらくその人物に蹴られでもしたのだろう部長の体が、跳ねるように再び木立のそとに押し出されて、自らの傘と並び仰向けに横たわる。


何者かは、返り血の付いたレインコートを脱ぎ捨て、木立の奥に消えていった。


突然の現実感のない凶行に、私は呆然とした。


靄に包まれた一種幻想的な舞台には、最初の夢で見たのと同じように、黒縁眼鏡の女

___部長が、目を驚愕に見開いたまま、胸から血を流して倒れている。


雨が彼女の体にも降り注ぎ、目元に落ちたそれは涙のようだった。





やがてその舞台も靄にまかれて、後には赤い色が戻ってくる。入れ替わりに、向こうに揺らめく人影が見える。


「まずは一人。」


そう言うと、また夢の世界が歪んでいく。


どこかへ浮かび上がるような浮遊感が私を包む。













ふう、6話目でようやく被害者が出ました。


ちょっとペースが遅い?いえいえ気のせいですよ。そうに違いない。

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