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エイプリル・フール  作者: いちい
舞台裏に溜まる黒
40/45

6章 4話



今日は2話投下しました。

ここは2話目です。

ご注意下さい。



 





 ___嘘つき。『また』なんて。


 次の機会なんて永遠にないことを、私はもう知っている。


 逸樹はやっぱり疫病神だ。

 サービスと言いながら、私はそれのせいで、夕に綺麗に騙してもらえない。


 この5日間。


 皆、嘘ばかりついていた。


 千秋さんは、名を偽った。


 部長は、心を偽った。


 都馬は、言葉を偽った。


 逸樹は、素性を偽った。


 白石先生は、証言を偽った。


 夕は、姿と想いを偽った。


 九重先輩は、立場を偽った。


 紗枝は、能力を偽った。


 そして、私は…記憶を偽っていた。


 どれもこれも、嘘ばっかり。


 もう、嘘を吐いても許されるエイプリル・フールは、とっくに終わってしまったというのに。


 私はさらに、ここでも嘘を重ねる。


「またね、夕。」


 私は今、ちゃんと笑えているだろうか。


 夕に騙された、幸せな少女に見えているだろうか。


 そうして、夕を騙せているだろうか。


 夕の手がとうとう、頭に触れた。


 すると、少しずつ私の記憶に靄がかかったようになっていく。

 思考力すらも奪われて、何も考えられない。


 涙で霞んだ視界に映る色は、青と白。


 ぼやけて混ざり、境界が溶けたそれらは青空のように見える。


「_____」


 夕は何と言ったのだろう。

 私にはそれを認識することさえ、できない。


 ただ、ぼんやりとした白に、頭が侵食されている。


 気がつけば、夕の体が幽霊みたいに透けていた。


 おそらく、夕に残された時間も尽きつつあるのだろう。


 最後にこれだけは…。


 おねがい…。つたわって…。


「夕、ありがとう。」


 そして、夕の姿が消えていった。


 最期に夕は、涙を流してはいたけれど、とても綺麗に笑っていた。


 夢の世界は主を失い、崩壊を迎える。

 鮮やかだった青色は急速に色褪せて黒ずみ、綻んでいく。


 私の意識もブラックアウトしていった。


 最期に夕はなんて言ったんだろう。

 それだけが、気がかりだ。






 ◆◇◆◇◆






 私はいつものように、寮の自室で目覚める。


 普段通りの、何も変わらない起床。

 しかし、何かが足りない気がする。

 胸のあたりがぽっかりとあいて、大切なものを失ってしまったような。


 違和感を感じて目に手をやると、私は泣いていた。

 いったいどうしてしまったのだろうか。

 訳がわからなくて、少し混乱する。


 とりあえず、昨日あったことを思い出そうとするものの、思い出そうとすればするほど、頭に靄がかかったように、記憶は遠のいていく。


 誰かの声が、一瞬だけ聴こえたような気がした。


「ボクを忘れて、幸せになって。」と。


 …空耳、なのだろうか。


 知人を一人一人思い浮かべても、こんな声の持ち主は思い当たらない。


 まあ良い、きっと、私は少しばかり疲れているのだろう。


 私はベッドから起き上がり、服の袖で涙を乱暴に拭って身支度を始める。


 ふと窓の外をみると、そこには、雲の隙間から青空が覗いていた。


 気まぐれに、窓を開ける。


 生温い雨上がりの湿気をはらんだ朝の風が、私の頬を撫でていく。


 ふぅ、と溜息をついて再び窓を閉めると、私は自室を後にした。




 そうして わたしに にちじょうが かえってきた。




 雨はもう、降り止んでしまった。











あと、逸樹の『事情』が1話入ってからエンディングです。

エンドは2つ考えたのですが、ある意味真逆のエンディングなので、両方出します。

その方が面白そうだから。(笑)


ちなみに、エイプリル・フールは、

嘘をついても許される日のエイプリルフールと、

4月の愚者(フール)というのをかけています。

愚かだったのは、誰だったんでしょうね。





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