6章 4話
今日は2話投下しました。
ここは2話目です。
ご注意下さい。
___嘘つき。『また』なんて。
次の機会なんて永遠にないことを、私はもう知っている。
逸樹はやっぱり疫病神だ。
サービスと言いながら、私はそれのせいで、夕に綺麗に騙してもらえない。
この5日間。
皆、嘘ばかりついていた。
千秋さんは、名を偽った。
部長は、心を偽った。
都馬は、言葉を偽った。
逸樹は、素性を偽った。
白石先生は、証言を偽った。
夕は、姿と想いを偽った。
九重先輩は、立場を偽った。
紗枝は、能力を偽った。
そして、私は…記憶を偽っていた。
どれもこれも、嘘ばっかり。
もう、嘘を吐いても許されるエイプリル・フールは、とっくに終わってしまったというのに。
私はさらに、ここでも嘘を重ねる。
「またね、夕。」
私は今、ちゃんと笑えているだろうか。
夕に騙された、幸せな少女に見えているだろうか。
そうして、夕を騙せているだろうか。
夕の手がとうとう、頭に触れた。
すると、少しずつ私の記憶に靄がかかったようになっていく。
思考力すらも奪われて、何も考えられない。
涙で霞んだ視界に映る色は、青と白。
ぼやけて混ざり、境界が溶けたそれらは青空のように見える。
「_____」
夕は何と言ったのだろう。
私にはそれを認識することさえ、できない。
ただ、ぼんやりとした白に、頭が侵食されている。
気がつけば、夕の体が幽霊みたいに透けていた。
おそらく、夕に残された時間も尽きつつあるのだろう。
最後にこれだけは…。
おねがい…。つたわって…。
「夕、ありがとう。」
そして、夕の姿が消えていった。
最期に夕は、涙を流してはいたけれど、とても綺麗に笑っていた。
夢の世界は主を失い、崩壊を迎える。
鮮やかだった青色は急速に色褪せて黒ずみ、綻んでいく。
私の意識もブラックアウトしていった。
最期に夕はなんて言ったんだろう。
それだけが、気がかりだ。
◆◇◆◇◆
私はいつものように、寮の自室で目覚める。
普段通りの、何も変わらない起床。
しかし、何かが足りない気がする。
胸のあたりがぽっかりとあいて、大切なものを失ってしまったような。
違和感を感じて目に手をやると、私は泣いていた。
いったいどうしてしまったのだろうか。
訳がわからなくて、少し混乱する。
とりあえず、昨日あったことを思い出そうとするものの、思い出そうとすればするほど、頭に靄がかかったように、記憶は遠のいていく。
誰かの声が、一瞬だけ聴こえたような気がした。
「ボクを忘れて、幸せになって。」と。
…空耳、なのだろうか。
知人を一人一人思い浮かべても、こんな声の持ち主は思い当たらない。
まあ良い、きっと、私は少しばかり疲れているのだろう。
私はベッドから起き上がり、服の袖で涙を乱暴に拭って身支度を始める。
ふと窓の外をみると、そこには、雲の隙間から青空が覗いていた。
気まぐれに、窓を開ける。
生温い雨上がりの湿気をはらんだ朝の風が、私の頬を撫でていく。
ふぅ、と溜息をついて再び窓を閉めると、私は自室を後にした。
そうして わたしに にちじょうが かえってきた。
雨はもう、降り止んでしまった。
あと、逸樹の『事情』が1話入ってからエンディングです。
エンドは2つ考えたのですが、ある意味真逆のエンディングなので、両方出します。
その方が面白そうだから。(笑)
ちなみに、エイプリル・フールは、
嘘をついても許される日のエイプリルフールと、
4月の愚者というのをかけています。
愚かだったのは、誰だったんでしょうね。




