5章 7話
ファンタジー注意報発令中!
本格ミステリー嗜好の方は、エンディングまでお待ちください。
なお、黒幕の正体、佐久間君の正体を知りたい方は、お待たせしました。
もうちょっとで出ます。
白石先生と逸樹が、ここは任せて休んでいて良いと言ってくれた。
なので、私はクラブ棟から寮へと歩いている。
見上げると、空はいつの間にか茜色に染まっていた。
食事などまともに摂っていないはずなのに、食欲は湧かなかった。
もう精神的に限界で、今にも倒れてしまいそうな足取りで、それでもふらふらと進む。
もう何も考えられない。
考えたくない。
皆死んでしまった。
部長も、都馬も、夕も、千秋さんも。
どうして彼女たちは死ななければならなかったのだろう。
雨音が、思考を止めた私の頭を侵食していく。
事件は解決して、舞台は幕を閉じた。
そのはずなのに、大団円とは程遠い。
…苦いだけの、苦しいだけの、舞台。
皆、最初はただ…誰かを愛していた、だけ、だったのに…。
どこですれ違ってしまったのだろう。
傘をさすことすらも億劫で、私は雨を身体中に浴びて、声もなく泣いた。
後ろから、誰かが近付いてくる足音が聞こえる。
私が振り向くと、『彼』は私に自分の傘をさしかけてくれた。
そこに立っていたのは、どこか見覚えのある、純朴そうな黒髪の『彼』。
眼鏡の縁を雨で濡らした彼は、心配そうに言う。
「あっ、やっぱり姉さんだ。大丈夫?
なんだかふらふらしてる…っていうか泣いてるじゃん!
え?え?どうしたの!?」
青年は私が泣いていることに気が付くと、おろおろとしている。
だが、私を姉さんと呼ぶその青年に、私は見覚えがない。
「ごめんなさい、人違いじゃないですか?」
会話をするのも煩わしくて、私はそっけなく言った。
青年はそんな対応を予想だにしていなかったかのように、驚いている。
「えっ、なんの冗談なの?
僕は逸樹だよ。小塚 逸樹。
環姉さんの弟でしょ?
今年入学した。」
…小塚、『逸樹』?
彼が名乗った瞬間、ぱりん、と、何か硬質なものが砕ける音を、私は聞いた。
激しい頭痛が瞬間的に私を襲い、すぐに引いていく。
何かに殴られたように体がふらつき、かろうじて青年に支えられた。
そして私は事件の舞台裏の真実を知る。
…私たちは舞台の上で、決められた役を演じる役者にすぎなかったのだ。
逸樹と名乗った青年は事情も分からず、困惑の表情でこちらを見ていた。
私は言った。
「ごめん、ちょっと疲れてたみたい。
じゃあね、逸樹。
遅くなったけど、入学おめでとう。」
彼は、うん、と言って、後ろ髪を引かれた様子ながらも、去っていった。
◆◇◆◇◆
私は食事をとるとすぐに自室に戻り、夜を待った。
辺りが暗くなると、すぐに布団に潜り込む。
私の予想が正しければ、まだこの事件には真実が隠されている。
なぜ都合良く天候が崩れたのか。
なぜ電波が通じなくなったのか。
なぜ千秋さんは去年の事故に、頑なに疑惑を感じたのか。
そして、なぜ急にあのタイミングで死んでしまったのか。
最後に…なぜ逸樹と名乗る人物が2人存在するのか。
その全てに対して、今の私はあらかたの予想がついている。
そのまま横たわっていると、いくらもたたないうちに、不自然な睡魔が私を襲う。
きっとまた、あの赤い夢の中に行くことになるのだろう。
全てはあそこから始まった。
ならば、終わりもあの場所が最も相応しい。
窓も閉め切っているのに、クロの声が聞こえる。
にゃー。
そして私の意識は夢の中に沈んだ。




