表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エイプリル・フール  作者: いちい
藍色の愛を胸に抱いて
35/45

5章 7話



ファンタジー注意報発令中!

本格ミステリー嗜好の方は、エンディングまでお待ちください。


なお、黒幕の正体、佐久間君の正体を知りたい方は、お待たせしました。

もうちょっとで出ます。






白石先生と逸樹が、ここは任せて休んでいて良いと言ってくれた。


なので、私はクラブ棟から寮へと歩いている。


見上げると、空はいつの間にか茜色に染まっていた。

食事などまともに摂っていないはずなのに、食欲は湧かなかった。


もう精神的に限界で、今にも倒れてしまいそうな足取りで、それでもふらふらと進む。


もう何も考えられない。

考えたくない。


皆死んでしまった。

部長も、都馬も、夕も、千秋さんも。


どうして彼女たちは死ななければならなかったのだろう。

雨音が、思考を止めた私の頭を侵食していく。


事件は解決して、舞台は幕を閉じた。

そのはずなのに、大団円とは程遠い。

…苦いだけの、苦しいだけの、舞台。


皆、最初はただ…誰かを愛していた、だけ、だったのに…。


どこですれ違ってしまったのだろう。


傘をさすことすらも億劫で、私は雨を身体中に浴びて、声もなく泣いた。


後ろから、誰かが近付いてくる足音が聞こえる。

私が振り向くと、『彼』は私に自分の傘をさしかけてくれた。


そこに立っていたのは、どこか見覚えのある、純朴そうな黒髪の『彼』。


眼鏡の縁を雨で濡らした彼は、心配そうに言う。


「あっ、やっぱり姉さんだ。大丈夫?

なんだかふらふらしてる…っていうか泣いてるじゃん!

え?え?どうしたの!?」


青年は私が泣いていることに気が付くと、おろおろとしている。


だが、私を姉さんと呼ぶその青年に、私は見覚えがない。


「ごめんなさい、人違いじゃないですか?」


会話をするのも煩わしくて、私はそっけなく言った。

青年はそんな対応を予想だにしていなかったかのように、驚いている。


「えっ、なんの冗談なの?

僕は逸樹だよ。小塚 逸樹。

環姉さんの弟でしょ?

今年入学した。」


…小塚、『逸樹』?

彼が名乗った瞬間、ぱりん、と、何か硬質なものが砕ける音を、私は聞いた。

激しい頭痛が瞬間的に私を襲い、すぐに引いていく。


何かに殴られたように体がふらつき、かろうじて青年に支えられた。




そして私は事件の舞台裏の真実を知る。





…私たちは舞台の上で、決められた役を演じる役者にすぎなかったのだ。


逸樹と名乗った青年は事情も分からず、困惑の表情でこちらを見ていた。


私は言った。


「ごめん、ちょっと疲れてたみたい。

じゃあね、逸樹。

遅くなったけど、入学おめでとう。」


彼は、うん、と言って、後ろ髪を引かれた様子ながらも、去っていった。






◆◇◆◇◆




私は食事をとるとすぐに自室に戻り、夜を待った。


辺りが暗くなると、すぐに布団に潜り込む。


私の予想が正しければ、まだこの事件には真実が隠されている。


なぜ都合良く天候が崩れたのか。


なぜ電波が通じなくなったのか。


なぜ千秋さんは去年の事故に、頑なに疑惑を感じたのか。

そして、なぜ急にあのタイミングで死んでしまったのか。


最後に…なぜ逸樹と名乗る人物が2人存在するのか。


その全てに対して、今の私はあらかたの予想がついている。


そのまま横たわっていると、いくらもたたないうちに、不自然な睡魔が私を襲う。

きっとまた、あの赤い夢の中に行くことになるのだろう。


全てはあそこから始まった。

ならば、終わりもあの場所が最も相応(ふさわ)しい。


窓も閉め切っているのに、クロの声が聞こえる。


にゃー。


そして私の意識は夢の中に沈んだ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ