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エイプリル・フール  作者: いちい
藍色の愛を胸に抱いて
33/45

5章 5話



3日連続更新!

作者、超頑張って本気出してみました!




 




 私のその言葉を聞くと、彼女はいきなり激昂した。

 拳で机を叩きつける。

 がんっ、と、凄まじい音が広がった。

 あまりの剣幕に、私たちは気圧される。


「事故!?そんなはずない…!

 お姉ちゃんはなんで一人っきりであんな時間に夜道を歩いてたのよ。

 作品の相談でそんなに遅くなるなんておかしいでしょ!?

 …そんなの嘘に決まってるのよ。」


 千秋さんは涙を流しながら、私を強い憎しみを感じさせる、濁った瞳で睨む。

 彼女の掌は爪で切れて、血が滲んでいた。


「絶対に、あんたたちが何かしたに決まってるわ。

 あははっ、でも理由も誰がやったのかも分からなかったから、一人ずつ血祭りにしてやったの。

 一応言っておくと、殺したのは頭が切れて面倒そうな順。

 アンタって、見かけほどにぶくないのね。

 一番トロそうに見えたのに。」


 千秋さんは狂ったように笑い続ける。

 一見、ここまで犯人に気付かなかった私たちを哄笑しているようにも見えるが、私には涙もあいまって、彼女が血の涙を流して泣いているように見えた。


 ぽつり、ぽつりと掌から血の雫が滴り落ちる。

 その小さな音は、雨に紛れて誰にも聞き取られることはない。


「あーはっはっは!

 ねえ、アタシがユカお姉ちゃんの妹で、在学中のお姉ちゃんとの思い出話でも聞かせてほしいのって言ったら、津宮はあっさり手助けしてくれたわ。

 河野を殺した次の日に、あいつ真っ青になっちゃってさあ。

 アンタの言ったとおり前日のうちに部室に呼んでおいたんだけど、朝一で飛んできたあいつに、『あんたも共犯よっ』って言った時のアイツの顔ときたら、傑作だったわ!」


 ケラケラと泣き笑いしながら彼女は、まあチクられたらあいつになすりつけてあの朝に殺すつもりだったんだけど、と嘯く。


「アイツは臆病なヤツだったから良かったわぁ〜。

 その場合は体格の良いアイツと取っ組みあって殺らないといけなくなっちゃうもの。」


 もう見ていられない。


「千秋さん。

 あなた、そんな風に言ってるけど、復讐を遂げたら生きてこの学校を出るつもりなんてなかったでしょう。」


 千秋さんは笑いをゆっくりと消す。

 残ったのは、頬を伝い続ける涙だけだった。


 雨音が部屋に満ちる。

 真実をも覆い隠さんと。


 私は静かに告げる。


「夕のときの処理。

 あれじゃ、その場は(しのげ)ても警察が鑑定したら、すぐにあなたが犯人だって分かってしまう。

 それに道具の入手だって、ネットを使ってあんなに怪しいものを注文したら、すぐに足がつくよ。

 …あなたは復讐を遂げたら、自殺するつもりだったんじゃないの?」


 千秋さんは何も言わず俯いた。


 私の予想は当たっていたようだ。

 千秋さんはさっきから狂ったような言葉ばかり吐いているが、おそらくそれは虚勢だったのだろう。

 彼女はまだまともな価値観を持っているし、正常な判断も下せる。

 殺人が罪だということも理解しているはずだ。

 それでも、彼女は姉の事故に納得できず、信じたくなくて、いっそ狂ってしまいたかった。

 倫理と感情の板挟み。

 その結果が、自殺という形で責任をとる、ということなのだろう。


 聡明なのに、哀しい、愚かな子だ。

 彼女が死んだって誰も帰ってこないし、罪が消えるわけでもない。

 そして、そんなことは彼女自身が一番良く分かっている。


 それでも、他に方法が見つからなかった。

 そうせずにはいられなかった、とでも言うような…。


 あるいは、人を殺した自分が生き続けることを耐え難く思ったのか。


 いずれにせよ、それは彼女しか知り得ない。


 そんな…。

 その(かす)れた声が漏れたのは、白石先生からだった。


 意図せず皆の注目を集めた彼が、こちらが焦らされてしまうくらい緩慢に唇を開いた。


「まさかとは思っていたけれど。

 君に彼女の面影を感じたのは、気のせいではなかったんだね…。」


 先生は、俯いたままの千秋さんを悲しげな目で見据える。


「君があの日あの場所にいた人間の中で、僕だけを狙わなかったのは、もしかして。

 …僕がユカの恋人だったからかい?」


 えっ?

 先輩付き合ってたのは、都馬とじゃ。


 私はてっきり、先生が千秋さんを庇ったり、一人だけ狙われていないのは、千秋さんに先生が、あるいは先生に千秋さんが好意を持っていたからかと思っていた。


「…七海先輩が交際していた相手は、津宮君ではなかったのですか?」


 冷静に、九重先輩が先生に尋ねた。


 先生は首を振る。


「彼は彼女に片思いをしていただけだよ。

 彼女としては、彼を親友だと思っていたようだ。

 ある意味残酷なことにね。」


 噂は偽りだったということか。

 私はこんな場合にもかかわらず、ほうけてしまった。


 千秋さんが顔をあげて、白石先生に淀んだ瞳を向ける。


「そうよ。アンタを殺したらお姉ちゃんは悲しむでしょう、残念なことに、ね。

 お姉ちゃんは恥ずかしがって、直接アンタには会わせなかったけど。

 …アンタのことを話してる時、凄く幸せそうだったから。」


 彼女は唇を噛む。

 きっとそこには、なのになぜあの日に一人にさせたのだ、という怒りがあるのだろう。


 先生はそれを聞くと、悲しそうに続ける。


「僕も、会ったことはなくても、君のことは話には聞いていたよ。

 携帯で写真も見せてもらった。

 今とは服装なんかが違いすぎて、まさか本人だとは気付かなかったけれど。」


 先生は、息をつく。


「…だからかな。

 君に彼女の面影を見て、がらにもなく、津宮と君が会っていた時のことを黙って嘘をつき、庇ってしまったのは。」


 先生は、千秋さんの方に歩み寄っていく。

 私は危険だから止めようとしたのだが、先生はそれを目で制した。










長いから分割したのですが、2分割じゃ駄目でした…。


まだこの後、もう1話続きます。



その後は予定だと、数話つなぎを挟んで解決編2部目(裏)が始まって、最後にあるキャラクターの話とエンディング、という感じになりそうです。



読んでくださった皆様、ありがとうございます。

もうしばしお付き合い願います。




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