5章 4話
作者、解決編に入るから超がんばって早めに投稿しました。
「サークルの皆を殺したのは、あなたですね___千秋さん。」
千秋さんは、首をこてん、と傾げて、いつもよりおどおどと言う。
「え、えええ!?ち、違いますよ。
な、なな、何をおっしゃっているのですか。
先輩、ひどいですよ。
そ、それに、私がどうやって殺したとおっしゃるのですか。
噂によると、最初の河野部長はともかく他の二人の先輩方は、密室だったのでしょう?
動機も、ありませんし…。」
彼女は否定する。
しかし、それも予想の範囲内だ。
「順番に説明します。
まず部長の時は、あなたは都馬に予め接触して、初日までは通じていたメールで、部長を運動場に呼び出させた。
何かサークル関連でききたいことがある、とでも都馬にメールで言わせておいたんでしょう。」
「そんなこと言ったって、なんで二人とも素直に動いたんだ?」
逸樹が口を挟む。
「それは後で話す。動機と深く関わるから。
ともかく、部長があんな場所にいたのはそのせいです。
メールで時間をぎりぎりに指定しておけば、真面目な部長は犯人の待ち受けているあの道を通って、間に合わせようとする。
あそこは運動場への近道だからね。」
「………。」
彼女は何も言わず、ただ値踏みするような目で私を見ていた。
「都馬の時は、前日に部長を呼び出してもらった後の首尾を報告する、なんかの名目で呼び出しておいた都馬に、ここでペットボトルに毒を入れておいただけ。
蓋が開いていなくても、こっそり隙を見て注射器を使うなりすれば済む。
鍵は、部長から奪えば良い。
そのフェミニンなゆったりした格好も、フリルや服の隙間に凶器を隠すためでしょう?」
「でで、でも、そ、それだと誰にでも出来ますよね?部員なら。」
千秋さんはまだ認めない。
「最初の2件はそうかもしれない。
でも、次の夕が決定的だった。
あなたは昼間のうちに、私たちと別れたあと、夕の部屋に忍び込むための細工をした。
本当はそんなことする予定はなかったんだろうけど、あの日は私が夕に張り付いてたから、やむなく急ごしらえのトリックを使ったんでしょう?
だから粗が出てしまった。
夕の部屋より数メートル上には、体育館の窓がある。
そこに細いテグスを通して、窓の外に輪にしたそれを長くたらしておく。
後は、夜になったら自分の部屋を窓から抜け出して、テグスの輪を切り、代わりに両端にロープを結びつけて回せば、上までロープがかかる。
そしたら今度はテグスを取り外し、渡ったロープをよれば良い。
それからそこに掴まって崖を登り、夕の部屋の窓を空き巣方式で割って侵入する。
音もテグスも、雨が隠してくれる。
道具は多分、毒薬なんかも使ってるし、ネットで入手、かな?
死体を動かしたのは、ある不自然さを紛らわせるためと、夕の部屋から離すことでトリックを分かりにくくして、外部の人間や男性にも容疑をかけるため。」
「そそ、それがどうしたと言うのですか…?
わ、私と特定する理由には、よ、弱いと思うのですけれど。」
彼女はまだ、抗っている。
証拠を突きつけられるまでは、認めるつもりはないのだろう。
「夕の部屋の上は、体育館の女子更衣室。
男性が入るにはリスクが高すぎる。
そして、もう一人の女性容疑者である紗枝は、その日はずっと談話室に篭っていた。
あそこは人通りが多いから、募れば目撃証言なんていくらでも集まる。
残ったのはあなただけだよ。
それにね、証拠がある。」
「証拠…?」
千秋さんはとぼけているが、顔には焦りが滲んでいる。
自分でも思い当たったのだろう、あのことに。
「千秋さん、服の袖を捲ってくれませんか?
上までしっかりと。」
「……っ!」
「夕の死体には、真っ赤なマニキュアが塗られたままだった。
でも、夕が殺されたのは、夜、しかも就寝中。
そして、夕の首に残る引っ掻き傷。
犯人はおそらく、夕を殺す際に、腕に傷をおった。
マニキュアをつけるような、長くて鋭い爪で。
犯人は焦ったんだろうね、まだ私が残っていたから、気取られるわけにはいかない。
そこで、自分はフェミニンな服をもともと着ていたから、袖の長い服で傷を隠して、夕の死体には、爪に夕がよく使ってた赤いマニキュアを塗ってごまかした。
爪の隙間にまで入り込んだ血の汚れは、水では落としきれなかったから。
外に放置したのも、その違和感をまぎらわせる意味が込みだった。
…さあ、千秋さん。
無罪を主張するなら、あなたの腕を見せて下さい…。」
千秋さんは一度観念したように目を瞑ると、敵意に満ちた視線で私を睨みつける。
そこには、おどおどした仮面をかぶった千秋さんの姿はなかった。
あれは演技だったのだろう。
「動機は?」
私は彼女視線を真っ向から受け止める。
「あなたの姉である、七海 悠夏のため、でしょう。
そもそも死因に拘って、先輩の作品をなぞったりしているんだから。
違いますか、千秋 奈々美、いいえ。
七海 千秋さん。
もっともあれはただの事故だから、逆恨みだけど。」
千秋 奈々美→七海 千秋
七海 ユカ先輩→七海 悠夏
が分かれば、3章の時点でほぼ犯人が決まってしまうという。
2人のフルネームは作中一度ずつしか出ないので、動機を詰めるのはめんどくさかったかなぁ?
なんでこんなに微妙な偽名かというと、万一知り合いに会った場合、不審に思われるからです。
例えば田中 花子という知人が別の場所で、
「美香ちゃ〜ん!」とか呼ばれてたら、
「えっ!?」て思いますよね。
あと、今回は解決編がちょっと長いので、分けました。
まだ推理は続きます。




