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エイプリル・フール  作者: いちい
藍色の愛を胸に抱いて
30/45

5章 2話


申し訳ありませんが、4〜7日は私用のため、更新が停滞しそうです。




 





 夕の部屋の前で、私は立ちすくんでいる。

 どうやってここまで来たのかは、何も考えられなかったためか、よく覚えていない。


 私はここまで来て、夕の部屋への一歩を踏み出せずにいた。

 もうこの部屋で私を暖かく迎えてくれる友人は、どこにもいない。

 そう思うと、昨日までは親しみを覚えたこの部屋に、今はとても強い忌避感を感じるのだ。


 ただ扉を開いて中を調べるだけ。

 難しいことなど何もない。

 こんなこともできないようなら、犯人を捕まえるなど夢のまた夢。


 そう、私はやらなければならない。

 この手で、夕の仇を捕まえるまで…。


 管理人さんに道すがら借りたカードキーを取り出す。

 ドアを開けようとしたその瞬間、誰かの影が私の視界に写り込んでいるのに気が付いた。


 影の主が犯人だったら危険だというのに、不思議と警戒心はわかなかった。

 もし犯人だったら、夕と同じ場所に連れて行ってくれるかな…?

 そんな暗い思考で背後を緩慢に振り向く。


 そこにいた人物は…。


 九重先輩だった。


「九重先輩…?

 どうなさったんですか?」


 九重先輩は思いつめた表情で、ひとまず相田君の部屋に入ろう、と言った。


 もし九重先輩が犯人だったら危険だ。

 そのくらいは私にも分かる。

 しかし、私はもう何もかもがどうでも良かった。

 確かに夕の仇を捕まえたいのは本当だが、結局のところそれも、私のエゴなのだから。


 夕はこんな私を見たら、悲しむだろうか、それとも怒るだろうか。

 それぞれの場合に思いを馳せる。

 きっとどちらでも、おどけた仕草で、ぽかぽかと私を叩くのだろうな。

 思わず笑うと、九重先輩は怪訝そうにした。


 夕の部屋は、逸樹の情報通り窓が割られていた。

 割れ窓の向こうには、土色がむき出しになった崖が見える。

 距離にして、1メートルよりやや短いくらい離れているだろうか。


 先輩は鍵をかけると、私に椅子を勧め、自身も夕の部屋のテーブルにつく。


 そして、ポケットから一通の白い封筒を取り出すと、私の前に置いた。


「それは、今回の相田君が殺された件で使用されたであろうトリックだ。

 僕には犯人は分からないが、この校舎の構造から言って、おそらくその方法を用いたのではないかと思う。

 もし君に犯人を捕らえたいという意志があるのならば、役立てまたえ。」


 願ってもない申し出だ。

 ただ、なぜ彼は私にこんなものを渡してきたのだろう。

 その理由が私には分からない。

 無条件に信じることは、到底出来なかった。


「先輩、なぜあなたがこんなものを、わざわざ私に?」


 先輩が私に返したのは質問だった。


「この学校の出資者、経営者…、というか理事長が誰か、君は知っているだろうか?」


 私は質問の意図が見えず、戸惑いながら答える。


「先輩のお父さんの、九重(ここのえ) (みぎわ)氏、ですよね。」


 九重先輩の父が理事長だというのは有名な話だ。

 すんなりと思い出せた。


 先輩は俯き、苦しげに声を絞り出す。

 いつものふざけた振る舞いは、見る影も無い。


「ああ、そういうことになっているな、書類上は。

 しかし実情は違う。


 この学校の実質的な理事長は、僕、九重 砌だ。」


 その声に含まれていたのは、紛れもない悔恨の念。


 彼は驚く私を尻目に続けた。


「僕のお爺様が亡くなった際に、遺産の分与として、僕宛に幾許(いくばく)かの資金が遺されていた。

 九重一族は、経済界ではそこそこ名のある一族だからな。

 お爺様は特に、僕には目をかけて下さっていたのだよ。

 そして、父もそれを元手に何かしてみれば良い、と言ってくれた。

 まだ年若いゆえ、名義は父にさせてもらっているのだが、この九重大学は、僕が理事を務めているのだ。」


 九重先輩はここで息をついた。

 私の目を見る。


「そして、僕が校舎の構造に詳しい理由もここにある。

 此度の騒動は、当たり前ではあるが僕の本意ではない。

 経営者としても、死んでいった彼らの友人としても、何かしたかった。

 去年の事故が原因とあってはなおさら、な。


 ただ、僕には事件の概要は見えても、それを糾弾することはできない。

 動機も君の方が正確に理解できるだろうしな。

 それに何より、その資格は、あの日あの場所にいなかった僕にはない。

 だから、僕は君に託すことにしたのだ。


 …そうだな、ついでに言うなら、君は相田君を救えなかったことで、自暴自棄になっている、そうだろう?

 そんな君に役割を与えることで、無謀なことを思いとどまらせる、という意味もあるな。」


 ここまで一息に言うと、九重先輩は静かに立ち上がった。

 ドアへと向かい、振り返らずに私に、最後の言葉を紡ぐ。


「全てが君に託された。

 ばらばらに散らばっていたヒントは、それを見れば完璧に繋がるだろう。

 舞台の幕を引くに相応しいのは、唯一君だけだ。

 良き結末を期待している。」


 がちゃり、と、ドアの閉まる音がする。


 後に残されたのは、私と、九重先輩に託された白い封筒。

 開けるか開けないかも、私次第。

 私が望めば、ここで破り捨て、全ての真実から耳目(じもく)を塞ぐことさえ出来る。


 ___しかし。夕はそれをきっと、望まない。


 私は封筒を開けて、中に封入されていた紙を開く。

 九重先輩の言っていた通り、そこにはあるトリックが記されていた。


 それを見た瞬間、私の持っているあらゆる情報が、真実の破片が、繋がっていく。


 最後に残った動機のピースを嵌めると、この事件の真実が私の前に明らかになる。





 ___白い靄の向こうにあったそれは、悲しい物語だった。








次の次くらいで解決編に入ります。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。


もうしばしお付き合い願いたく存じます。


ところで皆様、犯人はもうお分かりになりましたか?

本編では九重先輩のアシストが入っておりますが、この物語は、ここまでの情報できちんと推理できるようになっております。

実は最初はもっとしょぼいトリックだったのですが、姉に読ませたところ失笑をかったため、難易度を若干上げて今に至るのです。

そこで、これは環には解くのムリじゃね?と思ったので、彼に協力してもらいました。


謎は、

1、犯人は誰か

2、犯人の動機

3、犯人の手口(部長、都馬、夕)

4、佐久間君の正体

5、この物語、どこかがおかしくないか


です。


フラグ回収や答え合わせは後ほど後書きか本編で行います。


それではまた、5章3話でお会いしましょう。




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