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エイプリル・フール  作者: いちい
開かれるは赤い緞帳
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1章 2話



お待たせしました、ここからが本編の本格的な始まりです。




そして私は目を覚ました。


上半身をはね起こして、動悸の激しい胸に手をやる。深呼吸して、ゆっくりとあたりを見回すと、そこは私の慣れ親しんだ寮の自室だった。


「にゃー。」


どうやら私は悪天候にもかかわらず、うっかり洗面所の脇の窓を開けたまま眠ってしまったらしい。


室内に雨が吹き込み、床が幾分か濡れてしまっている。


そんな中、毛皮がやや湿った黒猫がベッドで、起きろと催促して、私に猫パンチを連続して繰り出していた。


この黒猫の名前はクロ。たまにふらっと、私の使っている、この寮の一室に侵入してくる友猫だ。


余談だが、普段の彼は、ツヤツヤとした毛並みの美しいイケメンである。


しかし、いくらなんでも、部屋の主が寝ているのに、忍び込んでくるとは。しかも、濡れた体で。猫とはいえ、紳士にあるまじき行為だ。


これは抗議をしてしかるべきだろう。


「クロ、何するの。………いたっ、いたいいたい。すいません、起こしてもらっておいて文句言ってすいません…。」


つい文句を言うと、不機嫌そうに引っかかれてしまった。ひどい…。


いや、しかし。私は思い直す。


もしかしたら彼は、私がうなされていたから起こしてくれたのかもしれない。彼は賢い猫だ。


偶然ということもありうるが、助かったのも事実。少し悪いことをしてしまった。


罪悪感や後悔というのは、えてして後から来るものである。


私はベッドから緩慢に立ち上り、頭を振って覚醒の余韻を払うと、開いてしまっている窓を閉めて、リビングへ続くドアに手を掛けた。


今日は外出の用事があるのに、このぶんでは濡れた床を、軽く掃除してから出ないといけないかもしれない。


ため息がこぼれる。


まあ仕方ない。たいした手間でもないから甘受しよう。あの悪夢を見続けるよりはずっと良い。


とすると、臍を曲げてしまった彼の機嫌をとるのが先決だ。


「クロ、おいで。ジャーキーあげるから機嫌直してくれる?」


私が声をかけると、クロはむすっとして後をついてきた。微妙に呆れたような空気が彼の周りに出ている。


その表情は、猫ながら雄弁に彼の心情を語っていた。すなわち…


しけてんなあ、と。


それを見て日常を感じ安心しつつ、誰にともなく私は呟いた。


「そう、あれはただの夢なんだから。」


けれど、雨音が私の言いようのない不安をかきたてる。なんとなく落ち着かなくて、壁にかけたカレンダーに目をやってみた。


今日の日付けはもう、大学の春休みも終わりかけた4月の頭になっていた。


ふと、腕時計を確認する。


「あっ、いけない。サークルの活動に遅れちゃう。」


私は急いで、軽く床の水気を拭き取り、出かける準備をした。いくらこの学生寮が大学のすぐ近くにあるとはいえ、時間はもう迫っている。


洗面所で顔を洗い、手櫛で髪を整える。


鏡に映るのは、真っ黒な、肩より少し長いセミロングの髪をした女性。2連のほくろのある目尻の下がった、濃褐色の瞳でこちらをじっと見ている。


よし、いつも通り。


窓の外では相変わらず、今日で2日目になる強い雨が降っている。


私は部屋の壁についている機器から、カードキーを取って、ドアへ向かう。


いつもはありがたく思うこの寮の厳重なセキュリティも、こんなときには煩わしい。


聞いた話によると、この学校の理事長が、


『不純異性交遊?ふはははは、そんなもの許さんわ!できるものならこのセキュリティを突破してみろォ!』


と、よくわからないことを言って、こうまで強固な体制ができたらしい。


どんな執念なのだか本当に意味が分からない。


きっとこの噂は眉唾だろうと、私は思っている。





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