表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エイプリル・フール  作者: いちい
緑青に錆びゆく縁
28/45

4章 5話

 




 自室に鍵をかけた。


 私にできることは思いつく限りやったけれど、それでも不安は押し寄せる。

 本当に夕は大丈夫なのだろうか…。


 洗面台で歯を磨きながら、鏡の向こうの自分に問いかける。

 鏡に映る彼女は、暗い顔をしてこちらを見かえしていた。


 のろのろと着替えてベッドに入っても、夕の安否が気になってしかたがなく、眠ることなどできそうになかった。


 もう何度目になるか分からない寝返りをうったところで、急に不自然な睡魔に襲われる。

 精神的に疲れていた私には、それに抗う力などなかった。


 薄れゆく意識の中、何かが割れる硬質な音が雨音を幽かに切り裂いたと思ったのは、果たして夢か幻か。


 私の声なき問いに応えたのは、無機質な雨音だけだった。





 ◆◇◆◇◆






 私はまた、赤い夢の中にいる。


 はじめの夢によると、死ぬのは私を含め5人。

 明後日には救助がくるため、あとは明日さえは乗り切ればなんとかなるはずだ。

 しかしそう思うも、私は本当に夕を守ることができたのだろうか。不安が募る。


 跳ねる鼓動を義務感で押さえつけ、今回もまたスクリーンになっていく霧を見つめた。


 そこに映ったのは自室だった。

 私と逸樹が誰かと対峙している。

 すると、うなだれていたその誰かが、スクリーンの中の私の油断した隙に、懐からスタンガンを取り出し、襲いかかる。


 逸樹がとっさに私を庇って突き飛ばし、身代わりとなって倒れた。


 誰かはスタンガンを再度起動しようとするも、充電切れか作動しないのを見て、舌打ちをするとそれを荒々しく放り投げた。

 そして、テーブルの上の、来客用のガラス製の灰皿を掴む。

 スクリーンの中の私は逸樹にすがりついて、目を見開き呆然としていた。

 誰かはそんな私に背後から近づき、殴る。

 私は逸樹に覆いかぶさるように倒れ伏した。


 誰かはとどめとばかりに、さらに動かない私に数回灰皿を叩きつける。

 怖いくらい鮮やかな血の赤が、飛沫となって空を舞った。

 段々と殴打音に濡れたような音が混ざり、私の頭部は一筋、また一筋と緋色に染まる。

 それにつれて、ぼやけたような誰かの顔の唇がつり上がっていき、狂気の笑みを描いていった。


 どれくらい時がたったのだろう。

 しばらくすると誰かは満足したらしく、部屋に背を向けてドアから静かに去って行く。

 部屋にはぴくりとも動かない逸樹と、その傍で血だまりを広げている私の死体が残された。


 ここまで映すとスクリーンは霧散した。


 私の脇から、何者かの笑い声がする。


 そこにはやはり、靄をまとった人影が揺れていた。


「あははっ、お次はとうとうアンタの番だ!

 せいぜい足掻くが良いよ、アンタの大事なだ〜いじなオトモダチみたいな目にあいたくなければ。」


 滴るような悪意で粘ついた声が、とても楽しそうに、遊園地にでも行くかのように語る。


 それはどういう意味なのだろうか。

 やはり、いやでも…。

 私は何か口に出そうとしたが、私の意識は急速に覚醒していき、できなかった。


「起きてみてからのお楽しみっ。

 あはは。あっはっはっはははははは!」


 人影の声が、私の心を読んだかのように嘲笑するのが、薄れゆく赤い空間に響いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ