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エイプリル・フール  作者: いちい
緑青に錆びゆく縁
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4章 4話

 






 結局そのまま時間は過ぎていき、食堂で夕食をとると、帰り道で紗枝に遭遇した。

 半泣きになってふらふらと周辺を彷徨っている。

 何かあったのかもしれない。

 紗枝は新入生だし、狙われることはないと思うが…。

 私は同行していた夕に断りを入れて、彼女に声を掛けた。


「紗枝、どうしたの?」


 紗枝は私に気が付くと、鼠を捕まえる時の梟のように飛びかかってきた。


「あ、あの…センパイ。セーンパーイ!

 うわあぁん!

 昼間はずっと談話室にいたんですけど、夜、部屋に戻って一人になったら、なんだか怖くなっちゃったんですよう。

 ここに着いてから無性に、イヤーな気配を感じるし!

 お願いします、紗枝としばらく一緒にいてくださいー!」


 紗枝はかわいそうなくらい怯えている。

 号泣だ。

 私にぎゅうぎゅうしがみついてくる。

 あまりにきつくしがみついているため、色々と締まっている気がする。

 このままでは、今日の犠牲者は私になってしまうかもしれない。


 見かねた夕が、私から紗枝を引っぺがしてくれる。


 夕が構わないと言ったので、3人で夕の部屋に行くことになった。

 どのみち紗枝が騒いだせいで目立ってしまっていたので、場所は変えなければならなかっただろう。


 部屋の前に着くと、夕が鞄からカードキーを出して、ドアを開く。

 そのまま夕は飲み物を用意しにキッチンへ行き、私はテーブルについた。

 紗枝はまだ落ち着かないのか、きょろきょろびくびくしている。

 はっきり言って、挙動不審だ。


 客観的に見て、ここまでの怯えは異常だと思う。

 昨日も顔色が良くなかったが…。


 私が席を勧めると、はっとして席についた。

 用意が終わった夕も参入してくる。


「ねえ紗枝、さっきからなんでそんなに怯えてるの?

 確かに人が死んでるからっていうのはあるだろうけど、それにしてもなんか変だよ。」


 紗枝はびくっ、と肩を震わせた。


「セ、センパイ…。」


 彼女は、はぁ、と息を吐くと、私と夕をじっと、探るように見る。


「分かりました。

 でも、他言無用じゃなきゃ話すのはヤですよ?

 紗枝、泣いちゃいますから!」


 私も夕も、決して他言しないと誓った。


 おもむろに、紗枝は彼女には珍しい真剣な(おも)持ちで話し出す。


「紗枝の家系は、ご先祖様に巫女やらなにやらがいっぱいおりまして。

 稀にそういう系の人間が生まれます。

 親戚に霊能力者もいるんですよ。

 要するに…。紗枝は感じるんですよ、イロイロと。

 なんだかこの学校、ヘンなのがいるみたいで、紗枝はあまり強く感じられる方ではないですけど、気持ち悪いです…。」


 まさか…。

 まさかそういう方面の理由とは予想できなかった。

 普通の感覚なら信じられないだろうが、あいにく私も予知夢(?)なんてものを見ているし、紗枝の剣幕もあいまって、嘘だとは思わない。


「じゃあー、そのおかげで犯人がわかったりぃー?」


 夕は不思議現象は私で耐性が出来たのか、あっさりと信用している。

 まあ、紗枝のあの怯えようは演技や冗談ではありえないくらいのものだったが。


 紗枝は首を振る。


「いえ、私は何かの存在を感じられるくらいで…。

 でもでも、環センパイには何かの影響がありますよ!なんだかあったかい感じで、悪いものじゃないです。

 だから、ついついセンパイに寄っていっちゃって。」


 何かの影響と言われても…。

 思い浮かばな…。

 思い当たることが一つだけある。

 まさかあの予知夢のことか?

 でもアレはあったかいというよりも、ムゴイとかヒドイとかエゲツないというベクトルのような…?


 内心、密かに考え込む私をよそに、カミングアウトを果たした紗枝は、心なしかすっきりとした顔をしている。


「信じてくれなくても良いです。

 紗枝は紗枝ですから。

 だから、今は何も言わないでください。」


 そう言った。


 私としても、反応に困るから、この申し出はありがたいかった。


 話題を逸らしたかったのだろう、ここで不意に、紗枝はユカ先輩を話題に出した。


「ところで、このサークルで、しばらく前にも死んだ人いますよね?

 もしかして今回の件と関係があったりしちゃいます?」


「そうだねえ。

 前の部長で、ユカっていう名前だったんだ。

 とても慕われていたよ。」


 私はそう言った。

 夕も、昔を懐かしむように、過去に思いを馳せている。


「カッコイイ人だったよねぇー。

 でも、トーマと仲が良くて、付き合ってたってアタシは聞いたなー。」


 そこに僅かな哀しみが滲んでいるのは、もういない彼女たちを偲んでのことだろうか。


 そう言えばと、私は一つ思い出した。


「最後に先輩が書いてた作品、随分入れ込んでたから理由を訊いたら、大切な人にあげるんだって言ってたなあ。

 じゃあそれって都馬だったんだ。

 私もその噂、聞いたことあるし。」


 私は納得した。と、ここで10時の鐘がなる。消灯時間だ。


 私たちは各々自室に戻ることになった。


「じゃあ夕、くれぐれも気をつけるんだよ。」


「分かってるってー。」


 紗枝は事情を知らないため、私たちのやりとりを不思議そうに眺めていたが、ふと思いついたように、ポケットからお守りを1つずつ渡してきた。

 お守り袋は小さくて真っ黒で、白い蛇が1匹書き込んである。


「環センパイ、夕センパイ、ありがとうございました。

 おかげで紗枝、ちょっとすっきりです。

 お礼にこれどうぞ。

 私がウチで作ったものです。

 気休めですけど。」


 そう言い残し、紗枝は去って行った。

 私も夕にお休みを言う。

 きっちりと、夕が部屋の鍵をかける、カチャン、という音を確認してから、自室に戻った。




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