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エイプリル・フール  作者: いちい
緑青に錆びゆく縁
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4章 2話



昨日、更新できなくてすいませんでした。






 




 夕と二人で朝食をとるため食堂へ向かう途中、夕がそのへんの男子生徒を捕まえ、逸樹を呼ぶように頼んでいた。

 頼まれた男子生徒は、顔を真っ赤にして、ぼんやりとした表情で頷くと、男子寮の方へと走っていった。

 ………魔性の女?

 …夕に限ってそれはないか。


 二人でそのまま食堂に入る。

 今日は和食にしよう。


 私は和風の、夕は洋風のモーニングセットを注文して、空いている席につく。

 まだ早い時間のせいか食堂は混んではおらず、空いた席は簡単に見つかった。


 食堂で食事をとっているうちに、逸樹がやってきて、合流することができた。

 どうやら、逸樹は以前借りた会誌を部屋で読んでいたため在室中だったらしい。

 男子生徒を介した伝言は無事受け取られたようで、良かった。

 やはり夕は魔性の女なのかもしれない。


「それで、今日はどうするんだ?」


 逸樹か尋ねる。


「今日は、昨日と一昨日の間、皆が何をしてたのか訊いてみようと思って。


「それなら部室に行ってみるか。

 もしかしたら、誰かいるかもしれない。」





 そうして、私たちは部室に向かうことになった。

 傘をさしさし、部室棟へと足を進める。


 道すがら3人で、今分かっている情報をすりあわせることにした。


「まず、部長の事件のときからだよね。

 あの時、私たちは一緒に戻ったから、身内で怪しいのはあの場所にいなかった都馬くらいだけど…。」


「だけどその後、津宮先輩は死んだじゃないか。」


 逸樹が否定する。

 しかし、横から夕が、逸樹の脳天に空手チョップを落とした。


「皆で帰ったのは4時半くらいでしょーが。

 ホントーにバカチンなんだからー。

 噂だと部長が死んじゃったのって6時くらいでしょー?戻ってヤれない時間じゃないよぅ。」


 逸樹は足を止めて、頭を抱えてぷるぷるしている。

 夕の言うことを聞いている余裕はない様子だ。

 確かにアレは痛い。

 私は思わず、自分の頭をさすった。


「じゃあ今度は都馬の時かな。

 いつ死んだのか、詳しくは分かってないけど。」


「あー、それならアタシらと別れてすぐ自室に戻ったみたいだし、その後すぐじゃないー?

 アタシはちょっと寄り道してから寮に戻ったけど、エントランスで男子がそう言ってるのきいたー。

 なんか顔色悪すぎて、変に目立ってたみたいねぇ。

 足早に部屋の方に向かってたらしいけど、『まるでユーレイでも見たみたいだ』ったってー。」


 思いがけず、夕から情報が入った。

 逸樹が続ける。


「そういえばあの日の津宮先輩、俺が来た時から既に、やけに顔色悪かったな。

 一応言っておくと、俺が来た時には、津宮先輩と千秋さん、あとそれから白石先生に九重先輩もいた。」


「アタシはその次だったよー。

 アタシの次が、紗枝ちゃんだったねぇー。」


 夕も言う。


 確かにあの日の都馬の顔色は尋常ではなかった。

 いったい何があったのだろう。


 話しているうちに、気がつくと私たちは最後の階段を上り終えて、部室の前に着いていた。


 私は鍵を開けようとするが、すでに鍵は開いていた。

 ふと、部屋の前の傘立てが視界に入る。

 濡れた傘が2本入っている。

 1本は紺色の紳士傘、もう1本は白地に柔らかいタッチの桜色をした花模様がついている傘。


 誰かいるようだ。

 私は扉を開く。





 中にいたのは、千秋さんと白石先生だった。

 何を話していたのかは知らないが、私が扉を開くと同時に、二人ともこちらへ目を向ける。


「白石先生はともかく、千秋さんはどうしてここに?」


 私が尋ねると、千秋さんは言った。


「あの、古い会誌をお借りしたのですが、は、早く返さないといけない、と、思いまして…。

 こ、ここに来て、鍵をどうしようかと思っていましたら、開いていて、なかに白石先生がいらっしゃったのです。

 それで、えっと、そのまま先生に感想を求められまして…。」


 私は呆れてしまった。

 どうやらこの本マニアは、千秋さんにまで迷惑をかけたらしい。

 ただでさえ今、キャンパスは物騒なのに、こんな時に何をやっているのか。

 言葉も出ない。


「あー、そうだぁ。

 昨日集まったとき、トーマの顔色悪かったじゃん?

 何か知らないー?」


 私の後ろの方から尋ねたのは、夕だった。


「昨日は僕が一番最初にここに来たけれど、彼が着いたのは僕の次だったよ。

 普段あまり機会もないから、去年の作品の中の、僕のお気に入りの話をしていたんだが。

 どうやら彼はお気に召さなかったようでね。」


 白石先生が苦笑する。

 お気に入り…?

 そんな話、あったのか。


 夕も同じように感じたようだ。


「えー、先生のお気に入りなんて、初耳ですー。

 千秋ちゃん、なんてタイトルのか分かるー?」


 急に話を振られて千秋さんはやや混乱ぎみの様子だが、すぐに答えてくれた。


「え、ええっと……。

 確か、七海という方のものだったかと。

 ちょっとタイトルまでは…。

 それでは私、用事も済みましたし、寮に戻ります。

 失礼いたしますね。」


 千秋さんは一礼してその場を去ろうとした。

 しかし、逸樹が引き止める。


「な、なんでしょうか?」


「いや、物騒だし、俺らの用ももうないから。

 一緒に行かないか?」


 この鶴の一声で、私たちは4人で寮に戻ることになるかと思われたが、白石先生が千秋さんにもう少し作品の意見をききたいと言ったため、彼女は部室に残った。


 最終的に、来たときと同じく3人で帰路につく。


 白石先生の本談義に付き合えるなんて…。

 私も以前巻き込まれたが、なかなかにマニアックで辛かった。

 本への愛は分かるのだが、もう少し自重というものを知って欲しいと願ったものだ。


 かくして3人で黙々と、私たちは寮に帰った。

 もっとも、その後も私は夕から離れるわけにはいかないので、皆で昼食を食べた後は夕の部屋に直行だけれど。







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