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エイプリル・フール  作者: いちい
緑青に錆びゆく縁
23/45

閑話 斜陽のメモリー



4章突入です。



 



 夕暮れ時の、誰にも省みられないような閑静な公園で、少年がブランコに乗ってぼんやりしている。

 夕方とはいえ太陽が眩しいのか、少年は目を細める。

 そこに、活発そうな少女が、公園の入り口をくぐってやって来た。


 彼らがここで知り合ってから、もう一年という月日が過ぎようとしていた。


 二人はここ一年間で、互いに良き友人であり、理解者でもあったのだ。


 だからこそ少年は伝えたくなかった。

 あのことを。


 しかしそれは彼にはどうしようもないことだ。


 少年は覚悟を決めて、口を開いた。


 少年から口を開く。

 それは彼らの付き合いの中でも初めてのことであり、少女は彼がいったい何を言うのかと、幼いながらも固唾を呑む。


「君に話さないといけないことがある。」


 少年は静かに言った。


「なあに?」


 少年はやはり、まだ思い切りがつかないのか、ここで一度口を閉ざしてしまう。


 生ぬるい風が吹き、頬を撫でていく。

 少女が身震いする。


 少年は、再び語る。


「実は僕は、遠くに行かないといけなくなったんだ。」


「えっ?」


 少女は大きく目を見開く。

 突然の事態に困惑を隠せない様子だ。


 少年に問う。


「じゃあ、もう会えないの?」


 最初はしゃくりあげるだけだったのだが、とうとう少女は泣き出してしまった。


「そんなことはない、と思うけど…。」


 少年は少女を宥めようと、必死に背中をさすっている。

 その甲斐あってか、しばらくして少女は泣き止んだ。


 しかし、少年は知らない。

 ここからが少年にとっての悪夢だということを…。


 少女は顔をきっ、と上げると、小さな拳を突き上げ凛々しく宣言する。


「じゃあたまき、佐久間君とけっこんする!」


 彼女は爆弾を投下した。

 某お騒がせ国がしばしば発射する、へなちょこミサイルなどの比ではない。

 その一言が少年の心に与えた衝撃たるや、某強国の核爆弾並みだった。

 彼は大混乱に陥る。


「う…ううんと。なんでそうなったの?」


 少年はなんとか言葉をひねり出した。


 対して少女は、先ほどまでとはうってかわり、にこにことして答える。


「あのねー、ぱぱとままがいってたの。

『ふうふ』は、ずっといっしょではなれないんでしょ?

 たまき、君とけっこんしたら、ずっとはなれないでいられるよね?」


 誰だ、そんなことを子供に吹き込んだバカ親は…。

 瞬間的に少年の脳内を、知りうる限りの語彙を用いた悪態が駆け抜ける。

 頭どころか、胃にまでダメージを受けそうだ。


「いやでも、僕たちはまだ6歳…。」


 少年が弱々しく抵抗した。


 がんばれ少年。

 負けるな。強く…強く生きるんだ!


 しかし、現実は無情だった。


 少女は無自覚に、少年にとどめをさす。


「あいがあれば、いいんだよ。」


 イイ笑顔で言い切られた。


 ああ…。

 もはや打つ手はないのか?

 どうしてこうなった…。


 少年は点を仰ぐ。


 先ほどまではどこかよそよそしいとさえ思った空の赤い色が、なぜかひどく少年の目に()みた。




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