閑話 斜陽のメモリー
4章突入です。
夕暮れ時の、誰にも省みられないような閑静な公園で、少年がブランコに乗ってぼんやりしている。
夕方とはいえ太陽が眩しいのか、少年は目を細める。
そこに、活発そうな少女が、公園の入り口をくぐってやって来た。
彼らがここで知り合ってから、もう一年という月日が過ぎようとしていた。
二人はここ一年間で、互いに良き友人であり、理解者でもあったのだ。
だからこそ少年は伝えたくなかった。
あのことを。
しかしそれは彼にはどうしようもないことだ。
少年は覚悟を決めて、口を開いた。
少年から口を開く。
それは彼らの付き合いの中でも初めてのことであり、少女は彼がいったい何を言うのかと、幼いながらも固唾を呑む。
「君に話さないといけないことがある。」
少年は静かに言った。
「なあに?」
少年はやはり、まだ思い切りがつかないのか、ここで一度口を閉ざしてしまう。
生ぬるい風が吹き、頬を撫でていく。
少女が身震いする。
少年は、再び語る。
「実は僕は、遠くに行かないといけなくなったんだ。」
「えっ?」
少女は大きく目を見開く。
突然の事態に困惑を隠せない様子だ。
少年に問う。
「じゃあ、もう会えないの?」
最初はしゃくりあげるだけだったのだが、とうとう少女は泣き出してしまった。
「そんなことはない、と思うけど…。」
少年は少女を宥めようと、必死に背中をさすっている。
その甲斐あってか、しばらくして少女は泣き止んだ。
しかし、少年は知らない。
ここからが少年にとっての悪夢だということを…。
少女は顔をきっ、と上げると、小さな拳を突き上げ凛々しく宣言する。
「じゃあたまき、佐久間君とけっこんする!」
彼女は爆弾を投下した。
某お騒がせ国がしばしば発射する、へなちょこミサイルなどの比ではない。
その一言が少年の心に与えた衝撃たるや、某強国の核爆弾並みだった。
彼は大混乱に陥る。
「う…ううんと。なんでそうなったの?」
少年はなんとか言葉をひねり出した。
対して少女は、先ほどまでとはうってかわり、にこにことして答える。
「あのねー、ぱぱとままがいってたの。
『ふうふ』は、ずっといっしょではなれないんでしょ?
たまき、君とけっこんしたら、ずっとはなれないでいられるよね?」
誰だ、そんなことを子供に吹き込んだバカ親は…。
瞬間的に少年の脳内を、知りうる限りの語彙を用いた悪態が駆け抜ける。
頭どころか、胃にまでダメージを受けそうだ。
「いやでも、僕たちはまだ6歳…。」
少年が弱々しく抵抗した。
がんばれ少年。
負けるな。強く…強く生きるんだ!
しかし、現実は無情だった。
少女は無自覚に、少年にとどめをさす。
「あいがあれば、いいんだよ。」
イイ笑顔で言い切られた。
ああ…。
もはや打つ手はないのか?
どうしてこうなった…。
少年は点を仰ぐ。
先ほどまではどこかよそよそしいとさえ思った空の赤い色が、なぜかひどく少年の目に染みた。




